「小1の壁」で時短を続けるか、フルタイムに戻すか——年長児を育てる36歳・共働きの藤井さん(仮名)が3年間の手取りで比べると、公設学童+フル復帰は時短継続より約198万円多く残る。ただし差は閉所時刻19時までにお迎えが間に合うかで決まる【ケーススタディ】
埼玉県南部在住・藤井さん(仮名・36歳・正社員・時短で年収330万円、夫38歳・年収520万円、長女6歳)の2027年4月の小学校入学に向けた3択を試算。A 公設学童+フルタイム復帰、B 民間学童+フルタイム、C 公設学童+時短継続。手取り差は年83.4万円、学童・隙間ケア・夕食の外注費を引くと、Aは時短継続より年66.1万円、Bは年19.8万円多く残る。こども家庭庁「放課後児童クラブの実施状況(令和7年5月1日現在)」の月額利用料・閉所時刻・待機児童数と、2025年の育児・介護休業法改正で就学時に切れる配慮も整理。
先に結論を書く。
藤井彩さん(仮名・36歳)の家庭では、長女が小学校に上がる2027年4月にフルタイムへ戻し、公設学童を使うのが金額面ではいちばん有利だった。時短勤務を続けた場合と比べて、小1〜小3の3年間で約198万円多く手元に残る。民間学童でフルタイムに戻す案でも約63万円のプラスになる。
ただし、この差が成り立つ前提はひとつしかない。夕方6時に会社を出て、学童の閉所時刻19時までに迎えに行けること。前提が崩れる日が月に何回あるかで、選ぶべき答えは入れ替わる。
以下、藤井さんの条件で3つの案を検算していく。
藤井さん一家のプロフィール(2026年10月時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住まい | 埼玉県南部(都内へ電車通勤) |
| 本人 | 藤井彩さん(36歳)、メーカー事務の正社員。時短勤務(6時間)で年収330万円。フルタイム換算では440万円 |
| 夫 | 藤井健太さん(38歳)、正社員・年収520万円。帰宅は早くて20時、平日の迎えは難しい |
| 子ども | 長女(6歳・年長)。2027年4月に地元の公立小学校へ入学予定 |
| 保育園 | 現在は19時まで延長保育あり。迎えは彩さんが16時45分 |
| 会社の制度 | 時短勤務は「小学3年生修了まで」利用可(法定を上回る社内制度) |
| 通勤 | 会社から最寄り駅まで、ドアツードアで約40分 |
「保育園は19時まで預けられたのに、学童は違うと聞いて焦った」というのが、今回の試算のきっかけだった。
「小1の壁」は何が壁なのか
小1の壁は、気持ちの問題ではなく、制度の切れ目が重なることで生まれる。
1. 学童は保育園より早く閉まる
こども家庭庁「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和7年5月1日現在)」によると、平日の終了時刻は次のとおり。
| 平日の終了時刻 | クラブ数の割合 |
|---|---|
| 18:00まで | 16.1% |
| 18:01〜18:30 | 21.7% |
| 18:31〜19:00 | 54.9% |
| 19:01以降 | 7.4% |
19時を超えて開いているクラブは1割に満たない。18時半までに閉まるクラブも約4割ある。
2. 法律上の「働き方の配慮」の多くが、就学で切れる
2025年4月・10月に施行された改正育児・介護休業法で、残業の免除(所定外労働の制限)は対象が「小学校就学前まで」に広がり、3歳から就学前の子を育てる人には、テレワークや始業時刻の変更などから選べる「柔軟な働き方」の措置も義務づけられた。裏を返せば、いずれも入学と同時に法律上の対象から外れる。短時間勤務(時短)が法律で義務づけられているのは3歳未満までで、それ以降は会社の制度次第だ。小学3年生修了まで延長されたのは「子の看護等休暇」(子1人なら年5日)くらいである。
3. 学童は申し込めば必ず入れるわけではない
同じ調査で、利用できなかった児童(待機児童)は全国で16,330人。学年別では小1が1,966人、小4が5,589人で最多だった。低学年は入りやすくても、学年が上がると押し出されやすい。
3つの案と前提
藤井さんが検討したのは次の3案。
- A:公設学童+フルタイム復帰(9時〜18時勤務、18時45分に学童着)
- B:民間学童+フルタイム復帰(送迎・夕食オプションあり、21時まで預かり)
- C:公設学童+時短継続(16時退社、16時45分に学童着)
費用の前提は以下。
| 費用項目 | A | B | C | 根拠・メモ |
|---|---|---|---|---|
| 学童の利用料 | 月6,000円 | 月48,000円 | 月6,000円 | 公設は全国で最も多い価格帯「4,000〜6,000円未満」(26.2%)の上端。民間は藤井さんの近隣にある駅前型の週5日プラン |
| おやつ代など | 月2,000円 | 利用料に込み | 月2,000円 | 公設の実費徴収で最も多い「2,000〜2,500円未満」(19.5%) |
| 夏休みの加算 | なし | 40,000円/年 | なし | 公設は弁当持参で追加料金なし |
| 入会金 | なし | 20,000円(初年度のみ) | なし | — |
