障害年金の仕組み|うつ病も対象・2級で年83.2万円+子の加算・会社員と自営業で年100万円超の差
障害年金は身体障害だけの制度ではなく、新規受給の約6割は精神・知的障害です。受給の3要件(初診日・保険料納付・障害状態)、障害基礎年金2級83.2万円/1級104.0万円+子の加算23.9万円、障害厚生年金の報酬比例の計算式と加入300ヶ月みなしの特例を計算例つきで解説。初診日に厚生年金か国民年金かで受給額が年100万円以上変わる理由も整理します。
「障害年金は、生まれつきの障害や事故で身体が不自由になった人のための制度」——そう思っているなら、半分以上が誤解だ。実際に新しく障害年金を受け取り始める人のうち約6割は、うつ病・統合失調症などの精神障害や知的障害・発達障害である(厚生労働省・障害年金業務統計)。働き盛りの会社員が病気で長期間働けなくなったときの「公的な就業不能保険」——それが障害年金の実像に近い。
ところが老齢年金と違って自動的には始まらず、自分で請求しなければ1円も支払われない。仕組みを知っているかどうかで、年100万円超の差がつく制度の全体像を整理する。
障害年金は2階建て——「初診日」がすべての分かれ目
障害年金には障害基礎年金(国民年金)と障害厚生年金(厚生年金)の2種類があり、どちらを受け取れるかは「障害の原因となった病気・ケガで初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、どの年金制度に加入していたか」で決まる。
| 項目 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金 |
|---|---|---|
| 対象 | 初診日に国民年金加入(自営業・専業主婦(夫)・学生等) | 初診日に厚生年金加入(会社員・公務員) |
| 等級 | 1級・2級のみ | 1級・2級・3級+障害手当金(一時金) |
| 金額 | 定額+子の加算 | 報酬比例+配偶者の加給(1・2級は基礎年金も併せて受給) |
重要なのは、会社員が1・2級に該当すると障害厚生年金と障害基礎年金の両方を受け取れる点だ。さらに厚生年金には、日常生活は送れるが労働に制限がある状態を対象とする3級と、より軽い障害への一時金(障害手当金)があり、保障の範囲が国民年金より大幅に広い。退職して国民年金に切り替わった後に初診日を迎えると厚生年金側の保障は受けられない——「初診日にどこに加入していたか」が、それほど決定的に効く。
受給の3要件
障害年金を受け取るには、次の3つをすべて満たす必要がある。
- 初診日要件 — 障害の原因となった傷病の初診日が、国民年金または厚生年金の加入期間中にあること(20歳前や60〜65歳の未加入期間に初診日がある場合の特例もある)
- 保険料納付要件 — 初診日の前々月までの加入期間のうち、3分の2以上の期間で保険料を納付または免除されていること。これを満たさなくても、直近1年間に未納がなければよいという特例がある。なお初診日の後から未納分を慌てて納めても要件には算入されない
- 障害状態要件 — 障害認定日(原則、初診日から1年6ヶ月を経過した日)に、法令で定める1〜3級の障害状態にあること。認定日に軽くてもその後悪化した場合は「事後重症請求」で65歳前まで請求できる
学生時代に国民年金を未納のまま放置していて、その期間に初診日が来てしまい受給できない——という事例は後を絶たない。保険料を払えないときに「免除・納付猶予」の手続きをしておくことが、将来の障害年金の権利を守る保険になる。
いくらもらえるか——2025年度(令和7年度)の金額
障害基礎年金(定額)
| 等級 | 年額 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 1級 | 1,039,625円(2級の1.25倍) | 約8.7万円 |
| 2級 | 831,700円 | 約6.9万円 |
| 子の加算(第1・2子) | 各239,300円 | 各約2.0万円 |
| 子の加算(第3子以降) | 各79,800円 | 各約0.7万円 |
※子の加算は18歳到達年度末までの子が対象。金額は68歳以下(新規裁定者)の2025年度額。住民税非課税世帯等には年金生活者支援給付金(2級で月5,450円・1級で月6,813円)も上乗せされる。
障害厚生年金(報酬比例)
```
報酬比例部分(年額)= 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
※2003年3月以前の期間は計算式が異なる
※加入月数が300月(25年)未満なら300月とみなして計算
```
| 等級 | 年額 |
|---|---|
| 1級 | 報酬比例 × 1.25 + 配偶者の加給年金239,300円(+障害基礎年金1級) |
| 2級 | 報酬比例 + 配偶者の加給年金239,300円(+障害基礎年金2級) |
| 3級 | 報酬比例のみ(最低保障623,800円) |
| 障害手当金 | 報酬比例 × 2の一時金(最低保障1,247,600円) |
若くして障害を負った人は加入月数が短く、本来の計算では年金額がごくわずかになってしまう。これを防ぐのが300月みなしで、入社3年目の25歳でも「25年加入した」ものとして計算される。
実例:35歳会社員・子1人の場合
