「103万円を超えないように」を10年続けた48歳パートが、160万円の壁時代に働き方を変えた話【ケーススタディ】
教育費ピークの神奈川県郊外に住む48歳パート主婦が、2025年の年収の壁改正(所得税の壁103万→160万円)を受けて働き方を再設計。年収103万・113万・120万・136万・160万・180万の6パターンで世帯手取りを試算し、『働き損ゾーン』を避ける最適ラインを導いた実例。
「夫の扶養から外れたら、かえって損するんですよね?」
スーパーのレジで週3日働く戸田さん(仮名・48歳・神奈川県郊外在住)は、10年近く「年収103万円以内」を守ってきた。シフトを増やせる時期でも、12月になると残りの稼げる金額を逆算してシフトを削る——そんな働き方だ。
ところが2025年(令和7年)の税制改正で、その前提が崩れた。所得税がかかり始めるラインが103万円から160万円へ引き上げられたからだ(2025年分から適用済み)。一方で、社会保険の106万円・130万円の壁はそのまま残った。「結局いくらまで働くのが得なのか」を、戸田さんと一緒に6パターンで試算してみた。
戸田さんの家計プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本人 | 48歳・パート(スーパーのレジ、時給1,150円) |
| 夫 | 52歳・会社員/年収650万円(社会保険加入) |
| 子ども | 大学2年(20歳)・高校3年(18歳)の2人 |
| 居住地 | 神奈川県郊外(持ち家・住宅ローン返済中) |
| 勤務先規模 | 従業員120人(社会保険の適用拡大対象企業) |
| 現在の働き方 | 週3日・1日5時間(週15時間)、年収約103万円 |
家計の状況は明確だ。子ども2人がそろって教育費のピークにあり、上の子の大学費用と下の子の受験・進学費用が重なる。「あと年30万円でも世帯で増やせれば」というのが戸田さんの本音だった。
戸田さんの勤務先は従業員51人以上なので、週20時間以上働くと106万円の壁の対象になり、勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する。逆に言えば、週20時間未満に抑えている限り、年収をいくら増やしても勤務先の社保には入らない(130万円までは夫の扶養のまま)。ここが今回の判断の分岐点になる。
まず「壁」の地図を2026年版に描き直す
改正で何が動いて何が残ったのかを整理した。
| 壁 | 2026年の扱い | 戸田さんへの影響 |
|---|---|---|
| 103万円 | 消滅(所得税の壁は160万円へ) | 10年守った目標に、もう意味はない |
| 106万円 | 社会保険の壁①(51人以上×週20時間以上)(変更なし) | 週20時間が事実上の分岐点 |
| 110万円前後 | 住民税が発生(基礎控除43万円据え置き) | 年数千円〜。誤差の範囲 |
| 130万円 | 社会保険の扶養から外れる(変更なし) | 週20時間未満ならここが上限 |
| 160万円 | 所得税が発生。配偶者特別控除の満額38万円もここまで | ここまで税負担はほぼゼロ |
戸田さんが10年守ってきた103万円は、もはや何の基準でもない。給与所得控除が65万円、基礎控除が95万円(パート収入200万円以下の場合・恒久措置)に引き上げられた結果、年収160万円までは所得税ゼロになったからだ。出典は財務省「令和7年度税制改正」(2025年3月成立の最終法)。仕組みの詳細は160万円の壁の解説記事にまとめている。
6パターンで世帯手取りを試算する
ここからが本題だ。年収の壁 手取り変化シミュレーターと手取り計算シミュレーターを使い、戸田さんのパート年収を6段階で動かして世帯手取りへの影響を出した。
前提:夫の年収650万円、2025年改正反映、勤務先の社会保険料は本人負担約15%で概算。
| 本人パート年収 | 週の労働時間 | 本人の税・社保 | 本人の手取り | 夫の配偶者控除 | ひとことメモ |
|---|---|---|---|---|---|
| 103万円(現状) | 週15時間 | 0円 | 約103万円 | 満額38万円 | 旧基準。まだ余力あり |
| 113万円 | 週19時間 | 住民税のみ約1万円 | 約112万円 | 満額38万円 | 週20時間未満の最大化点 |
| 120万円 | 週20時間(社保加入) | 約19.4万円 | 約100.6万円 | 満額38万円 | 働き損ゾーンに突入 |
| 136万円 | 週23時間(社保加入) | 約23.3万円 | 約112.6万円 | 満額38万円 | ようやく113万円時点を回復 |
| 160万円 | 週27時間(社保加入) | 約29.3万円 | 約130.7万円 | 満額38万円 | 所得税ゼロのまま明確にプラス |
| 180万円 | 週30時間(社保加入) | 約35.2万円 | 約144.8万円 | 縮小・約21万円 | 夫の税負担が約5万円増えても世帯プラス |
数字が物語るのは、崖の位置が「金額」ではなく「週20時間」に立っていることだ。週19時間(113万円)から週20時間(120万円)にわずか1時間増やすと、社会保険料の発生で本人手取りが約112万円→約100.6万円へ、12万円落ちる。これが戸田さんにとっての「働き損ゾーン」の入口である。
計算式で崖の正体を確かめる
なぜ120万円で約19万円も引かれるのか。内訳を式で分解する。
```
社会保険料(本人負担)= 120万円 × 約14.75%(健保 約5% + 厚生年金 9.15% + 雇用保険 約0.55%)
≒ 17.7万円
所得税 = (120万円 − 給与所得控除65万円 − 基礎控除95万円)→ マイナスなので 0円
