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役職定年で年収240万円ダウン。子ども2人が私大・住宅ローンも残る55歳が家計を引き直した記録【ケーススタディ】

大手損保の課長が役職定年で年収920万→680万に。月の手取りは約13.6万円減、長男・長女がそろって私立大学、住宅ローンも残債1,620万円。妻のパート復帰・ローンの期間延長・奨学金への切替・生涯収入の引き直しという4つの打ち手で、60歳定年までの5年間を組み直した過程を6つのシミュレーターで追う。

年収の差、240万円。

大宮さん(仮名・55歳)は2026年4月、勤続31年の損害保険会社で役職定年を迎えた。課長の肩書きを外れ、「専任課長代理」という社内呼称の非管理職に。仕事の内容は7割方そのままなのに、管理職手当と業績連動賞与が縮み、年収は920万円から680万円へ落ちた。会社の規定どおりの「想定内」の出来事だったはずが、いざ4月の給与明細を見ると話は別だった。

この記事は、大宮さん一家が役職定年の初年度に直面した「お金の段差」を、どう乗り越えたかの記録だ。定年再雇用(60歳)の前にやってくるこの段差は、子どもの教育費と住宅ローンが現役のままという点で、再雇用後の家計よりむしろ厳しいことがある。6つのシミュレーターを使いながら一家が引き直した家計を、順を追って共有する。

大宮家のプロフィール

項目内容
大宮さん55歳・大手損保の専任課長代理(役職定年)
年収680万円(役職定年前は920万円)
妻・恵子さん52歳・専業主婦16年(パート復帰を検討中)
長男・拓海さん21歳・私立大学(文系)3年・自宅外通学(横浜の実家→京都)
長女・美咲さん18歳・私立大学(文系)1年・2026年4月入学・自宅から通学
住居東京都八王子市の戸建て(築16年)
住宅ローン残債1,620万円・固定1.0%・残り8年(完済予定63歳)・月返済17.6万円
金融資産1,380万円(普通預金620・定期300・つみたてNISA 460)
退職金見込み1,580万円(60歳定年時・一時金)

書き出すと「貯蓄1,380万円・退職金1,580万円」と数字は悪くない。だが、教育費と住宅ローンが同時にのしかかる5年間をどう渡るか——そこを設計しないと、退職金に手を付ける前に貯蓄が削れていく。

まず起きたこと:手取りはいくら減るのか

大宮さんが最初にやったのは家計簿ではなく、手取りの再計算だった。「年収680万円」は額面であって、実際に振り込まれる金額ではない。

役職定年前(920万円)役職定年後(680万円)
額面年収920万円680万円
社会保険料(概算)▲約130万円▲約100万円
所得税(住宅ローン控除後)▲約25万円▲約1万円
住民税▲約44万円▲約23万円
手取り年収(概算)約721万円約556万円
手取り月額(賞与込み12等分)約60.1万円約46.3万円

手取りの差は年▲165万円、月にならすと▲13.6万円。所得税が役職定年後にほぼゼロになるのは、課税所得が下がって住宅ローン控除(年末残債1,620万円×0.7%=約11.3万円)で大半が相殺されるためで、これは「ローン控除が効いている」というより「税金を引かれる前の所得そのものが減った」という話だ。

額面年収から手取りを出す計算は、配偶者控除の有無・扶養家族の年齢・社会保険の等級で大きくブレる。大宮家の前提(配偶者控除あり・長男21歳は特定扶養親族・長女18歳は一般扶養)と違う人は、手取り計算シミュレーターに自分の額面年収と家族構成を入れて確かめておくとよい。役職定年後の年収が事前にわかっているなら、両方の数字を入れて差額を見ておく。

「固定で出ていくお金」を並べてみたら、生活費が残らなかった

恵子さんと一緒に、来年度(長男4年・長女2年)に必ず出ていくお金を書き出した。

項目年額
住宅ローン返済211万円(月17.6万円)
長男の学費(私大文系)115万円
長男への仕送り120万円(月10万円)
長女の学費(私大文系・自宅)118万円
固定資産税・火災保険・修繕積立30万円
生命保険・医療保険(夫婦・子)36万円
小計(固定的支出)630万円

手取り世帯収入は約556万円(恵子さんが働かない場合)。固定的支出630万円との差は▲74万円——食費も光熱費も通信費も払う前に、すでにマイナスだ。貯蓄1,380万円を取り崩せば数年は回るが、それでは退職金に手を付ける前に老後資金の原資が消える。

