会社員から起業へ|42歳ITエンジニアが退職〜起業1年目を乗り越えるお金のシミュレーション
年収680万円の会社員が退職・起業する際に直面するお金の問題を徹底試算。健康保険の移行コスト・年金変化・初年度税金・生活費の資金計画まで、ケーススタディ形式で公開。
「辞めたいけど、辞めたらどうなるんだろう」
田中誠さん(仮名・42歳・神奈川県在住)は、3年間温めてきたSaaSビジネスの構想を手に、昨年秋に大手IT企業を退職した。年収680万円の安定した収入を捨てて起業する決断は、お金の計算が不安で何度も先送りにしてきた決断だ。
この記事では、田中さんのモデルケースをもとに「退職〜起業1年目のお金の現実」を複数のシミュレーターで試算する。起業を考えている会社員が最も不安に感じる「手取りがどう変わるか」「社会保険料はいくらになるか」「いくら貯金があれば安心か」を、具体的な数字で答えていく。
田中さんのプロフィール
| 項目 | 退職前(会社員) | 起業1年目(想定) |
|---|---|---|
| 年齢 | 42歳 | 42歳 |
| 職業 | ITエンジニア(大手SIer) | 個人事業主(SaaS開発) |
| 年収 / 売上 | 680万円(額面) | 月0〜30万円(立ち上げ期) |
| 居住地 | 神奈川県横浜市 | 同上(自宅兼事務所) |
| 家族構成 | 妻(パート・年収100万円)・子1人(10歳) | 同上 |
| 社会保険 | 会社の健保・厚生年金 | 国保・国民年金に移行 |
| 手取り概算 | 約510万円 | 要計算 |
田中さんの貯蓄は900万円。「3年は食えなくてもいい」という覚悟があったが、計算するまでは「何年分の生活費になるか」が曖昧なままだった。
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STEP 1: 退職直後のキャッシュフロー試算
退職後に最初に直面するのは社会保険の切り替えだ。会社員時代は保険料の約半分を会社が負担していたが、独立後は全額自己負担になる。
健康保険の選択肢と費用比較
退職後の健康保険は3つの選択肢がある。
| 選択肢 | 月額保険料(田中さんのケース) | 備考 |
|---|---|---|
| 任意継続(旧職場の保険) | 約3.5万円 | 退職後2年間のみ。前年収入で算定 |
| 国民健康保険(横浜市) | 約4.8万円 | 前年所得680万円で算定 |
| 妻の扶養に入る | 0円 | 妻の年収100万円のため不可 |
田中さんの場合、任意継続が年間約15万円安い。ただし2年後は強制的に国民健康保険へ移行するため、2年目以降の所得見込みも含めて判断する必要がある。
退職後2年間(任意継続期間)の社会保険料の推計:
```
[退職1年目]
任意継続: 3.5万円 × 12 = 42万円
国民年金: 1.7万円 × 12 = 20.4万円(2026年度)
合計: 約62.4万円/年
[退職2年目以降]
国民健康保険: 約2.8万円/月(所得が下がれば大幅減額の可能性)
国民年金: 1.7万円 × 12 = 20.4万円
合計: 約54万円/年(年収200万円程度の場合)
```
会社員時代の社会保険料は、給与から天引きされていた本人負担分だけで年約106万円(健保・厚生年金・雇用保険の合計)。独立後はこれを全額自分で払うことになるため、初年度は年約44万円のコスト増になる計算だ(会社員時代は会社も同額程度を別枠で負担していたので、制度全体で見た負担増はさらに大きい)。
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STEP 2: 起業1年目の税金シミュレーション
売上が不安定な起業初年度の税金はどう変わるか。個人事業主の税金シミュレーターで試算した。
売上別・手取り試算(年間)
経費を月20万円(事務所代・ソフトウェア・交通費等)と仮定すると、年間経費は240万円。
| 年間売上 | 経費 | 所得 | 所得税+住民税 | 社会保険料 | 手取り概算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0円 | 240万円 | −240万円(赤字) | 0円(繰越控除可) | 62万円 | −302万円 |
| 200万円 | 240万円 | −40万円(赤字) | 0円 | 62万円 | −102万円 |
| 400万円 | 240万円 | 160万円 | 約10万円 | 62万円 | +88万円 |
| 600万円 | 240万円 | 360万円 | 約30万円 | 62万円 | +268万円 |
| 800万円 | 240万円 | 560万円 | 約63万円 | 62万円 | +435万円 |
※社会保険料(任意継続+国民年金)は前年(会社員時代)の所得を基準に決まるため、1年目は当期の売上規模にかかわらずほぼ一定になる。2年目以降は当期の所得を基準にした国民健康保険料に切り替わり、売上に応じて変動する。
田中さんの実際の想定は、立ち上げ期の6ヶ月は売上ほぼゼロ、後半6ヶ月で月平均30万円(年360万円)というシナリオだ。所得は360万円−240万円=120万円。所得控除で税負担はほぼゼロに抑えられ、社会保険料62万円を差し引いた事業単体の手取りは約+58万円という試算になった。事業だけを見れば初年度から黒字を確保できる見通しだが、生活費(STEP3で試算)は事業の利益とは別に貯蓄から取り崩す必要がある。
青色申告の申請は退職直後に
個人事業を開業したら、3月15日(前年開業の場合は開業から2ヶ月以内)までに青色申告承認申請書を提出する必要がある。田中さんのように赤字が見込まれる場合、青色申告の純損失の繰越控除(最大3年間)は特に重要だ。
青色申告のメリットシミュレーターで確認すると、年商400万円・経費240万円の場合に青色申告特別控除65万円を活用すれば、さらに税負担を約9万円削減できる計算だ。
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STEP 3: 生活費の資金計画
田中さん一家の月間生活費は次の通りだ。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 住居費(住宅ローン) | 9.5万円 |
| 食費 | 5.5万円 |
| 光熱費・通信費 | 2.8万円 |
| 子どもの教育費 | 3.0万円 |
| 医療・保険 | 1.5万円 |
| 車(ローン+維持費) | 2.5万円 |
| 社会保険料(任意継続+国民年金) | 5.2万円 |
| 雑費・娯楽 | 2.5万円 |
| 合計 | 32.5万円 |
妻のパート収入が月8万円あるため、月の純支出は約24.5万円。
貯蓄900万円は何ヶ月分か?
