月収30万円+年金15万円で働く人は、年金がいくら減らされるのか|在職老齢年金の計算式を制度から解説
60歳以降も厚生年金に加入して働くと発動する「在職老齢年金」の支給停止ルールを、2024年度基準額50万円の最新数値で解説。基本月額・総報酬月額相当額の定義、カット額の算式、2022年改正と2025年改正の経緯、高年齢雇用継続給付との併給調整、繰下げとの合わせ技まで網羅。
月額15万円の老齢厚生年金を受け取りながら、月給30万円で働いている65歳のAさん。年金は全額支給されるでしょうか?それとも一部カット?
答えは「全額支給される」。ただし、もしAさんの月給が40万円だったら、月額2.5万円の年金が支給停止になる。その境目を決めているのが「在職老齢年金」という仕組みだ。
60歳以降に働くと年金が減ると漠然と聞いたことがある人は多い。だが、どういう式で、いくら減るのかを把握している人は少ない。2022年と2025年に立て続けに基準額が引き上げられ、今では「減額されずに働ける年収ライン」は現役会社員の平均を上回っている。
この記事では、在職老齢年金の計算式を具体的な数値例とともに解剖する。併せて、高年齢雇用継続給付との併給調整、繰下げ戦略との相性も整理した。
在職老齢年金とは
厚生年金保険の被保険者(=厚生年金に加入して働く人)が、老齢厚生年金を受け取りながら働くとき、給与と年金の合計が一定額を超えると年金が一部または全額支給停止になる仕組み。対象は60歳以降の老齢厚生年金受給者。
ポイントを整理するとこうなる。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる年金 | 老齢厚生年金(基礎年金・共済年金の一部は対象外) |
| 対象となる働き方 | 厚生年金に加入して働くケース(週の所定労働時間が正社員の3/4以上など) |
| 対象となる人の年齢 | 60歳以上(65歳以上も同じルール) |
| 判定する収入 | 「基本月額」+「総報酬月額相当額」 |
| 停止基準額 | 2024年度は50万円、2025年度は51万円(毎年改定) |
対象外なのは、厚生年金に加入しない働き方(個人事業主、週20時間未満のパート、完全退職など)と老齢基礎年金。つまり基礎年金(年78万円の1階部分)は働いていてもカットされない。
在職老齢年金の計算式
在職老齢年金は、次の3ステップで計算する。
ステップ1: 基本月額と総報酬月額相当額を出す
- 基本月額 = 老齢厚生年金(加給年金を除く)の年額 ÷ 12
- 総報酬月額相当額 = 標準報酬月額 + 直近1年間の標準賞与額 ÷ 12
標準報酬月額は給与明細には直接載らないが、健康保険証や社会保険料の天引き額から逆算できる。目安として、月給とほぼ同額(残業・手当込み)と思ってよい。
ステップ2: 合計額と基準額(50万円)を比較する
基本月額 + 総報酬月額相当額 ≦ 50万円 なら、年金は全額支給。
50万円を超える なら、超えた額の1/2が支給停止される。
ステップ3: 停止額を計算する
支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 50万円)× 1/2
ただし停止額は基本月額が上限。つまり基本月額以上はカットされず、支給額がマイナスになることはない。
具体例で計算してみる
ケース①:会社員・65歳・月給30万円・年金月15万円
- 基本月額:15万円
- 総報酬月額相当額:30万円(賞与なしとして)
- 合計:45万円 → 50万円以下
- 支給停止額:0円 → 年金は全額支給
ケース②:会社員・65歳・月給40万円・年金月15万円
- 基本月額:15万円
- 総報酬月額相当額:40万円
- 合計:55万円 → 50万円を5万円超過
- 支給停止額:5万円 × 1/2 = 2.5万円/月
- 年金支給額:15万円 − 2.5万円 = 12.5万円/月
ケース③:管理職・62歳・月給50万円・賞与年間120万円・年金月18万円
- 基本月額:18万円
- 総報酬月額相当額:50万円 + 120万円÷12 = 60万円
- 合計:78万円 → 50万円を28万円超過
- 支給停止額:28万円 × 1/2 = 14万円/月
- 年金支給額:18万円 − 14万円 = 4万円/月
ケース④:役員・64歳・月給70万円・賞与年間200万円・年金月16万円
- 基本月額:16万円
- 総報酬月額相当額:70万円 + 200万円÷12 = 86.7万円
- 合計:102.7万円 → 50万円を52.7万円超過
- 支給停止額:52.7万円 × 1/2 = 26.35万円/月
- ただし基本月額16万円が上限 → 年金全額停止(16万円カット)
年収1,000万円超の役員クラスになると、老齢厚生年金が全額止まる。その代わり、働いた期間に応じて将来の年金額は増える(経過的加算)。
基準額50万円の経緯:過去4年で22万円引き上げ
在職老齢年金の基準額は、過去に何度も議論になってきた。直近では働き控えを防ぐ目的で大幅に緩和されている。
| 時期 | 65歳未満の基準額 | 65歳以上の基準額 |