住民税 ≒ (120万円 − 65万円 − 43万円)× 10% + 均等割0.5万円
≒ 1.7万円
合計 ≒ 19.4万円
```
社会保険料の約18万円が崖の正体だ。週20時間未満なら夫の扶養として保険料ゼロだったものが、週20時間以上(かつ年収106万円超)で丸ごと発生する。これは段階的にではなく、ラインを越えた瞬間に立ち上がる。所得税は160万円までゼロなので、税金はもはや脇役でしかない。
戸田さんはここで顔をしかめた。「じゃあやっぱり週19時間で止めるのが正解?」——短期的にはそうだ。だが、もうひとつの軸がある。
「働き損」を相殺する長期メリット
週20時間以上で社会保険に加入すると、保険料を払う代わりに次の権利が付いてくる。
- 厚生年金が将来増える:国民年金(基礎年金)に上乗せされる報酬比例部分が積み上がる
- 傷病手当金:病気やケガで働けないとき、給与の約3分の2が最長1年6か月支給される
- 出産手当金・障害厚生年金などの保障も対象になる
つまり120万〜136万円のゾーンは、「目先の手取りは減るが、将来の年金と保障を買っている」状態と読める。戸田さんは48歳。あと15年強の加入で厚生年金の上乗せが効いてくる年齢でもある。この長期メリットは社会保険料シミュレーターで、加入年数と将来の年金増を概算できる。
戸田さんの結論:判断フロー
最終的に戸田さんが使った意思決定の順序は、次のフローチャートに集約できる。
- 当面、世帯手取りを最大化したい? → はい:週20時間未満・年収113万円前後(保険料ゼロ・所得税ゼロ)で止める
- 崖を越えてでも働きたい/戦力として必要とされている? → はい:次へ
- 越えるなら中途半端は最も損。120〜135万円は働き損ゾーン。回復ラインの136万円以上、できれば160万円を目標に据える
- 将来の年金・保障を厚くしたい? → はい:社保加入は前向きな投資と捉える
戸田さんが選んだのは「いったん週19時間・113万円まで引き上げる」だった。下の子の大学進学が決まり教育費がさらに膨らむ来年以降、週27時間に増やして160万円台を目指す——という2段階のプランだ。「103万円を10年守ってきたけど、守ること自体が目的になっていた」と振り返る。
なお大学2年の上の子(20歳)のバイト収入も、2025年改正で150万円まで夫の特定親族特別控除63万円が満額になった(学生向けの壁チェッカーで試算可能)。配偶者特別控除がどのラインからどう縮むかは配偶者控除シミュレーターで、自分のパート年収と夫の年収を入れて確認できる。
よくある質問
Q. この試算の前提データはどこから?
A. 所得税の壁160万円(給与所得控除65万円+基礎控除95万円)・配偶者特別控除の満額上限160万円は財務省「令和7年度税制改正」・国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」(2025年3月成立の最終法)にもとづきます。社会保険の適用拡大(従業員51人以上・週20時間以上・月8.8万円以上)は厚生労働省「短時間労働者への社会保険適用拡大」の基準です。社会保険料率は協会けんぽの全国平均から本人負担約14.75%として概算し、手取りは年収の壁シミュレーターの実装値です。
Q. なぜ社会保険の壁は改正で変わらなかった?
A. 106万円・130万円は「社会保険の適用・被扶養者認定基準」であり、所得税の非課税ライン(103万→160万円)とは別の制度だからです。改正で動いたのは税の壁だけで、社会保険の基準は据え置かれました。なお106万円の壁の賃金要件(月8.8万円)は2025年成立の年金制度改正法で撤廃が決定済みですが施行日未到来のため、当面の分岐点は「週20時間」です。
Q. 勤務先が従業員50人以下なら結論は変わる?
A. 変わります。50人以下の企業では週20時間以上働いても勤務先の社保には入らないため、崖は130万円(夫の健康保険の扶養基準)に移ります。130万円を超えると自分で国民健康保険+国民年金(年約23〜32万円)に加入する形になり、回復ラインは約158万円まで上がります。詳しくはパート収入の壁シミュレーターで勤務先規模を切り替えて確認してください。
Q. 試算と自分の実感が合わない場合は?
A. 住民税の均等割や国保料は自治体ごとに差があり、配偶者特別控除の縮小幅も夫の年収で変わります。実額は年収の壁シミュレーターに自分の数字を入れて確認してください。それでも実感と離れる場合は、お問い合わせからご連絡いただければ前提を見直します。
まとめ:戸田さんの6パターン早見表(再掲)
| 年収帯(週20時間以上で社保加入の場合) | 立ち位置 | おすすめ度 |
|---|---|---|
| 〜113万円(週20時間未満) | 保険料ゼロ・所得税ゼロ | ◎ 短期最適 |
| 120〜135万円 | 働き損ゾーン | △ 最も非効率 |
| 136〜159万円 | 社保加入で回復・所得税ゼロ | ○ 長期重視なら |
| 160万円〜 | 明確に世帯プラス | ◎ 稼げるなら |
年収の壁は「正解がひとつ」ではなく、世帯の優先順位(目先の手取りか、将来の年金か)で答えが変わる。戸田さんの10年が教えてくれるのは、基準そのものが変わったときは、守ってきたラインを一度疑ってみる価値があるということだ。
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- 財務省「令和7年度税制改正」
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
- 厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「保険料額表」