くらシム
投資

企業型DCのマッチング拠出と選択制DC|2024年12月改正で月5.5万に統一された拠出枠を法令から読む

確定拠出年金法第69条に基づく企業型DCの拠出限度額は2024年12月から月5.5万円に統一。マッチング拠出は加入者掛金≦事業主掛金が要件、選択制DCは社会保険料の標準報酬から外れる仕組み。iDeCo併用上限「55,000円−事業主掛金」と所得税・社保・将来年金への影響を月23,000円拠出の試算で読み解きます。

「給与明細の控除欄に『確定拠出年金 23,000円』と書かれているけれど、これは何が引かれているのか」——人事に問い合わせる前に、この記事で仕組みを把握しておきたい。

企業型DC(企業型確定拠出年金)には、似て非なる3つの選択肢がある。事業主掛金のみマッチング拠出選択制DC。さらに2024年12月の確定拠出年金法施行令改正で 拠出限度額の計算ルール が変わり、iDeCo併用の上限も書き換わった。

ここでは、各制度の根拠条文と数字を整理し、年収500万円の会社員が月23,000円拠出するとどう変わるかを試算する。

---

まず確定拠出年金法第69条を読む

確定拠出年金法 第69条第1項は、企業型DCの拠出限度額を以下のように定めている(2024年12月施行・政令第11条で月額化)。

```
【拠出限度額(月額)】
① 他制度(DB・厚生年金基金等)に加入していない場合
→ 月 55,000円

② 他制度に加入している場合
→ 月 55,000円 − 各月の他制度掛金相当額
※ ただし他制度掛金相当額は最大 27,500円
```

2024年11月まではこの仕組みが違った。

区分〜2024年11月2024年12月以降
企業型DC単独月 55,000円月 55,000円
企業型DC + DB等月 27,500円(固定)月 55,000円 − 他制度掛金

旧制度では DB を併用しているだけで枠が半分になっていたが、新制度では DBの実際の掛金分だけ差し引く 形になった。たとえばDB相当掛金が月10,000円の人は、企業型DCに 月45,000円 まで拠出できる(旧制度の27,500円から1.6倍に拡大)。

逆に DB の積立が手厚く相当掛金が月30,000円を超える人は、企業型DCの枠は 月25,000円以下 に縮小する。会社が手厚いDBを持っているほどDC枠は小さい、という関係が明確になった。

---

マッチング拠出:自分のお金を上乗せできる制度

マッチング拠出は、確定拠出年金法 第3条第3項第7号の2 に基づき、加入者本人が事業主掛金に上乗せして拠出 する制度。

```
【マッチング拠出の2要件】
要件①:加入者掛金 ≦ 事業主掛金
要件②:事業主掛金 + 加入者掛金 ≦ 拠出限度額
```

具体例:

事業主掛金マッチング可能額合計
月10,000円月10,000円まで月20,000円
月20,000円月20,000円まで月40,000円
月30,000円月25,000円まで(限度額55,000円までで頭打ち)月55,000円
月45,000円月10,000円まで(限度額まで)月55,000円

事業主掛金が少ない人ほどマッチング可能額も少ない、というのが意外な落とし穴。月5,000円しか掛金がない会社にいると、マッチングは月5,000円までしかできない。この場合は次に説明する iDeCo併用 のほうが多く積み立てられる。

マッチング拠出と iDeCo はどちらが有利かは、年収・事業主掛金・運用利回りで変わる。企業型DC vs iDeCo 比較シミュレーターで個別の試算ができる。

---

選択制DC:給与の一部を「先に」DCに回す仕組み

選択制DC(選択型確定拠出年金)は、就業規則上の 「給与原資の一部を、本人が DC拠出 か 給与受取 で選択できる」 設計。

法律上は事業主掛金として処理されるが、原資は「給与にもなり得たお金」である点が特殊だ。

選択制DCの最大のメリット:標準報酬月額から外れる

通常の給与に上乗せされる iDeCo の掛金は、標準報酬月額の対象 になる(社会保険料・厚生年金保険料の計算ベース)。一方、選択制DCで拠出される額は そもそも給与として支給されていない 扱いになるので、

```
【選択制DCの社保軽減】
給与原資 月450,000円 のうち、月23,000円を選択制DCに拠出
→ 標準報酬月額の対象は 月427,000円 になる
→ 社会保険料率15%(労使折半後の本人負担分)として
月23,000円 × 15% = 月3,450円 の社保軽減
→ 年間で 約 41,400円 が手取りに残る
```

