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体外受精1回目の請求は26万2,700円、最後に手元から出ていったのは3万2,467円——36歳・東京都府中市の中村さん夫婦(仮名)が高額療養費と2026年4月拡充の都の助成(上限15万円)を重ねた計算。半年早く始めていたら負担は15万9,367円だった【ケーススタディ】

東京都府中市の中村早紀さん(仮名・36歳・会社員・年収460万円・協会けんぽ)が2026年8月に始めた保険診療の体外受精(顕微授精・胚盤胞3個凍結・凍結融解胚移植)の費用を、3割負担の項目別に分解。高額療養費(2026年8月改定後の区分ウ)で8万233円が戻り、東京都不妊治療費助成(2026年4月以降開始分は保険診療の自己負担も対象、上限15万円、10月1日申請受付開始)を合わせると負担は3万2,467円。2回目以降の移植は0円になり、医療費控除は使えなくなることも検算した。

8月3日、府中市に住む中村早紀さん(仮名・36歳)と夫の健太さん(仮名・38歳)は、都内の不妊治療クリニックで「治療計画書」に2人で署名した。保険診療で体外受精を受けるには、治療計画を作り、夫婦で説明を受けて同意することが条件になっている。

それから約2ヶ月。1回目の凍結胚移植の結果は陰性だった。気持ちの整理がつかないまま、早紀さんは領収書の束を前に電卓をたたいた。窓口で払った額、健康保険から戻る額、10月1日から申請できるようになった東京都の助成。全部を並べると、数字は思っていたものとまるで違った。

この記事では、中村さん夫婦の1回目の治療にかかったお金を1行ずつ追い、2回目以降の見通しまで計算する。

中村さん夫婦のプロフィール

項目内容
住まい東京都府中市(賃貸マンション・2人暮らし)
早紀さん36歳・メーカー事務・年収460万円・協会けんぽ
健太さん38歳・IT企業・年収580万円・健康保険組合
治療の経緯2026年7月に初診・検査、8月3日に治療計画、8月下旬に採卵、9月に凍結胚移植、9月28日の判定で陰性
治療内容保険診療の顕微授精。採卵10個、顕微授精8個、胚盤胞3個を凍結
先進医療タイムラプス培養(自費3万3,000円)

早紀さんは治療開始時に40歳未満なので、保険診療の胚移植は6回まで受けられる。40〜42歳で始めると3回まで、43歳以上は保険の対象外だ。

1回目の請求を項目別に分解する

金額は3割負担後の額。採卵・培養・凍結・移植の技術料は、2024年6月改定後の診療報酬をもとにクリニックが公表している料金表の水準で、診察・薬・検査は通院回数によって変わる部分の概算だ。

採卵周期(8月)

項目3割負担額
診察・超音波・ホルモン採血・排卵誘発剤48,000円
生殖補助医療管理料900円
採卵術(9,600円)+採卵数加算・10個以上(21,600円)31,200円
顕微授精(6〜9個)27,000円
受精卵・胚培養管理料(6〜9個)25,200円
胚盤胞加算(6〜9個)7,500円
新鮮精子加算3,000円
採卵当日の麻酔・処方5,000円
胚凍結保存管理料(2〜5個)21,000円
小計168,800円

移植周期(9月)

項目3割負担額
診察・ホルモン補充薬・採血・判定18,000円
生殖補助医療管理料900円
凍結・融解胚移植(36,000円)+アシステッドハッチング(3,000円)+高濃度ヒアルロン酸含有培養液(3,000円)42,000円
小計60,900円

保険診療の自己負担が22万9,700円。これに自費のタイムラプス培養3万3,000円を足した26万2,700円が、1回目の治療で請求された総額になる。

戻ってくるお金①:高額療養費で8万233円

早紀さんの年収460万円は、高額療養費の区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円)に当たる。2026年8月の改定で、この区分の月の上限は次の式になった。

> 85,800円 +(その月の総医療費 − 286,000円)× 1%

8月の3割負担16万8,800円から総医療費(10割)を逆算すると、168,800 ÷ 0.3 ≒ 562,667円。上限は次のとおり。

  • 85,800 +(562,667 − 286,000)× 1% = 85,800 + 2,767 ≒ 88,567円
  • 払い戻し額:168,800 − 88,567 = 80,233円

9月の移植周期は総医療費が約20万円で上限の8万5,800円に届かないため、払い戻しはない。高額療養費は「1日から末日まで」の暦月ごとに計算するので、採卵が月をまたぐと、どちらの月も上限に届かず1円も戻らないことがある。誘発の開始日を選べる場合は、クリニックに相談する余地がある。

なお、先進医療のタイムラプス培養は保険外なので、高額療養費の計算には入らない。自分の年収で上限額を確かめるなら高額療養費シミュレーターが早い。

戻ってくるお金②:東京都の助成で15万円

東京都不妊治療費助成事業は、2026年4月1日以降に始めた治療から対象が広がった。以前は保険診療と併用した先進医療の費用の7割だけが対象だったが、いまは保険診療の体外受精・顕微授精の自己負担と先進医療の費用が対象で、上限は1回の治療につき15万円。所得制限はなく、高額療養費や健康保険の付加給付が出た場合は、その額を差し引いてから計算する。

早紀さんの1回目に当てはめると、こうなる。

計算金額
保険診療の自己負担229,700円
+ 先進医療(タイムラプス培養)33,000円
− 高額療養費−80,233円
= 助成の対象額182,467円
助成額(上限15万円)150,000円
最終的な自己負担32,467円

