教育訓練休暇給付金とは|会社を辞めずに\"失業手当と同額\"を最大150日——月給30万円なら月約17.7万円の学び直し給付を解説
2025年10月に創設された教育訓練休暇給付金は、在職のまま無給の学び直し休暇を取ると雇用保険から基本手当と同額(賃金の50〜80%)が90〜150日分支給される制度。要件は加入5年以上。月給別の受給額試算、講座費用を補助する教育訓練給付金との違い、受給で被保険者期間がリセットされる注意点まで、制度の根拠から解説します。
「会社を辞めずに、雇用保険から生活費をもらいながら学び直す」——2025年10月まで、日本の雇用保険にこの選択肢はありませんでした。失業手当(基本手当)は文字どおり"失業した人"のための給付で、在職者が大学院や職業訓練に通うために休職しても、収入の支えは一切なかったのです。
教育訓練休暇給付金は、この空白を埋めるために2025年10月1日に創設された新しい給付です。無給の教育訓練休暇を取った在職者に、失業手当と同額(離職前賃金の50〜80%)が90日・120日・150日分支給されます。リスキリングを国が後押しする流れの中でも「生活費そのもの」を支える給付は初めてで、使いこなせるかどうかで学び直しのハードルが大きく変わります。
制度の骨格——誰が・何をすると・いくらもらえるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創設 | 2025年10月1日(2024年成立の改正雇用保険法) |
| 対象者 | 雇用保険の被保険者で、加入期間5年以上+休暇開始前2年間に被保険者期間12ヶ月以上 |
| 対象となる休暇 | 就業規則等に基づく無給の教育訓練休暇(業務命令ではなく本人の希望で取得するもの) |
| 給付額 | 基本手当(失業手当)と同額=賃金日額×50〜80%(賃金が低いほど高率) |
| 給付日数 | 加入5年以上10年未満: 90日/10年以上20年未満: 120日/20年以上: 150日 |
| 対象期間 | 休暇開始から原則1年以内(妊娠・出産・育児等の理由があれば最大4年まで延長可) |
| 手続き | 勤務先を通じてハローワークに申請し、30日ごとに休暇の取得状況を申告 |
対象になる訓練は、①大学・大学院・短大・高専・専修学校などの学校教育、②教育訓練給付の指定講座、③その他の職業に関する訓練です。「大学院でMBAを取る」「専門実践教育訓練の指定を受けた看護・IT系の課程に通う」といった本格的な学び直しが典型例になります。
いくらもらえる?月給別の試算
給付額は失業手当の計算式そのままです。賃金日額(=直近6ヶ月の賃金÷180)に50〜80%の給付率を掛け、年齢別の上限(令和8年8月1日改定で30〜44歳8,270円・45〜59歳9,110円)でカットされます。失業保険シミュレーターと同じ計算式で試算すると次のとおりです。
| 月給(賞与除く) | 賃金日額 | 日額 | 月額換算(28日) | 90日分 | 150日分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 25万円(35歳) | 8,333円 | 5,776円 | 約16.2万円 | 約52.0万円 | — |
| 30万円(40歳) | 10,000円 | 6,307円 | 約17.7万円 | 約56.8万円 | — |
| 50万円(45歳) | 16,667円 | 8,334円 | 約23.3万円 | — | 約125.0万円 |
例えば月給30万円・加入15年の40歳なら、給付日数は120日。6,307円×120日=約75.7万円が無給休暇中の生活費として支給されます。手取り月収(約24万円)の7割強に相当する額が4ヶ月続く計算で、「貯金を取り崩しながら耐える」学び直しとは資金計画がまったく変わります。
計算のステップはシンプルです。
```
賃金日額 = 直近6ヶ月の賃金総額 ÷ 180
日額 = 賃金日額 × 給付率(50〜80%、賃金が低いほど高率)
総額 = 日額 × 給付日数(90日/120日/150日)
```
なお給付は非課税です(雇用保険法第12条により失業等給付には税金がかかりません)。在職中の手取りとの比較は手取り計算シミュレーターで確認できます。
「教育訓練○○給付金」3兄弟の違い
名前がまぎらわしい給付が3つあるので、役割を整理しておきます。
| 給付 | 支えるもの | 対象者 | 額 |
|---|---|---|---|
| 教育訓練給付金 | 講座の受講費用 | 在職者・離職者 | 費用の20%〜最大80%(講座の種類による) |
| 教育訓練休暇給付金(本記事) | 休暇中の生活費 | 在職者(無給休暇取得) | 基本手当と同額×90〜150日 |
| 教育訓練支援給付金 | 訓練中の生活費 | 45歳未満の離職者 | 基本手当の60%相当(2026年度末までの暫定措置) |