```
900万円 ÷ 24.5万円 = 約36.7ヶ月(約3年1ヶ月)
```
「3年は食える」という田中さんの直感は数字として正しかった。ただしこれは売上ゼロが続いた場合の計算であり、住宅ローンのボーナス払いや予備費(車の修理、子どもの急な出費)は含んでいない。
安全係数を掛けると実質は24〜30ヶ月分と考えるのが現実的だ。
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STEP 4: 年金はどう変わるか
会社員時代に積み上げた厚生年金の受給額は、独立後も消えない。ただし、独立後の国民年金加入期間は厚生年金より受給額が少ない。
年金受給額シミュレーターで試算すると:
| ケース | 月額年金受給見込み |
|---|---|
| 会社員のまま65歳まで(現在の年収で継続) | 約17.8万円 |
| 42歳で独立、国民年金のみ25年間 | 約13.2万円 |
| 差額 | 約4.6万円/月(年間55.2万円) |
この差を埋めるため、田中さんはiDeCoへの加入も検討している。個人事業主のiDeCo拠出上限は年68万円(月5.6万円)で、所得控除として全額使える。
iDeCo vs NISAシミュレーターで確認すると、所得が安定した2〜3年目以降にiDeCoを年30〜40万円拠出するだけで、老後格差の約半分をカバーできる試算になった。
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STEP 5: 失業給付(雇用保険)の活用
自己都合退職でも、退職から3ヶ月の待機期間後に雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)が受け取れる。
田中さんのケース(在職11年・自己都合退職)の給付試算:
```
離職前6ヶ月の賃金日額: 約1.86万円/日(月給×6÷180)
基本手当日額: 約8,000円(上限適用後)
給付日数: 90日(被保険者期間10年以上・自己都合)
総給付額: 8,000円 × 90日 = 72万円
```
失業給付シミュレーターで詳細を確認すると、受給期間中は国民健康保険料の減額対象外(所得はないが給付金を収入として扱う自治体もあり)なので注意が必要だ。
また、起業目的で退職した場合でも給付は受け取れるが、受給中は求職活動の実績が必要。事業開始届を出した時点で給付は停止される(ただし再就職手当として一部受け取れる場合もある)。
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1年目を乗り越えるためのタイムライン
| 月 | やること |
|---|---|
| 退職月(10月) | 任意継続の手続き(退職後20日以内)、開業届と青色申告承認申請書の提出 |
| 退職翌月(11月) | ハローワークで雇用保険の手続き(給付を受ける場合) |
| 12月 | 給付金受給中は求職活動の記録を保持。事業収入が発生したら受給停止の申告 |
| 翌年1〜3月 | 確定申告。赤字の場合も申告して損失繰越を確定させる |
| 翌年4月〜 | 国民健康保険料の前年所得で再算定。売上が安定してきたらiDeCo加入も検討 |
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よくある質問
Q. 退職直後に国民健康保険か任意継続か、どちらが得ですか?
田中さんのケースでは任意継続が初年度は安くなりました。一般的に、前年の年収が高いほど任意継続のほうが安くなる傾向があります。ただし2年後は強制的に国保へ移行するため、2年目以降の見込み収入も加味して比較してください。会社員 vs フリーランスの手取りシミュレーターで比較できます。
Q. 「起業のために退職」した場合でも雇用保険はもらえますか?
もらえます。ただし自己都合退職扱いになり、3ヶ月の給付制限があります。「会社都合」にしてもらえる場合(リストラ等)はすぐに受給できます。起業を決めている場合も、手続きだけ先に済ませておくのが得策です。
Q. 会社員時代の厚生年金は消えますか?
消えません。退職までに積み上げた厚生年金の受給権は保持されます。独立後の国民年金加入期間は受給額が低くなりますが、iDeCoで補完する方法が有効です。
Q. 起業初年度の赤字はどうすればいいですか?
青色申告で損失の繰越控除を申告しておくと、翌年以降に黒字が出たときに通算して税負担を減らせます。初年度が赤字でも確定申告は必ず行いましょう。
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田中さんは最終的に「数字で見ると思ったより怖くなかった」と話す。「900万円の貯蓄で3年以上の滑走路があるなら、本気でやれる」と感じたのは、シミュレーションで具体的な数字を出してからだった。
起業前の不安の多くは、数字が曖昧なままだから生まれる。まずは個人事業主の税金シミュレーターと社会保険料シミュレーターで自分の数字を確認してみよう。