この社保軽減効果は、マッチング拠出やiDeCoにはない選択制DC固有のもの。

ただし「将来の年金」と「傷病手当金」が減る

ここが選択制DC最大の注意点。標準報酬月額が下がる = 厚生年金の報酬比例部分が減る。

  • 月23,000円分を10年間選択制DCに回した場合、標準報酬月額は2等級程度下がる
  • 厚生年金の 報酬比例部分 が年 約15,000〜25,000円減る(生涯換算で 30〜50万円)
  • 傷病手当金・出産手当金の日額(標準報酬日額の2/3)も同様に下がる

つまり選択制DCは 「今の社保負担を減らす代わりに、将来の年金と短期の保障を一部諦める」 トレードオフ。

年金がどれだけ減るかを試算するなら、年金受給額シミュレーターで標準報酬月額を変えてシミュレーションすると影響が見える。

---

iDeCo併用:2024年12月以降の新ルール

2024年12月の改正で、企業型DC加入者がiDeCoを併用する場合の上限も書き換わった。

```
【企業型DC加入者のiDeCo拠出上限】
2024年11月まで:
月 20,000円(事業主掛金 ≦ 月35,000円が条件)

2024年12月以降:
月 20,000円 かつ
月 (55,000円 − 各月の事業主掛金(DB等含む)) 以下
```

つまり、事業主掛金が月35,000円を超える人は iDeCo の枠が月20,000円より小さくなる。

事業主掛金(DB含む)iDeCo拠出上限
月10,000円月20,000円(55,000−10,000=45,000円 ≧ 20,000円のため上限ルール優先)
月25,000円月20,000円(55,000−25,000=30,000円 ≧ 20,000円のため上限ルール優先)
月40,000円月15,000円(55,000−40,000=15,000円)
月50,000円月5,000円(55,000−50,000=5,000円)
月55,000円月0円(拠出不可)

事業主掛金が手厚い大企業の社員ほどiDeCoの枠が削られる、という構造になっている。

NISAとの併用も含めた節税効果ランキングは節税効果ランキングシミュレーターで確認できる。

---

年収500万円・月23,000円拠出の試算

年収500万円(給与所得控除後 356万円、社会保険料控除後 約281万円、基礎控除48万円後の課税所得 約233万円、所得税率10%)の会社員を例に、月23,000円(年27.6万円)を各方式で拠出した場合の節税額を比較する。

方式所得税軽減住民税軽減社保軽減年間トータル将来年金への影響
マッチング拠出(27.6万円)約27,600円約27,600円0円約55,200円なし
iDeCo(27.6万円)約27,600円約27,600円0円約55,200円なし
選択制DC(27.6万円)約27,600円約27,600円約41,400円約96,600円厚生年金年15,000〜25,000円減

選択制DCの年間トータル節税額は他の方式の 約1.75倍。ただし、生涯で受け取る厚生年金は 30〜50万円減る 計算なので、

```
【生涯収支の比較】
選択制DC: +96,600円 × 拠出年数 − (将来年金減 30〜50万円)
マッチング・iDeCo: +55,200円 × 拠出年数(将来年金減なし)

例: 10年拠出の場合
選択制DC: 96.6万 − 40万 = 約56.6万円のプラス
マッチング: 55.2万円のプラス
→ ほぼトントン
```

選択制DCの優位性は 拠出年数が短い人ほど大きい(10年未満は選択制DC有利、20年以上は差が縮む)。

---

どの制度を選ぶべきかフローチャート

```
【あなたの企業型DC環境は?】

会社にDC制度がない
→ iDeCo一択(自営業向け上限 月68,000円、会社員 月23,000円)

会社にDC制度がある(事業主掛金のみ)
├ 余剰資金が多い(月3万円以上拠出したい)
│ → マッチング拠出 or iDeCo併用を検討
└ 余剰資金は月1〜2万円
→ 事業主掛金で十分、NISA優先のほうが流動性で有利

会社にDC制度がある(選択制DC選択可)
├ 30代以下で勤続見込み長い
│ → 選択制DC+マッチングのほうが社保軽減で有利
└ 50代以上で年金受給直前
→ 通常給与+iDeCoのほうが標準報酬を下げず将来年金維持
```

