10月から最低賃金は東京1,280円・鹿児島+64円|パート月収は約4,700〜5,500円増、なのに「働ける時間」は減る——扶養の壁との衝突を検算する【2026年】
2026年度の最低賃金は8月末時点で43都道府県が答申を公表。東京1,280円(+54円)・神奈川1,279円・大阪1,231円、引き上げ幅最大は鹿児島の+64円で、目安の全国加重平均は1,176円。週20時間パートの月収は約4,700〜5,500円増える一方、東京では週16時間で月8.8万円の社会保険ラインに到達する。時給別の「壁に届く週時間」早見表と、9月中にやっておくべき確認をまとめた。
時給が54円上がるのに、10月になると「シフトを週1時間削ってほしい」と頼むパートが増える——毎年この時期に繰り返される、少し不思議な光景だ。
理由は単純で、最低賃金の引き上げは「時給×時間」の時給だけを押し上げるため、年収の壁を意識して働いている人ほど、同じ収入ラインに収めるには時間を減らすしかなくなるからだ。2026年10月の改定は目安ベースで全国加重平均1,176円(+55円)と過去2番目の引き上げ幅。壁との衝突も、その分だけ大きくなる。
この記事では、8月末時点で出そろいつつある47都道府県の答申額を整理したうえで、「パートの月収は実際いくら増えるのか」「何時間働くと壁に届くのか」を時給別に検算する。
2026年度の答申状況——43都道府県が公表、最高は東京1,280円
中央最低賃金審議会が7月28日に示した目安は、全国加重平均1,176円(Aランク+54円・B/Cランク+56円)。これを受けた各都道府県の地方審議会の答申は、2026年8月28日時点で43都道府県が公表済みで、目安を上回る答申を出した県が多数を占めた。
| 都道府県 | 現行(〜9月) | 答申額(10月〜) | 引き上げ額 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1,226円 | 1,280円 | +54円 |
| 神奈川県 | 1,225円 | 1,279円 | +54円 |
| 大阪府 | 1,177円 | 1,231円 | +54円 |
| 埼玉県 | 1,141円 | 1,196円 | +55円 |
| 千葉県 | 1,140円 | 1,195円 | +55円 |
| 京都府 | 1,122円 | 1,180円 | +58円 |
| 鹿児島県 | 1,026円 | 1,090円 | +64円(引き上げ幅最大) |
| 宮崎県 | 1,023円 | 1,085円(答申済み中の最低額) | +62円 |
このほか高知+63円、茨城+62円、青森・福島・山梨・大分+61円など、地方部ほど目安(+56円)を上回る傾向が続いている。地域間格差の縮小が今年も進む形だ。岩手・佐賀・熊本・沖縄の4県は8月28日時点で未答申。発効日は都道府県ごとに異なり、Aランクの6都府県(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪)は10月1日発効の予定で、他県も多くが10月中に切り替わる(一部は11月以降にずれる県もある)。
47都道府県の金額と、生活費を加味した「実質的な手取り感」の比較は都道府県別の最低賃金比較シミュレーターで確認できる。答申額の決まり方(ABCランク制・目安と地方審議の関係)を仕組みから知りたい人は、最低賃金の決まり方を解説した記事にまとめてある。
パートの月収はいくら増える?——週20時間で月+4,700〜5,500円
計算はシンプルで、増える月収は「引き上げ額 × 月の労働時間」だ。週20時間(月86.7時間 = 20時間×52週÷12ヶ月)働くパートで検算すると次のようになる。
```
月収の増加額 = 引き上げ額 × 週の労働時間 × 52週 ÷ 12ヶ月
例(埼玉): 55円 × 20時間 × 52 ÷ 12 = 月4,767円
```
| 勤務地 | 10月からの時給 | 週20時間の月収 | 月の増加額 | 年間の増加額 |
|---|---|---|---|---|
| 東京 | 1,280円 | 110,933円 | +4,680円 | +56,160円 |
| 埼玉 | 1,196円 | 103,653円 | +4,767円 | +57,200円 |
| 京都 | 1,180円 | 102,267円 | +5,027円 | +60,320円 |
| 鹿児島 | 1,090円 | 94,467円 | +5,547円 | +66,560円 |
年5〜6万円台の増収。時給ベースで見れば確実なプラスだが、表の「月収」の列に注目してほしい。東京・埼玉・京都はいずれも週20時間で月収10万円を超えている。 ここで壁の問題が出てくる。