| 隙間ケア | 月6,400円 | なし | なし | 残業や電車遅延の日にファミリー・サポート(1時間800円×2時間×月4回)。料金は自治体により異なり、1時間700〜1,000円程度が多い |
| 夕食の外注 | 月8,000円 | 月8,000円 | なし | 帰宅が19時を過ぎる日の惣菜・ミールキット |
手取りは手取り計算シミュレーターと同じ計算ロジック(社会保険料・所得税・住民税を年収から算出、賞与4ヶ月)で求めた。
| 年収 | 社会保険料 | 所得税 | 住民税 | 手取り |
|---|---|---|---|---|
| 440万円(フルタイム) | 648,340円 | 79,212円 | 205,166円 | 3,467,282円 |
| 330万円(時短) | 486,255円 | 44,093円 | 136,374円 | 2,633,278円 |
手取りの差は 3,467,282 − 2,633,278 = 834,004円/年。額面の差は110万円だが、税と社会保険料で約27万円が差し引かれる。
1年あたりの「残る額」を検算する
A:公設学童+フルタイム
- 学童:(6,000 + 2,000) × 12 = 96,000円
- 隙間ケア:6,400 × 12 = 76,800円
- 夕食の外注:8,000 × 12 = 96,000円
- 残る額:3,467,282 − 96,000 − 76,800 − 96,000 = 3,198,482円
B:民間学童+フルタイム(1年目)
- 学童:48,000 × 12 + 40,000 + 20,000 = 636,000円(2年目以降は616,000円)
- 夕食の外注:96,000円
- 残る額:3,467,282 − 636,000 − 96,000 = 2,735,282円(2年目以降 2,755,282円)
C:公設学童+時短継続
- 学童:96,000円
- 残る額:2,633,278 − 96,000 = 2,537,278円
| A 公設+フル | B 民間+フル | C 公設+時短 | |
|---|---|---|---|
| 1年目に残る額 | 3,198,482円 | 2,735,282円 | 2,537,278円 |
| Cとの差(1年目) | +661,204円 | +198,004円 | — |
| Cとの差(2年目以降) | +661,204円 | +218,004円 | — |
| Cとの差(小1〜小3の3年計) | +1,983,612円 | +634,012円 | — |
Bの3年計は 198,004 + 218,004 × 2 = 634,012円。民間学童の利用料が月48,000円でも、フルタイムに戻した分の手取り増がそれを上回る。逆算すると、Bの差がゼロになる民間学童の利用料は、2年目以降の条件で月 48,000 + 218,004 ÷ 12 ≒ 約66,000円。これより高い民間学童なら、お金の面では時短継続のほうが残る。
学童の費用だけを比べたい場合は学童保育費用シミュレーターで公立・民間・放課後デイの6年間総額を出せる。なお、シミュレーターの公立の初期値(利用日数20日で月12,500円)は基本料を上限寄りに置いた保守的な設定で、藤井さんの自治体より高めに出る。
見落としやすい「将来の年金」
フルタイムに戻すと、手取りだけでなく厚生年金の記録も増える。老齢厚生年金(報酬比例部分)の計算式は、2003年4月以降の加入期間について次のとおり。
> 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
年収の差110万円(賞与込み)が3年続いた場合、月あたりの差は 1,100,000 ÷ 12 ≒ 91,667円。
> 91,667 × 5.481/1000 × 36ヶ月 ≒ 18,087円/年
65歳から受け取る年金が年約1.8万円増え、20年受け取れば約36万円になる。3年間の手取り差に比べれば小さいが、時短を続けるとこの分も静かに失っている。
数字に出ない部分:19時の綱渡り
金額ではAが圧勝だが、藤井さんが最後まで迷ったのはここだった。
- 18時に会社を出て、学童着が18時45分。閉所の19時まで15分しか余裕がない
- 電車が10分遅れたら、その日はファミリー・サポートか夫の早退で埋めるしかない
- 夏休みは8時から開所(全国でも8時台の開所が61.1%)。9時始業なら間に合うが、朝の弁当づくりが毎日加わる
- 1年生の夏休み明けまでは、学校行事や短縮授業で平日に休みを取る日が想像以上に多い
月に4回の隙間ケア(月6,400円)を置いたのは、この「綱渡りの日」を見込んだ数字だ。仮に月8回に増えても年76,800円の追加で、AのCに対する優位(年66万円)は揺らがない。崩れるのはお金ではなく、毎日の余裕のほうだ。
そしてCにも見落としがある。会社の時短は小3修了まで。待機児童がもっとも多いのは小4で、公設学童から押し出されやすい学年でもある。Cを選ぶと、時短の終了と学童の終了が小4の4月に同時にやってくる。壁を先送りしているだけで、次の壁は二重になる。
どれを選ぶかの判断フロー
```
Q1. フルタイム勤務で、公設学童の閉所時刻までに迎えに行けるか?
