相続税の基礎控除と計算の仕組み|うちは関係ない?のボーダーラインを解説
相続税の基礎控除(3,000万+600万×法定相続人数)の計算式、税率テーブル、遺産8,000万円の具体的な計算例、主な控除・特例、生前対策3つを解説。「うちは相続税がかかる?」判断チェックリスト付き。
相続税がかかるのは全体の約9%。あなたの家族はこの9%に入るだろうか。
国税庁の統計によると、2024年に亡くなった方のうち、相続税の課税対象となったのは全体の約9%。逆に言えば91%の人には相続税はかかりません。
しかし、2015年の税制改正で基礎控除額が大幅に引き下げられて以降、課税対象者は増加傾向にあります。かつては「富裕層だけの問題」だった相続税が、都市部に自宅を持つ一般家庭にも関係するようになりました。
自分の家族が9%に入るのか、入らないのか。それを判断するための計算の仕組みを、具体的な数字で解説します。
相続税の基礎控除
計算式
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
この基礎控除額を超える遺産がなければ、相続税はかかりません。申告すら不要です。
法定相続人の数別の基礎控除額
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
夫婦と子ども2人の家庭で、配偶者が亡くなった場合の法定相続人は「配偶者+子ども2人」の3人。基礎控除額は4,800万円です。遺産の総額が4,800万円以下であれば、相続税はゼロ。
問題は「遺産の総額」をどう計算するかです。
相続財産の評価方法
相続財産は「時価」ではなく、相続税法で定められた評価方法で計算します。
主な財産の評価方法
| 財産の種類 | 評価方法 | 目安 |
|---|---|---|
| 現金・預貯金 | 額面どおり | 残高そのまま |
| 上場株式 | 死亡日の終値(一定のルールあり) | 時価に近い |
| 生命保険金 | 受取額 − 非課税枠(500万円×法定相続人数) | 非課税枠あり |
| 死亡退職金 | 受取額 − 非課税枠(500万円×法定相続人数) | 非課税枠あり |
| 土地(自用地) | 路線価方式 or 倍率方式 | 時価の約80% |
| 建物 | 固定資産税評価額 | 時価の約60〜70% |
| 自宅の土地(小規模宅地等の特例適用後) | 路線価 × 面積 × 20%(80%減額) | 時価の約16% |
ここが重要: 不動産は時価よりも大幅に低く評価されます。特に「小規模宅地等の特例」が適用できる自宅の土地は、評価額が80%減になります。5,000万円の時価がある自宅の土地でも、評価額は約800万円まで下がる可能性があります。
相続税の概算は相続税シミュレーターで試算できます。
相続税の税率テーブル
基礎控除を超えた部分に対して、以下の税率が適用されます。所得税と同じ「超過累進税率」です。
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | なし |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
最低税率は10%、最高税率は55%。しかし実際の税額は基礎控除や各種特例を差し引いた後の金額に適用されるため、額面ほどの負担にはなりません。
具体的な計算例: 遺産8,000万円・法定相続人3人
以下のケースで、相続税がいくらになるかを順を追って計算します。
前提条件
- 被相続人: 父(死亡)
- 法定相続人: 母(配偶者)、長男、次男の3人
- 遺産総額: 8,000万円(不動産4,000万円+預貯金3,000万円+生命保険金2,500万円)
ステップ1: 生命保険金の非課税枠を適用
生命保険金の非課税枠 = 500万円 × 3人 = 1,500万円
課税対象の保険金 = 2,500万円 − 1,500万円 = 1,000万円
ステップ2: 課税遺産総額を計算
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産 | 4,000万円 |
| 預貯金 | 3,000万円 |
| 生命保険金(課税分) | 1,000万円 |
| 遺産の合計 | 8,000万円 |
| 基礎控除(3,000万+600万×3人) | −4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 3,200万円 |
ステップ3: 法定相続分で按分して税額を計算
相続税の計算では、まず法定相続分で按分して税額を算出し、その合計を実際の取得割合で配分します。
| 相続人 | 法定相続分 | 取得金額 | 税率 | 控除額 | 税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 母(配偶者) | 1/2 | 1,600万円 | 15% | 50万円 | 190万円 |
| 長男 | 1/4 | 800万円 | 10% | なし | 80万円 |
| 次男 | 1/4 | 800万円 | 10% | なし | 80万円 |
| 合計 | - | - | - | - | 350万円 |
ステップ4: 配偶者の税額軽減を適用
配偶者は法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きいほうまで非課税です。このケースでは配偶者の取得額が法定相続分以内のため:
| 相続人 | 相続税額 | 配偶者の税額軽減 | 最終税額 |
|---|---|---|---|
| 母(配偶者) | 190万円 | −190万円 | 0円 |
| 長男 | 80万円 | - | 80万円 |
| 次男 | 80万円 | - | 80万円 |
| 合計 | - | - | 160万円 |
遺産8,000万円に対して、実際に納める相続税は160万円(実効税率2%)。配偶者の税額軽減がいかに大きいかがわかります。
主な控除・特例
相続税にはさまざまな控除と特例が用意されています。主なものを整理します。
使える頻度が高い控除・特例
| 控除・特例 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 法定相続分 or 1億6,000万円まで非課税 | 配偶者の税負担がゼロになるケースが大半 |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅の土地の評価額を80%減 | 5,000万円の土地が1,000万円に |