26万2,700円の請求が、3万2,467円まで縮んだ。都の「1回の治療」は、治療計画を立てた日から移植後の妊娠判定までのひと続きを指し、採卵周期と移植周期に分けて数えない。申請は「1回の治療」が終わった日の属する年度末、早紀さんの場合は2027年3月31日までだ。2026年4月以降に始めた治療の申請受付は、10月1日に始まった。

もし治療開始が2026年3月だったら

同じ治療を2026年3月31日以前に始めていた場合、旧制度が適用され、助成は先進医療の7割(3万3,000円 × 0.7 = 2万3,100円)だけになる。

治療開始助成額最終的な自己負担
2026年4月1日以降(中村さん)150,000円32,467円
2026年3月31日以前23,100円159,367円
東京都外に住んでいる場合(国の制度のみ)0円182,467円

開始時期が半年違うだけで12万6,900円。住所が都内か都外かで15万円。同じ医療を受けても、自己負担はこれだけ動く。都外の人も、市区町村が独自に助成していることがあるので、自治体名と「特定不妊治療 助成」で確かめておきたい。

2回目以降の見通し:凍結胚の移植は0円になる

中村さん夫婦には、凍結した胚盤胞があと2個ある。2回目・3回目は移植周期だけなので、1回あたり約6万900円。総医療費が上限に届かず高額療養費は出ないが、都の助成の上限15万円に収まるため、自己負担は0円になる計算だ。

シナリオ都内(中村さん)都外
A. 1回目の移植で妊娠32,467円182,467円
B. 2回目の移植で妊娠32,467円243,367円
C. 3回目の移植で妊娠32,467円304,267円
D. 胚3個とも陰性 → 2回目の採卵、4回目の移植で妊娠64,934円486,734円

都の助成回数は保険診療の回数に合わせて数えるため、早紀さんは1子につき6回まで使える。Dのケースでも残りは2回だ。採卵を伴う回だけ3万円台の負担が出て、凍結胚の移植は0円、というリズムになる。

医療費控除は「使えなくなる」

2026年中に支払う見込みの医療費は、1回目の26万2,700円、初診時の検査1万5,000円、2回目の移植6万900円、通院の電車代8,960円(往復640円 × 14回)で、合計34万7,560円。ここから補てんされる額を引く。

  • 補てん額:高額療養費 80,233円 + 都の助成 150,000円 + 60,900円 = 291,133円
  • 347,560 − 291,133 = 56,427円 → 10万円に届かず、医療費控除はゼロ

助成の入金が翌年になっても、補てん金は対象の医療費を払った年の分から差し引くルールなので結論は変わらない。都外で助成がない場合は、高額療養費だけを引いた26万7,327円から10万円を超えた分が控除の対象になり、所得税率10%なら約1.7万円、住民税と合わせて約3.4万円の軽減になる。計算は医療費控除シミュレーターで確かめられる。

よくある疑問

Q. この計算の前提データはどこから?
都の助成は東京都福祉局「東京都不妊治療費助成事業の概要」(2026年10月時点)、高額療養費は厚生労働省の2026年8月改定後の区分ウの算式、保険診療の技術料は2024年6月改定後の診療報酬に基づいてクリニックが公表している3割負担額の水準を使った。診察・薬・検査の金額は通院回数で変わるため概算だ。

Q. 窓口で20万円以上払うのは厳しい。先に上限で止められない?
マイナ保険証で受診し、限度額情報の提供に同意すれば、窓口の支払いは月の上限(中村さんなら8万8,567円)で止まる。資格確認書を使う場合は、加入先で限度額適用認定証を申請しておく。8月の窓口負担は先進医療を含めて20万1,800円から12万1,567円に下がり、高額療養費を待つ数ヶ月の立て替えがなくなる。

Q. 民間の医療保険から出た給付金は、都の助成から引かれる?
2026年4月以降に始めた治療は、個人で加入している民間の医療保険の給付金を差し引く必要はない(都の概要に明記)。採卵や胚移植を手術給付金の対象にしている保険もあるので、証券の約款を確認しておきたい。保障の見直しは医療保険シミュレーターで整理できる。

Q. 数字が実感と合わない場合は?
排卵誘発の方法、採卵数、胚の数で金額は大きく変わる。手元の領収書の「保険診療分」と「自費分」を分けて、不妊治療費用シミュレーターにステップと回数を入れ直してほしい。前提の誤りに気づいた場合は、お問い合わせフォームから知らせてほしい。

中村さん夫婦がこの秋にやること

  1. 1回目の都の助成を申請する:医療機関に受診等証明書を依頼し、2027年3月31日までに電子申請。証明書の文書料が別にかかるクリニックもある
  2. 高額療養費の支給申請を確認する:協会けんぽは付加給付がないので、8月分の8万233円が戻るかを通知で確かめる
  3. 2回目の移植前にマイナ保険証の限度額表示を有効にする:採卵を伴う回に備えて、窓口負担を上限で止める
  4. 医療費控除のための集計はやめる:都の助成を受ける限り、10万円を超えない見込みだから
  5. 妊娠した場合の出産費用を把握する:出産育児一時金50万円との差額は出産費用シミュレーターで見積もれる

早紀さんは計算を終えて、こう言った。「1回目で26万円と聞いて、何回続けられるかばかり考えていた。凍結胚の移植が0円なら、お金の心配はいったん脇に置ける」

治療を始める時期、住む場所、窓口での払い方。医療そのものとは関係のないところで、負担は何倍にも変わる。あなたの自治体には、どんな上乗せがあるだろうか。

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