├─ 行ける(余裕15分以上)
│ └─ Q2. その学童の待機児童は少ないか?(自治体の公表資料で確認)
│ ├─ 少ない → 【A 公設学童+フルタイム】
│ └─ 多い → Aで申し込み、落ちた場合に備えてBを併願
└─ 行けない
└─ Q3. 会社の時短制度は小学生以降も使えるか?
├─ 使える → 【C 時短継続】ただし小4で時短と学童が同時に切れる前提で準備
└─ 使えない → 【B 民間学童】月約6.6万円以下ならフルタイムのほうが残る
```
藤井さんはQ1で「余裕15分」、自治体の待機児童もゼロ。夫と相談し、週2日は夫が19時に迎えに行けるよう在宅勤務日を調整することで、Aを選んだ。申込は自治体の受付(多くは秋〜年明け)に合わせて11月中に出す予定だ。
共働きを続けるかどうか自体を見直したい場合は共働き vs 片働きシミュレーターで世帯の手取りと年金差を、時短とフルタイムの比較を自由時間の価値まで含めて見たい場合は時短勤務 vs フルタイム シミュレーターで計算できる。小学校入学後に習い事を始めると学童との組み合わせで費用が変わるので、子供の習い事費用シミュレーターも合わせて使うと全体像がつかみやすい。
よくある質問
Q. この計算の前提データはどこから?
学童の利用料・おやつ代・閉所時刻・待機児童数は、こども家庭庁「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和7年5月1日現在)」です。手取りは当サイトの手取り計算シミュレーターと同じ計算ロジック、年金の計算式は日本年金機構の老齢厚生年金(報酬比例部分)の式を使っています。民間学童の料金とファミリー・サポートの単価は、藤井さんの近隣の例をもとにした仮定です。
Q. 時短から戻るとき、給与はすぐに満額になる?
フルタイムに戻した月から基本給は戻りますが、社会保険料は標準報酬月額の改定(随時改定)が反映されるまで時短時の水準のままになることがあります。賞与の算定期間に時短期間が含まれていると、最初の賞与は満額にならない会社もあります。1年目の手取りはこの記事の計算より少しずれる可能性があります。
Q. 公設学童に落ちたらどうする?
まず自治体に、次の空き状況と「放課後子供教室」など他の居場所の有無を確認します。民間学童は年度途中だと定員が埋まっていることが多いので、公設の結果が出る前に見学・仮申込をしておくと安全です。待機は小1より小3〜小4で多いため、入れた場合も小3の段階で次の手を考えておく必要があります。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
学童の料金は自治体・事業者によって大きく違い、月2,000円未満から2万円以上まで幅があります。自分の地域の料金を学童保育費用シミュレーターに入れて計算し直してください。計算の誤りや前提への疑問があれば、お問い合わせフォームから知らせてください。
最後に、ひとつだけ確かめてほしいこと
藤井さんの結論を分けたのは、手取りの計算ではなく「閉所時刻まで15分の余裕があるか」という一点だった。
あなたの家の最寄りの学童は、何時に閉まるだろうか。そして、退社してからそこへ着くまで、実際には何分かかるだろうか。来年4月の答えは、その2つの数字を並べたところから決まる。