| 生命保険金の非課税枠 | 500万円 × 法定相続人数 | 相続人3人なら1,500万円まで非課税 |
| 死亡退職金の非課税枠 | 500万円 × 法定相続人数 | 生命保険金と同様の枠 |
| 未成年者控除 | (18歳−相続時の年齢)× 10万円 | 未成年の相続人がいる場合 |
| 障害者控除 | (85歳−相続時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円) | 障害者の相続人がいる場合 |
小規模宅地等の特例の適用条件
最も効果が大きい「小規模宅地等の特例」には、主に以下の適用条件があります。
| 取得者 | 条件 |
|---|---|
| 配偶者 | 無条件で適用可能 |
| 同居の親族 | 申告期限まで居住+保有を継続 |
| 別居の親族(家なき子) | 相続開始前3年以内に自己所有の家屋に住んでいない等 |
この特例が使えるかどうかで、相続税額が数百万円単位で変わることがあります。生前対策の計画は相続対策シミュレーターで検討できます。
生前対策3つ
相続税が発生しそうな場合、生前から対策を講じることで税負担を大幅に軽減できます。
対策1: 暦年贈与(年間110万円の基礎控除)
毎年110万円まで贈与税がかからずに財産を移転できます。
| 贈与の方法 | 年間 | 10年間 | 20年間 |
|---|---|---|---|
| 子ども2人に各110万円 | 220万円 | 2,200万円 | 4,400万円 |
| 子ども2人+孫2人に各110万円 | 440万円 | 4,400万円 | 8,800万円 |
ただし、2024年の税制改正により、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるようになりました(以前は3年以内)。早めに始めるほど効果的です。
贈与税の計算は贈与税シミュレーターで確認可能です。
対策2: 生命保険の活用
生命保険金には「500万円 × 法定相続人数」の非課税枠があります。預貯金を生命保険に振り替えるだけで、その分の遺産が非課税になります。
例: 法定相続人3人の場合、1,500万円の預貯金を一時払い終身保険にすると、相続時に1,500万円が非課税に。相続税率15%なら約225万円の節税。
対策3: 不動産の活用
現金を不動産に変えることで、評価額を下げる方法です。
| 資産の形態 | 評価額の目安 |
|---|---|
| 現金 | 額面どおり(100%) |
| 土地(路線価) | 時価の約80% |
| 建物(固定資産税評価額) | 時価の約60〜70% |
| 賃貸不動産(貸家建付地) | さらに約20%減 |
1億円の現金を賃貸不動産に変えると、評価額は約5,000〜6,000万円に圧縮できる可能性があります。ただし不動産投資には空室リスクや流動性の問題があるため、相続税対策だけを目的とした安易な不動産購入は避けるべきです。
不動産売却時の税金は不動産売却税シミュレーターで、遺言書の作成コストは遺言書費用シミュレーターで確認できます。
「うちは相続税がかかる?」判断チェックリスト
以下の手順で、相続税がかかるかどうかの目安を判断できます。
ステップ1: 法定相続人の数を数える
- 配偶者: いる → 1人
- 子ども: ○人
- 合計: ○人 → 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × ○人 = ○○万円
ステップ2: 遺産の総額を概算する
| 財産 | 評価額(概算) |
|---|---|
| 自宅の土地 | 路線価で計算(国税庁「路線価図」で確認可) |
| 自宅の建物 | 固定資産税の納税通知書に記載の評価額 |
| 預貯金 | 残高の合計 |
| 有価証券 | 時価 |
| 生命保険金 | 受取額 − 500万円×相続人数 |
| その他 | 車、貴金属、ゴルフ会員権等 |
| 合計 | ○○万円 |
ステップ3: 判定
- 遺産総額 ≦ 基礎控除額 → 相続税はかからない(申告不要)
- 遺産総額 > 基礎控除額 → 相続税が発生する可能性あり(申告が必要)
都市部に持ち家がある場合、土地の路線価が想像以上に高いケースがあります。「うちは大丈夫だろう」と思い込まず、一度は数字で確認してみることをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 配偶者が全額相続すれば税金ゼロになる?
配偶者の税額軽減により、配偶者が取得する分については1億6,000万円まで税額ゼロにできます。しかし二次相続(配偶者が亡くなったとき)では、配偶者の税額軽減が使えないため、一次相続で配偶者に集中させると二次相続の税負担が大きくなる場合があります。一次・二次を通しての最適配分を検討すべきです。
Q. 相続税の申告期限は?
被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地の税務署に申告・納税する必要があります。期限を過ぎると延滞税や加算税が課される場合があります。
Q. この記事の計算の前提データはどこから?
基礎控除額・税率テーブルは国税庁「No.4152 相続税の計算」に基づいています。路線価と時価の関係(約80%)は国税庁の路線価評価基準に準拠しています。課税割合の統計は国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」を参照しています。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
土地の評価額は路線価の細かな条件(角地、不整形地、借地権等)で大きく変わります。この記事の計算例はあくまで概算ですので、正確な試算は相続税シミュレーターに条件を入力するか、税理士に相談してください。
---
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 国税庁「No.4155 相続税の税率」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
- 国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」
- 国税庁「路線価図・評価倍率表」