個人事業主の年内節税は11月中に決める——所得540万円のWebデザイナーが試すと、小規模企業共済の年末加入+1年分の現金納付で23.2万円、30万円のPC前倒しで12.3万円(うち国保3万円)。iDeCoの12月分は今年の控除にならず、国民年金の前納は来年分を先食いするだけだった【2026年分】
個人事業主が12月31日までに打てる節税の手を、練馬区在住・事業所得約540万円のWebデザイナー(仮名・38歳・独身)で試算。小規模企業共済は12月最終営業日までに加入し1年分を現金納付すれば84万円全額が今年の所得控除になり、税金は23.2万円減る。仕事用PCの購入(少額減価償却資産の特例は2026年4月取得分から40万円未満)は所得税・住民税に加えて事業税・国保まで下げ12.3万円減。一方でiDeCoの12月分掛金は1月引落しで来年の控除、国民年金の前納は控除の年をずらすだけ。共済に入るとふるさと納税の上限が約12.0万円から約8.4万円に下がるため、寄付は最後に回すべき理由と11〜12月の段取りを整理した。
「12月に入ってから慌てて領収書を集めても、もう打てる手がないんですよね」
練馬区でWebデザイナーをしている森下さん(仮名・38歳・独身)は、毎年同じことを言っている。開業6年目、青色申告で65万円控除。2026年は売上が伸び、1〜10月の帳簿と11〜12月の見込みを足すと、年間の売上840万円・経費220万円になりそうだ。
個人事業主の税金は、12月31日時点の状態で1年分が決まる。そして年末に打てる手の中には、12月に入ってからでは間に合わないものと、そもそも今年の節税にならないものが混ざっている。森下さんの数字で、4つの手を順番に検算してみる。
森下さんの「何もしない場合」の負担
まず基準になる2026年分の負担を出す。事業所得は売上840万円 − 経費220万円 − 青色申告特別控除65万円で約555万円、そこから前年分の事業税を経費として引いて約540万円(定常状態として計算)。
| 項目 | 金額 | 計算の要点 |
|---|---|---|
| 所得税(復興特別所得税込み) | 361,500円 | 課税所得390.8万円 × 20% − 42.75万円、× 1.021 |
| 住民税 | 417,300円 | 課税所得414.8万円 × 10%、調整控除・均等割を加減 |
| 個人事業税(デザイン業5%) | 165,000円 | (売上840万円 − 経費220万円 − 事業主控除290万円)× 5% |
| 国民健康保険(東京23区・令和8年度料率) | 591,313円 | 所得割+均等割 |
| 国民年金 | 215,040円 | 月17,920円 × 12か月 |
| 合計 | 1,750,153円 |
所得税の基礎控除は、令和8年度税制改正で合計所得489万円以下なら104万円に引き上げられたが、森下さんは489万円を超えるので67万円になる。
4つの手を検算する
| 手 | 年内にやること | 今年の負担減 | 減る税・保険料 | 来年への影響 |
|---|---|---|---|---|
| ① 小規模企業共済 | 12月最終営業日までに加入し、1年分84万円を現金納付 | 231,900円 | 所得税・住民税 | 来年の分は来年また納付 |
| ② 経費の前倒し | 仕事用PC 30万円を12月中に購入し使用開始 | 122,754円 | 所得税・住民税・事業税・国保 | 来年買う予定だったなら、来年の負担が同程度増える |
| ③ 国民年金の前納 | 2027年1〜3月分(53,760円)を12月に納付 | 16,400円 | 所得税・住民税 | 来年の控除が同額減る |
| ④ iDeCo | ―― | 0円 | ―― | 12月分の掛金は来年の控除 |
一見すると①が最強だが、表の右2列を見ないと判断を誤る。1つずつ中身を見ていく。
① 小規模企業共済——「年末加入+現金1年分」が使えるのは年末だけ
小規模企業共済は、個人事業主の退職金づくりの制度で、掛金は月1,000〜70,000円、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から引ける。
年末に効く理由は、中小機構が次の2点を公式に案内しているからだ。
- 委託団体または金融機関でその年の12月の最終営業日までに手続きすれば年内加入になる
- 年末に加入する場合、1年分を現金で納付すれば、その全額をその年の所得控除にできる(前納期間が12か月以内なら全額が支払った年の控除)
逆に口座振替で加入すると、最初の引落しは原則として申込月の翌々月になり、控除は来年に回る。
森下さんが月7万円 × 12か月 = 84万円を現金納付した場合の計算は次のとおり。
- 所得税:課税所得390.8万円 → 306.8万円。20%帯の60.8万円と10%帯の23.2万円が消え、(121,600円 + 23,200円)× 1.021 ≒ 147,900円減
- 住民税:84万円 × 10% = 84,000円減
- 合計 231,900円。84万円の27.6%が戻る計算
ただし、国保と事業税は1円も減らない。 共済の掛金は「所得控除」で、国保の保険料と事業税は控除前の所得で決まるからだ。また、加入から12か月未満で任意解約すると掛金は戻らず、240か月未満の任意解約は元本割れになる。84万円を一度に入れられても、来年以降も払い続けられる額かを先に考えたい。月1万円(年12万円)なら負担減は36,500円、月3万円(年36万円)なら109,500円になる。
② 経費の前倒し——国保まで下がるが、「どうせ買う物」に限る
経費は所得そのものを減らすので、所得税・住民税に加えて事業税と国保(翌年度の保険料)まで下がる。30万円で122,754円、実に40.9%が戻る。内訳は所得税52,100円・住民税25,500円・事業税15,000円・国保30,154円だ。
条件は2つある。
- 12月31日までに「使い始める」こと。 注文しただけ、届いたが箱のままでは今年の経費にならない
- 青色申告の少額減価償却資産の特例を使うこと。 中小企業庁の資料によれば、2026年4月1日以後に取得した資産は40万円未満まで一括で経費にできる(年300万円まで)。特例を使わないと、30万円のPC(耐用年数4年・定額法0.250)は12月に使い始めても 30万円 × 0.250 × 1/12 = 6,250円しか今年の経費にならない