|---|---|---|
| 〜2022年3月 | 28万円 | 47万円 |
| 2022年4月〜 | 47万円(統一) | 47万円 |
| 2023年度 | 48万円 | 48万円 |
| 2024年度 | 50万円 | 50万円 |
| 2025年度 | 51万円 | 51万円 |
2022年改正以前は、65歳未満は月収28万円を超えると年金が減らされていた。当時は「定年後に月15万円のパート収入を得るだけで、年金が減る」という現象が起き、60代前半の就労意欲を阻害する制度として問題視されていた。2022年改正で65歳以上と同じ47万円に統一され、以降は毎年の賃金動向に連動して改定されている。
本記事の計算例では代表値として50万円を使うが、自分のケースで厳密に試算するときは、最新の年度の基準額を日本年金機構のサイトで確認してほしい。
基礎年金は対象外 — 働きながらでも満額受給できる
誤解されやすい点として、老齢基礎年金(国民年金部分)は在職老齢年金の対象外だ。つまり、どれだけ稼いでいても基礎年金の年78万円(満額・月約6.5万円)はフルで受給できる。
対象になるのは老齢厚生年金(2階部分)のみ。つまり、厚生年金をずっと自営業で払ってこなかった人、専業主婦だった人は、在職老齢年金の影響を受けない。
自分がどのくらいの年金を受け取れるかは年金受給額シミュレーターで加入期間と平均給与から試算できる。基本月額の把握が在職老齢年金の出発点になる。
高年齢雇用継続給付との併給調整
60歳以降、給与が60歳到達時の75%未満に下がった人には、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が支給される。この給付と在職老齢年金を両方受け取ると、さらに年金が追加で減額される仕組みがある。
併給調整の概略: 高年齢雇用継続給付の支給対象月は、標準報酬月額の最大6%に相当する額が、在職老齢年金とは別に支給停止される。
ただしこの併給調整は、2025年4月から給付率自体が引き下げになった。従来の最大15%給付が10%に縮小され、2030年度(1965年4月以降生まれが60歳になる)で廃止の方向で調整されている。1965年度以降に生まれた人は、そもそも高年齢雇用継続給付を受け取れないため、この併給調整も発生しない。
繰下げ受給との相性
在職老齢年金には繰下げ受給との組み合わせで節税効果を高める使い方もある。
60〜64歳の間、給与が高くて年金がほぼ全額カットされるようなケース(上記ケース④)なら、老齢厚生年金の請求そのものを遅らせる「繰下げ請求」が有利になることが多い。繰下げた期間は月0.7%ずつ増額され、70歳まで繰下げれば42%増になる。
ただし、支給停止分は繰下げの増額対象にならないというルールがある。つまり、働きながら支給停止されていた年金は「そもそも受け取る権利が発生しなかった」扱いとなり、繰下げで増額されるのは支給停止されていない部分のみ。
- 年金が全額停止するほどの高給 → 請求自体を65歳以降に繰下げるのは効果が薄い(繰下げ対象になる月額が少ない)
- 年金の一部(月2〜3万円)が停止する程度 → 繰下げで節税効果が出る可能性あり
といった判断になる。自分の給与と年金のバランスで有利不利が変わるため、年金繰上げ・繰下げシミュレーターで受給開始年齢別の累計額を比較しておきたい。
在職老齢年金で減額されないための3つの工夫
支給停止を避けたい人が実務的にとれる選択肢は次のとおり。
- 厚生年金に加入しない働き方に切り替える — 週の所定労働時間を正社員の3/4未満にすると厚生年金の適用外になる。年金は全額支給。ただし将来の年金増額機会も失う
- 標準報酬月額を調整する — 4〜6月の残業を抑えると、9月改定の標準報酬月額が下がる(標準報酬月額の仕組み解説)
- 賞与を基本給に振り替える — 総報酬月額相当額には賞与も含まれるため、単純に月給化しても効果は限定的だが、賞与の一部を確定拠出年金(企業型DC)に振り替えると標準賞与額が下がる
ただし、支給停止を避けるために「働く量を減らす」のは、元も子もない選択になりがちだ。2024年度から基準額が50万円に引き上げられた現在、一般の会社員・管理職クラスであれば、全額支給されるケースのほうが圧倒的に多い。
手取りベースで考える:社会保険料・所得税との関係
在職老齢年金の計算は額面ベースで行われるが、実際に手元に残るのはそこから社会保険料・所得税・住民税を引いた額だ。60代の場合、次の税・社保が絡む。
- 社会保険料:給与と賞与に対して標準報酬月額ベースで健康保険・厚生年金が発生。65歳以上は介護保険が別途発生(金額は自治体差あり)
- 所得税・住民税:給与所得と年金(雑所得)の両方が課税対象。公的年金等控除(65歳以上は110万円)がある
- 住民税の配偶者控除:配偶者の年金収入によっては夫側の配偶者控除が外れる可能性
給与と年金の合計手取りを正確に把握するには手取り計算シミュレーターで給与部分、老後の生活費シミュレーターで年金部分を両方試算し、合算するのが実務的だ。
よくあるQ&A
Q1. 自営業やフリーランスで働くと在職老齢年金は発生しますか?