ポイントは、講座費用の補助(教育訓練給付金)と生活費の給付(教育訓練休暇給付金)が別の給付として設計されていることです。教育訓練休暇給付金の対象訓練には教育訓練給付の指定講座が含まれているため、指定講座で学ぶなら「費用は教育訓練給付金、生活費は休暇給付金」という組み合わせが制度上想定されています。学び直しの投資対効果そのものは学び直しROIシミュレーターや資格取得ROIシミュレーターで試算できます。
見落とすと痛い3つの注意点
1. 会社に「教育訓練休暇制度」がなければ始まらない
給付の前提は就業規則等に基づく無給休暇です。制度がない会社では、まず人事に導入を相談する必要があります(導入する企業側には人材開発支援助成金という別の支援があります)。「制度はあるが誰も使ったことがない」会社も多いはずで、2025年10月に始まったばかりの今は、社内第1号になる交渉から始まるケースが現実的でしょう。
2. 受給すると被保険者期間がリセットされる
最大の落とし穴です。教育訓練休暇給付金を受給すると、休暇開始前の被保険者期間は、その後の失業手当の算定から原則除外されます。たとえば加入20年で150日分を受給した後に自己都合退職すると、失業手当の給付日数は「加入20年→150日」ではなく、休暇後に積み直した期間で決まります(倒産・解雇等の場合は例外的に通算されます)。「休暇給付を使い切った直後の転職」は失業手当の保護が薄い状態で行うことになる、と覚えておいてください。
3. 復職前提の制度である
業務命令による研修や、有給休暇・休職手当が出る休暇は対象外です。あくまで「本人の意思で、無給で、学ぶために休む」ことへの給付で、30日ごとにハローワークへの申告が必要です。訓練実態がないと支給されません。
辞めて学ぶ人にも追い風——給付制限の解除
「在職のまま」ではなく退職して学び直す場合にも、2025年4月から重要な変更があります。自己都合退職の失業手当には原則1ヶ月の給付制限(2ヶ月から短縮)がありますが、離職期間中や離職前1年以内に自ら教育訓練を受けた場合、この給付制限が解除されます。つまり「辞めてすぐ職業訓練や指定講座に入る」人は、待期7日だけで失業手当の受給が始まります。
- 在職のまま学ぶ → 教育訓練休暇給付金(本記事)
- 辞めて学ぶ → 基本手当+給付制限解除(+45歳未満なら教育訓練支援給付金)
どちらのルートでも、収入が途切れる期間の資金計画が要になります。休暇・離職中に何ヶ月暮らせるかは失業期間の必要資金シミュレーターで確認しておくと安心です。
よくある質問
Q. この記事の前提データはどこから?
厚生労働省「教育訓練休暇給付金のご案内」リーフレット、および同省「雇用保険の基本手当日額の変更」(令和8年8月1日改定・令和8年7月31日発表)に基づいています。日額の上限は毎年8月に改定されます。
Q. パート・契約社員でも使えますか?
雇用保険の被保険者で、加入5年以上+直近2年間に12ヶ月以上の要件を満たせば雇用形態は問いません。ただし週20時間未満で雇用保険に入っていない場合は対象外です。
Q. 通信制大学や夜間のオンライン講座でも対象になりますか?
学校教育法上の大学等や教育訓練給付の指定講座であれば対象になり得ますが、「教育訓練のための休暇」を取得していることが前提です。働きながら夜間・通信で学ぶだけなら休暇を取っていないため対象外です(その場合は費用補助の教育訓練給付金や通信教育のコスト比較を検討してください)。
Q. 給付日数の90日・120日・150日は連続で取る必要がありますか?
原則、休暇開始から1年以内の休暇取得日について支給されます。分割取得の可否など運用の詳細は勤務先の制度設計とハローワークの確認が必要です。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
このページの試算は概算です。賃金日額には残業代・諸手当が含まれ賞与は含まれないため、実際の額は離職票ベースの計算と差が出ることがあります。正確な受給額はハローワークで確認のうえ、当サイトの計算がおかしいと思われる場合はお問い合わせからお知らせください。
使うと決めたら——次のアクション
- 就業規則に教育訓練休暇(無給)の定めがあるか確認する。なければ人事に導入を相談
- 自分の雇用保険加入期間を確認する(5年・10年・20年の壁で給付日数が変わる)
- 学びたい講座が対象訓練(大学等・指定講座)に当たるかハローワークで確認する
- 失業保険シミュレーターで日額の目安を計算し、休暇中の家計収支を組む
- 費用側の補助(教育訓練給付金・最大80%)の対象講座かどうかも同時に調べる
「辞めずに学ぶ」コストは、この給付の登場で確実に下がりました。加入20年なら約5ヶ月分の生活費が雇用保険から出る——学び直しを先送りしてきた人ほど、一度数字を計算してみる価値があります。