「働ける時間」の上限は毎年下がっている
配偶者の扶養内で働く人が気にする壁は、2026年時点で実質的に次の2つだ。
- 月8.8万円(年収約106万円)の壁 — 従業員51人以上の企業で「週20時間以上・月額賃金8.8万円以上」などの条件を満たすと、本人が勤務先の厚生年金・健康保険に加入する
- 年収130万円の壁 — 上の条件に当てはまらない場合(従業員50人以下など)でも、年収130万円以上になると配偶者の社会保険の扶養から外れ、自分で国民年金・国民健康保険に入る
なお税金の壁は2025年の税制改正で大きく緩和され、パート本人に所得税がかかり始めるラインは実質160万円程度まで上がった。いま家計への影響が大きいのは税金ではなく社会保険の壁である。それぞれの壁を越えたときの手取りの変化は年収の壁シミュレーターで試算できる。
では、10月からの時給で「壁に届く週の労働時間」はどこにあるのか。
| 10月からの時給 | 月8.8万円に達する時間 | 年収130万円に達する時間 |
|---|---|---|
| 1,280円(東京) | 月68.8時間 = 週15.9時間 | 月84.6時間 = 週19.5時間 |
| 1,176円(目安の全国平均) | 月74.8時間 = 週17.3時間 | 月92.1時間 = 週21.3時間 |
| 1,090円(鹿児島) | 月80.7時間 = 週18.6時間 | 月99.4時間 = 週23.0時間 |
東京では、週16時間——1日4時間×週4日——働くだけで月8.8万円に届く。130万円の壁ですら週19.5時間で到達するので、「週20時間未満に抑えれば大丈夫」という従来の感覚は、都市部ではもう通用しない。 数年前まで「週3日フルで入っても余裕」だった扶養内パートの枠は、時給の上昇とともに毎年静かに狭くなっている。
壁の内側に留まるか、越えてしまうか
シフトを削って壁の内側に留まるのが唯一の答えではない。判断材料を2つ挙げておく。
1つ目は、8.8万円の賃金要件が近く消えること。 2025年6月に成立した年金制度改正法で、短時間労働者が厚生年金に入る条件のうち「月額賃金8.8万円以上」の要件は撤廃されることが決まっている(施行は法公布から3年以内に政令で指定)。企業規模要件も段階的に縮小される予定で、「壁の手前で削る」戦術が使える期間はそう長くない。
2つ目は、社会保険に入ること自体は長期では損とは限らないこと。 保険料の分だけ手取りは減るが、厚生年金の受給額が上乗せされ、傷病手当金や出産手当金の対象にもなる。壁を越えて働いた場合に手取りと将来の年金がどう変わるかは、パート主婦の働き損ラインシミュレーターで具体的な金額を出してから決めても遅くない。
月給制の人も無関係ではない——検算式つき
最低賃金はパート・アルバイトだけの話に見えるが、月給制にも適用される。月給を月の所定労働時間で割った時給換算額が最低賃金を下回っていれば違法だ。
```
時給換算額 = (月給 − 通勤手当・家族手当・精皆勤手当・割増賃金)÷ 月所定労働時間
```
東京でフルタイム(月173時間)なら、10月からの下限は月給ベースで 1,280円 × 173時間 = 221,440円(年収約266万円)。目安平均の1,176円でも月203,448円だ。基本給が20万円前後の求人はこのラインに引っかかる可能性が出てくる。自分の給与を時給に直したことがない人は、時給換算シミュレーターで残業込みの実質時給も一度見ておくといい。
9月中に確認しておく3つのこと
- 自分の県の答申額と発効日 — 未答申4県(岩手・佐賀・熊本・沖縄)も9月中には出そろう見込み。発効日が10月1日でない県も多いので、切り替わり月を確認する
- 扶養内で働いている人は、年末までの収入見込み — 10〜12月の時給上昇分を織り込んで年収を再計算する。1〜9月を旧時給、10〜12月を新時給で足し合わせれば正確に出る。壁を越えそうなら、削るか越えるかを手取り計算シミュレーターの数字を見て判断する
- 月給制の人は時給換算の検算 — 特に地方で基本給17〜18万円台の場合、時給換算で新しい最低賃金を下回っていないか。下回っていれば会社は引き上げ義務を負う
時給の引き上げは、何もしなくても給与明細に反映される。ただ「いくら増えて、どのラインに近づいたか」を把握しているかどうかで、年末に慌てるかどうかが分かれる。10月の給与明細が出る前の9月が、その計算のしどきだ。
出典: 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(中央最低賃金審議会答申・2026年7月28日)、各都道府県労働局の地方最低賃金審議会答申(2026年8月28日時点の公表分)