注意したいのは、この手は「節税」というより支出のタイミング調整だという点だ。来年1月に買う予定だったPCを12月に買えば、今年の税金は12.3万円減るが、来年の経費が30万円減って来年の税金がほぼ同額増える。不要な物を買えば、30万円払って12.3万円戻るだけなので17.7万円の持ち出しになる。
所得が489万円を少し上回る人だけは事情が違う。前倒しで合計所得を489万円以下にできれば、所得税の基礎控除が67万円から104万円に37万円増える(令和8・9年分)。森下さんは50万円前倒ししても約491万円で届かなかったが、所得490〜510万円前後の人は個人事業主 税金シミュレーターで経費を動かして確かめる価値がある。
③ 国民年金の前納——控除の「年」をずらすだけ
国民年金保険料は、納付書(現金)なら年度の途中からでも年度末までの分をまとめて前納できる。12月に2027年1〜3月分(17,920円 × 3か月 = 53,760円)を納めれば、全額を2026年分の社会保険料控除に入れられる。
効果は16,400円。ただし来年は1〜3月分を払わないので、来年の控除が同額減る。今年の税率が来年より高い人(今年だけ大口の案件があった等)以外は、2年合計でほぼ差がない。前納には割引もあるが、1〜3か月分ではわずかだ。
④ iDeCo——12月にできることはない
iDeCoの掛金は毎月26日に「前月分」が引き落とされる。12月分は2027年1月26日の引落しなので、控除は2027年分になる。毎年届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」も、前年12月分〜当年11月分が対象だ。新規加入も申込から初回引落しまで1〜2か月かかるので、11月の申込では今年に間に合わない。
それでもiDeCoを検討するなら、来年分の話として考えるのがいい。第1号被保険者の上限は2026年12月分から月7.5万円(国民年金基金・付加保険料と合算)に引き上げられる。共済とiDeCoの組み合わせはiDeCo シミュレーターで来年分を試算できる。
ふるさと納税は「最後」に回す
ここが年末の落とし穴だ。共済や経費で所得が下がると、ふるさと納税の上限も下がる。上限の目安は次の式で求める。
> 上限 ≒ 住民税所得割 × 20% ÷(90% − 所得税率 × 1.021)+ 2,000円
| 森下さんの状態 | 住民税所得割 | 所得税率 | 上限の目安 |
|---|---|---|---|
| 何もしない | 412,300円 | 20% | 約12.0万円 |
| ①共済84万円 | 328,300円 | 10% | 約8.4万円 |
| ①+②(PC30万円も) | 297,500円 | 10% | 約7.7万円 |
11月に「去年と同じ12万円」を寄付してから共済に入ると、上限を約3.6万円超えた分は自己負担になる。順番は共済・経費を確定 → 上限を再計算 → 寄付。再計算にはふるさと納税 控除額シミュレーターが使える。
森下さんの結論と、11〜12月の段取り
森下さんは、①を月3万円で年末加入(36万円を現金納付)、②は「来年春に買い替える予定だったPC」だけ前倒しすることにした。①は退職金の積立として来年以降も続ける前提、②は来年の負担が増えることを承知のうえでの選択だ。2つ合わせた今年の負担減は231,554円(所得税124,900円・住民税61,500円・事業税15,000円・国保30,154円)で、ふるさと納税の上限は約12.0万円から約9.0万円に下がる。課税所得が329.3万円になり、所得税率が20%から10%の帯に下がるのが効いている。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 11月中旬まで | 1〜10月の帳簿を締め、11〜12月の売上・経費見込みを足して今年の所得を出す |
| 11月下旬 | 小規模企業共済の申込先(取引銀行・商工会等)に、年内加入と1年分の現金納付ができるか、受付締切を確認 |
| 12月上旬 | 前倒しする備品を購入し、12月中に設置・使用開始。納品書・領収書を保管 |
| 12月中旬 | 国民年金を前納するなら、年金事務所で前納用の納付書を依頼 |
| 12月下旬 | 所得を確定させてから、ふるさと納税の残枠を寄付 |
| 12月最終営業日 | 共済の年内加入の期限(金融機関によってはもっと早く締め切る) |
青色申告そのものの効果や、来年分(令和9年分)から上がる控除額を確かめるなら青色申告 vs 白色申告 メリット比較を、単価を上げて所得そのものを増やす方向ならフリーランス 単価設定シミュレーターを使ってほしい。
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この記事の計算について
- 税額・保険料は、くらシムの個人事業主 税金シミュレーターと同じロジック(令和8年分の所得税・基礎控除、東京23区の令和8年度国保料率、個人事業税)で算出した。国保は2026年分の所得で2027年度の保険料が決まるため、②の国保の減額は来年度の保険料に表れる
- 前納減額金、事業税の経費算入の時期、扶養や配偶者の有無で数字は変わる。実感と合わない点があれば、シミュレーターの「計算結果を報告」から知らせてほしい
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 よくあるご質問」(年内加入・年末加入時の現金納付・前納の控除、初回引落しの時期)、「小規模企業共済 制度のしおり(令和8年6月改訂版)」
- 中小企業庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(令和8年5月)
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」、タックスアンサーNo.1135「小規模企業共済等掛金控除」
- 日本年金機構「国民年金保険料の前納」、国民年金保険料(令和8年度 月17,920円)
- 国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」(掛金の引落し日・拠出限度額)
- 特別区(東京23区)令和8年度国民健康保険料率