平均標準報酬額32万円・厚生年金加入150月の会社員(35歳・配偶者なし・子1人)が、うつ病で障害厚生年金2級に認定されたケースで計算してみる。
```
報酬比例部分 = 320,000円 × 5.481/1000 × 300月(みなし) = 526,176円
障害基礎年金2級 = 831,700円
子の加算(1人) = 239,300円
―――――――――――――――――――――――
合計 = 1,597,176円/年 ≒ 月13.3万円(非課税)
```
同じ病状・同じ収入でも、初診日に自営業(国民年金のみ)だった場合は障害基礎年金2級+子の加算の1,071,000円(月約8.9万円)にとどまり、差は年約53万円。さらに自営業には3級がないため、2級に満たない障害だと受給額はゼロになる。3級相当(最低保障623,800円)まで含めれば、会社員と自営業の保障差は年100万円を超える場面もある。フリーランスや自営業者が民間の就業不能保険を検討すべきだと言われる根拠はここにあり、必要保障額の目安は就業不能保険シミュレーターで確認できる。
なお障害年金は全額非課税だ。月13.3万円は、課税される給与収入に換算すれば月15万円前後に相当する。手取り感覚での比較は手取り計算シミュレーターが参考になる。
よくある誤解5つ
- 「障害者手帳の等級と同じ」→ 別物。 手帳3級で年金2級に認定される例も、その逆もある。判定基準も窓口も異なる
- 「働いていたらもらえない」→ 原則、就労との両立は可能。 特に障害厚生年金3級は「労働に制限がある」状態が対象で、働きながらの受給が前提に近い。ただし精神障害では就労状況が認定の参考にされる
- 「うつ病などの精神疾患は対象外」→ 新規受給の約6割が精神・知的・発達障害。 がん・糖尿病・心疾患など内部疾患も対象になる
- 「申請すれば自動的に認定される」→ 書類審査で不支給や想定より低い等級になる例は珍しくない。 診断書の内容と病歴・就労状況等申立書の整合性が結果を大きく左右する
- 「いつでも請求できる」→ 障害認定日から時間が経つと不利になることがある。 遡って受け取れるのは最大5年分まで。事後重症請求は原則65歳の誕生日の前々日までが期限
請求の流れ(5ステップ)
- 初診日を特定する — すべての起点。カルテの保存期間(5年)を過ぎている場合は受診状況等証明書が取れず、領収書や診察券で証明することもある
- 保険料納付要件を確認する — 年金事務所またはねんきんネットで納付記録を確認
- 診断書など必要書類を準備する — 障害の種類ごとに様式が異なる診断書を主治医に依頼。障害認定日と現在の2時点分が必要な場合もある
- 病歴・就労状況等申立書を作成する — 発病から現在までの経過を自分で記載する書類。診断書と矛盾しないことが重要
- 年金事務所(障害基礎年金のみは市区町村も可)に提出 — 審査は3ヶ月程度。結果に不服があれば審査請求(不服申立て)ができる
手続きが複雑なため、精神障害や初診日の証明が難しいケースでは社会保険労務士(障害年金専門)に依頼する選択肢もある。報酬相場は「年金額の2ヶ月分程度」が目安だ。
FAQ
Q. この記事の金額の根拠は?
日本年金機構の2025年度(令和7年度)年金額改定および国民年金法・厚生年金保険法の規定による。年金額は毎年度、物価・賃金に応じて改定されるため、最新額は日本年金機構のサイトで確認してほしい。受給者の傷病構成は厚生労働省「障害年金業務統計」に基づく。
Q. 自分がいくらもらえるか手早く知るには?
障害厚生年金の報酬比例部分は、おおまかには「年収 ÷ 12を平均標準報酬額とみなして計算式に当てはめる」と概算できる。自身の老齢年金見込みと合わせて年金受給額シミュレーターで水準感をつかみ、毎月の社会保険料がどう保障につながっているかは社会保険料シミュレーターで確認できる。
Q. 初診日から1年6ヶ月の間は無収入になる?
会社員なら健康保険の傷病手当金(給与の約3分の2・通算1年6ヶ月)がこの空白を埋める設計になっている。傷病手当金が終わるタイミングで障害年金にバトンタッチするのが典型パターン。国民健康保険には傷病手当金がないため、自営業者はこの1年6ヶ月も自力でしのぐ必要がある。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
配偶者の加給年金には生計維持要件(前年収入850万円未満)があるなど、個別事情で金額は変わる。正確な見込み額は年金事務所の予約相談で試算してもらえる。シミュレーターの結果に疑問があれば、お問い合わせフォームから連絡してほしい。
まとめ表:障害年金の要点
| 知っておくこと | 内容 |
|---|---|
| 分かれ目 | 初診日に厚生年金なら2階建て+3級あり。国民年金のみなら1・2級だけ |
| 金額(2025年度) | 基礎2級83.2万円/1級104.0万円+子の加算各23.9万円。厚生は報酬比例(300月みなし) |
| 権利を守る行動 | 保険料が払えないときは必ず免除・猶予の手続き。未納は障害年金の権利を直接奪う |
| 請求しないと始まらない | 遡及は最大5年。受診の記録(初診日の証拠)は捨てない |
| 民間保険との関係 | 障害年金で足りない分だけ就業不能保険で補うのが合理的。特に自営業は手厚めに |
公的保障の土台を正確に知ることは、保険の掛けすぎ・掛けなさすぎの両方を防ぐ第一歩になる。