ここで一家は「削る」より先に「収入と固定費の構造を変える」方向に舵を切った。打ち手は4つ。

打ち手1:妻のパート復帰を「扶養内」から「社会保険加入」に変える

恵子さんは当初、「年103万円・130万円の壁の内側」で働くつもりだった。だが、世帯の手取りを増やすという一点で見ると、壁の内側にこだわる合理性は薄い。

  • 扶養内パート 年120万円 → 手取りはほぼ満額の約118万円。ただし将来の厚生年金は増えない。
  • 社会保険加入 年170万円(週28時間・時給1,250円程度) → 社会保険料・税で約35万円引かれ、手取りは約135万円。それでも扶養内より手取りで月1.4万円多い。さらに厚生年金に加入するので、恵子さん自身の老齢厚生年金が積み上がる。

恵子さんは後者を選び、近所の調剤薬局の事務に週28時間で復帰した。世帯手取りは556万円+135万円=約691万円。役職定年前(721万円)との差は▲30万円まで縮んだ。

なお、恵子さんの年収が増えると大宮さんの配偶者控除は配偶者特別控除へ移り、控除額がわずかに減る(恵子さんの合計所得が約65万円なら控除は36万円前後)。世帯トータルでは増収が上回るが、手取り計算をやり直すなら手取り計算シミュレーターで配偶者の収入欄も更新しておく。

打ち手2:住宅ローンの返済期間を延ばす

残債1,620万円・残り8年・月17.6万円。この返済額が固定的支出の3分の1を占めている。一家は銀行に相談し、返済期間を残8年から残13年へ延長する条件変更(リスケジュール)を申し込んだ。

期間延長前期間延長後
残り返済期間8年(96回)13年(156回)
月返済額約17.6万円約11.1万円
総返済額(残期間)約1,685万円約1,728万円
完済時の年齢63歳68歳

月の負担は▲6.5万円。引き換えに総利息は約43万円増え、完済が68歳までずれ込む。一家はこれを「教育費のピーク(あと2年)を渡るための一時的なコスト」と割り切り、長女が卒業して家計に余裕が戻ったら、退職金の一部で繰上げ返済して完済年齢を引き戻す前提にした。

期間を延ばすと総額がいくら増えるか、後で繰上げ返済するといつ完済できるかは繰上げ返済シミュレーターで「期間短縮型」を選んで試算できる。借り換えの方が有利になるケースもあるので、その場合は住宅ローン返済額シミュレーターで別の金利・期間の返済額を出して比べる。

打ち手3:長男の学費を「親が全額」から「奨学金+本人」に切り替える

長男・拓海さんの学費+仕送りは年235万円。残り1年半とはいえ、約350万円が出ていく。一家は拓海さん本人と話し合い、4年次から日本学生支援機構の第二種奨学金(月5万円・卒業後本人が返済)を申し込み、仕送りを月10万円から月5万円へ減らした。差し引き、親の負担は年235万円から年115万円+仕送り60万円=年175万円へ。年▲60万円。

拓海さんは「就職してから返す」前提で納得した。大学卒業後の返済額(第二種・月5万円×24か月=120万円を金利0.5%・15年返済なら月約7,000円)は、初任給からなら無理のない範囲だと奨学金返済シミュレーターで本人に見せて確認した。下の子の学費が今後4年でいくらかかるか、自宅通学と一人暮らしでどれだけ違うかは大学費用シミュレーターで先に出しておくと、仕送りや奨学金の必要額が見えやすい。

打ち手4:役職定年後の「生涯収入」を引き直す

役職定年で大宮さんが手放したのは月13.6万円だけではない。「定年まで管理職のまま」という前提も消えた。一方で会社の制度では、役職定年後も60歳の定年、その後65歳まで再雇用という道が用意されている。一家は「55歳から65歳まで、年収はだいたい600〜680万円で横ばい」というシナリオに置き換えて、生涯収入を引き直した。

年齢想定年収状態
50〜54歳約900万円課長(旧来の想定)
55〜59歳約680万円専任課長代理(役職定年)
60歳定年・退職金1,580万円受取
60〜64歳約450万円再雇用(嘱託・賞与なし)
65歳〜公的年金中心リタイア

「課長のまま定年」を漠然と前提にしていたときと比べ、55〜64歳の10年間で約2,000万円少ない——この事実を早めに直視できたことが、後の判断を楽にした。年代別の平均年収カーブと自分の見込みを並べたいなら年齢別年収シミュレーターが目安になる。