A. 発生しない。厚生年金に加入しない働き方(個人事業・役員でも厚生年金適用外の報酬形態)は、在職老齢年金の対象外。ただし、法人化して自分に役員報酬を払っている場合は、厚生年金加入=対象になる。
Q2. 支給停止された分は、あとで返ってくることはありますか?
A. 返ってこない。支給停止は文字通り「支給されなかった」扱いで、退職や給与減少で合計が50万円以下になった月から改めて全額支給が再開される。過去の停止分は戻らない。
Q3. 妻がパートで働きながら夫の年金を受け取る場合、妻の収入は影響しますか?
A. 夫の在職老齢年金には影響しない。判定はあくまで夫本人の給与と夫本人の老齢厚生年金の組み合わせ。ただし妻の年収が130万円を超えると夫の健康保険の扶養から外れる別論点がある。
Q4. 65歳直前で年金を請求したほうがいいですか、65歳を過ぎてからがいいですか?
A. ケースによる。働き続けて支給停止が大きいなら、66歳以降の繰下げ受給を検討する価値がある。退職予定で給与がなくなるなら65歳から通常受給して構わない。年金繰下げシミュレーターで自分の条件を入れて比較するのが確実。
Q5. 基準額の50万円は、どうやって決まっていますか?
A. 法律上は「支給停止調整額」と呼ばれ、賃金・物価の変動率に応じて毎年度改定される。厚生労働省が翌年度の額を3月に告示する。2024年度50万円、2025年度51万円と、ここ数年は毎年1万円ずつ上がっている。
まとめ:在職老齢年金は「減る制度」ではなく「上限のある制度」
- 基礎年金は対象外。対象は老齢厚生年金のみ
- 基準額は2024年度50万円、2025年度51万円と毎年改定
- 基本月額+総報酬月額相当額が50万円を超えた分の1/2がカット
- 管理職・役員クラスでなければ、現行基準でほぼ影響を受けない
- 繰下げとの合わせ技は、支給停止の程度で有利不利が変わる
在職老齢年金は「働いたら年金が減らされる、ずるい制度」として語られがちだが、制度の目的は公的年金の財政バランス維持にある。2022年・2024年の連続改正で実質的な影響範囲は大きく縮小され、今では多くの再雇用・再就職者が影響を受けない設計になっている。
関連する具体的な試算は次のシミュレーターで行える。
- 年金受給額シミュレーター — 加入期間別の老齢厚生年金の見込み額
- 年金繰上げ・繰下げ比較 — 60歳繰上げ・70歳繰下げの損益分岐
- 手取り計算シミュレーター — 給与部分の税・社保を控除した月手取り
- 社会保険料シミュレーター — 標準報酬月額と保険料の早見表
- 老後の生活費シミュレーター — 年金+貯蓄取崩しのキャッシュフロー
---
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」(2025年度版)
- 厚生労働省「令和6年度の年金額改定」告示(支給停止調整額50万円)
- 厚生労働省「令和7年度の年金額改定」(支給停止調整額51万円)
- 雇用保険法「高年齢雇用継続給付の支給率引下げ(2025年4月施行)」
- 国税庁「公的年金等に係る雑所得の計算」公的年金等控除110万円(65歳以上)