50代以上で選択制DCを選ぶと、退職前の標準報酬が下がり「老齢厚生年金の報酬比例部分」を直撃する。報酬比例部分は 直近の標準報酬月額平均 ではなく 生涯の平均 で決まるが、加入期間後半の影響は大きい。

新NISA vs iDeCo 比較シミュレーターでは、流動性(途中引き出しの可否)まで含めた比較ができる。

---

FAQ

Q. マッチング拠出とiDeCo、どっちが手数料が安い?

A. マッチング拠出は 加入手数料・口座管理手数料が事業主負担 のことが多く、本人負担は数百円/月以下。iDeCoは加入時2,829円+運営管理機関手数料 月171〜500円程度かかる。長期では年2,000〜6,000円のコスト差。ただしマッチング拠出は 会社の運営管理機関が決めた商品しか選べない(多くは10〜35本)ので、iDeCoの自由な商品選択と引き換えのコスト差と捉えるべき。

Q. 選択制DCは退職金代わりになる?

A. 選択制DCの拠出金は 退職一時金として受け取ると退職所得控除が使える(勤続20年で800万円、それ以降は年70万円ずつ枠が増える)。一方で給与の一部を回したものなので、会社の退職金制度とは別建てで、規約上「退職金の一部」とされていないことが多い。会社の就業規則と確定拠出年金規約を確認する必要がある。

Q. 2024年12月の改正で得した人・損した人は?

A. 得した人:DB併用で従来 月27,500円までしか拠出できなかった大企業の社員(DB相当掛金が小さい場合は月55,000円近くまで拠出可能に)。損した人:DB相当掛金が大きい一部の社員、または企業型DCの事業主掛金が月35,000円を超えていてiDeCo20,000円の枠が削られる社員。

Q. この計算の前提データはどこから?

A. 拠出限度額は 確定拠出年金法 第69条 および同法施行令 第11条(2024年12月施行)。マッチング拠出の要件は 同法 第3条第3項第7号の2 および第19条第3項。iDeCo併用上限は 同法施行令 第36条(2024年12月改正)。社会保険料率は協会けんぽ東京支部の2026年度料率(健康保険9.98%、厚生年金18.3%、合計28.28%の労使折半後14.14%を使用)。

Q. 数字が実感と合わない場合は?

A. 標準報酬月額の計算は4〜6月の3か月平均で算定するため、賞与の比率・残業代の波で大きく変動する。試算と実額が合わない場合は、給与明細の「健康保険料」「厚生年金保険料」の本人負担額から逆算した標準報酬月額をベースに再計算してほしい。お問い合わせフォームで個別の試算もできる。

---

まとめ:3つの選択肢の使い分け

制度主なメリット主なデメリット向く人
マッチング拠出手数料が会社負担、給与天引きで自動商品選択肢が限定的会社の事業主掛金が手厚く、運用商品にこだわらない人
iDeCo併用商品選択が自由、転職時もポータブル手数料が本人負担、申込み手続き必要投資商品の選択にこだわる人、転職可能性ある人
選択制DC社保軽減で年4万円超の追加効果将来年金・傷病手当金が減る30代以下で長期拠出、短期保障を重視しない人

「うちの会社にどの制度があるか分からない」という人は、人事の給与担当か、会社の確定拠出年金 規約 を取り寄せて確認するのが早い。規約は法令上、加入者が請求すれば事業主は速やかに開示する義務がある(確定拠出年金法 第54条)。

2024年12月の制度改正は「DB相当掛金の実額化」と「iDeCo併用枠の動的計算」が同時に走ったため、人事担当者でも誤った説明をするケースが残っている。給与明細・規約・確定拠出年金法を突き合わせて、自分の枠を 数字で 把握しておくのが、長期で50万円以上の差を生む。

この記事の内容をシミュレーションしてみましょう

あなたの条件を入力すると、具体的な数字で結果が分かります

シミュレーターを使う

広告

関連記事

広告