5年後、60歳の定年で何が起きるか

打ち手1〜3を反映した、55歳から60歳までの収支見通しがこれだ。

年度世帯手取り固定的支出+生活費年間収支金融資産残高(1,380万円スタート)
55歳(長男3年・長女1年)約691万円約700万円▲9万円1,371万円
56歳(長男4年・長女2年)約691万円約675万円+16万円1,387万円
57歳(長男就職・長女3年)約700万円約560万円+140万円1,527万円
58歳(長女4年)約700万円約560万円+140万円1,667万円
59歳(長女就職)約700万円約500万円+200万円1,867万円

長女が卒業する59歳までは綱渡りだが、教育費が抜けた57歳以降は一気に貯蓄ペースが戻る。60歳の定年時、金融資産は約1,867万円。ここに退職金1,580万円が加わり、60歳時点で約3,450万円。打ち手を打たずに貯蓄を取り崩し続けるシナリオ(毎年▲74万円×5年で約370万円減)と比べると、5年で700万円以上の差がついた。

老後資金は間に合うのか

大宮夫婦が95歳まで生きると仮定し、65歳以降の生活費を月26万円(持ち家・ローン完済前提)、公的年金を世帯で月23万円(大宮さんの老齢厚生年金+恵子さんの基礎・厚生年金。「ねんきん定期便」ベース)とすると、不足は月3万円・年36万円。65歳から95歳までの30年で約1,080万円の取り崩しが必要になる。

60歳の退職金後資産3,450万円から、60〜65歳の再雇用期間(年収450万円・賞与なし)でさらに年150万円ほど積めれば、65歳時点で約4,200万円。住宅ローンの残債(68歳完済予定)を退職金から一括返済しても十分残る計算だ。必要老後資金の目安は老後資金シミュレーターで生活費・年金見込み・寿命を入れて出せる。

つみたてNISAの460万円は売らずに継続し、再雇用期間も月3万円ずつ積み増す方針にした。年3%の期待リターンなら10年後に約700万円。長期の積立がどう育つかはNISAシミュレーターで積立額・期間・利回りを変えて確認できる。

大宮さんが3か月後に振り返って

「役職定年は『収入が下がるイベント』だと思っていたが、本質は『前提が一つ消えるイベント』だった。課長のまま定年、という地図がなくなったとき、最初は腹も立った。でも、地図がないなら描き直すしかない。妻が薬局に復帰すると言い出したとき、正直ほっとした」

「いちばん効いたのは住宅ローンの期間延長。月6.5万円の余裕は、教育費のピークを越えるための時間を買ったようなものだった。総額は増えたが、あのまま月17.6万円を払い続けていたら、つみたてNISAを解約していたと思う」

大宮家のケースが示すのは、役職定年は「収入の段差」であると同時に「人生計画の前提の段差」でもあるということだ。手取りの数字を直視し、固定費の構造を変え、子の学費と老後資金の優先順位を家族で並べ替える——順番にやれば、貯蓄を削らずに渡れる。

もし条件が違ったら

条件の違い効いてくる打ち手
子どもが1人だけ/すでに独立打ち手3(学費)はほぼ不要。打ち手1・2だけで黒字化しやすい
住宅ローンを完済済み固定的支出が年211万円軽い。妻のパートも扶養内で足りる可能性
役職定年が60歳・その後すぐ再雇用教育費とは重ならないことが多い。再雇用後の家計設計が主戦場(老後資金シミュレーターで先に描く)
配偶者がすでにフルタイム勤務世帯収入の落ち込みが相対的に小さい。減った分を貯蓄から差し引き、生活費の上限を再設定するだけで済むことも
役職定年で年収の下げ幅が1割程度多くは生活費の微調整で吸収できる。むしろ「下がる前提」を将来計画に織り込むことが主目的

役職定年の通知が来たら、まず手取り計算シミュレーターで前後の手取りを出し、その差額を12で割る。月いくら足りなくなるのか——その数字を家族で共有するところから始めると、打ち手の優先順位が決めやすい。

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  • 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」(50代後半の役職者と非役職者の賃金分布)
  • 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」(年齢階層別の平均給与)
  • 日本学生支援機構「奨学金貸与・返還シミュレーション」(第二種奨学金の貸与月額・返還例)
  • 国土交通省「令和5年度 住宅市場動向調査」(住宅ローンの返済期間・残高分布)
  • 総務省「家計調査 二人以上世帯」2025年(世帯主55〜59歳・60〜64歳の支出)
  • 金融庁「資産運用シミュレーション」(長期積立投資の期待リターン前提)

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