お盆の帰省は年に一度の「親のお金」会議——実家で確認しておきたい7項目チェックリスト【2026年】
親の介護は平均5年1か月、費用総額は平均約580万円。それなのに親の年金額を知らないまま、ある日突然その負担が始まる家庭が多い。兄弟姉妹が一堂に集まるお盆は、親のお金を確認できる年に一度の機会——年金・介護の希望・口座と保険の在りか・実家の名義・葬儀・車の7項目について、聞き方の台詞例と目安の数字をまとめた。
580万円。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(2021年度)によると、介護にかかった費用は月平均8.3万円、期間は平均61.1か月(5年1か月)。一時費用の平均74万円を足すと、1人あたりの総額はおよそ580万円になる。
この金額の何割かを、多くの場合は子ども世代が突然背負う。しかも「突然」なのは介護の発生だけではない。親の年金額、通帳の場所、実家の名義——本来なら前もって知っておけるはずの情報を、倒れてから初めて探し始めるから「突然」になる。
普段は電話で済ませている話も、顔を合わせれば聞ける。そして兄弟姉妹が同席していれば「誰が何を分担するか」まで一気に進む。お盆の帰省は、実質的に年に一度しかない「親のお金の家族会議」のチャンスだ。確認すべきことを7項目に絞った。全部でなくていい。今年は2つか3つで十分。
① 年金の実額——「振込通知書、一度見せてもらえる?」
親の生活費の土台なのに、実額を知らない子どもは多い。毎年6月に日本年金機構から届く「年金振込通知書」を見せてもらうのが一番早い。
目安として、厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和5年度)によると、厚生年金の平均受給月額は約14.6万円(基礎年金含む)、国民年金のみなら約5.7万円。両親2人分の合計と、生活費の差額がそのまま「貯蓄の取り崩しペース」になる。
もうひとつ大事なのが、父が先に亡くなった場合の母の年金(またはその逆)。遺族厚生年金は夫の報酬比例部分の4分の3で、世帯の年金収入は思った以上に減る。遺族年金シミュレーターで「その後の母の月額」を試算しておくと、実家の住み替えや同居の議論が具体的になる。
② 介護になったらどうしたいか——「家がいい? 施設でもいい?」
介護の話は「なったらどうするか」ではなく「どうしたいか」という希望の確認から入ると角が立たない。費用感はおおまかに次の通り。
| 選択肢 | 月額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 在宅介護(介護保険サービス利用) | 数万円〜10万円弱 | 自己負担1〜3割+保険外サービス |
| 特別養護老人ホーム | 10〜15万円 | 要介護3以上。待機の地域差が大きい |
| 民間の有料老人ホーム | 15〜30万円 | 入居一時金が別途かかる施設も |
在宅の場合の自己負担は要介護度で大きく変わる。在宅介護の費用シミュレーターで介護度別に月額を出しておくと、①で確認した年金額で賄えるか——足りない分は誰が出すか——まで話が届く。
③ 介護が始まったら誰が動くか——兄弟姉妹がいる今日だから決められる
総務省「就業構造基本調査」(令和4年)では、介護・看護を理由とした離職者は年間約10.6万人。ノープランのまま介護が始まると、実家に一番近い1人、あるいは収入が低いほうの1人に負担が集中し、離職に追い込まれるのが典型パターンだ。
- 平日の通院付き添いは誰が担うか(近居のきょうだい? 介護保険の通院介助?)
- 金銭負担は「均等割」か「収入比例」か
- 離職ではなく介護休業(雇用保険から賃金の67%の給付)や時短で乗り切れないか
離職した場合の生涯収入インパクトは想像よりはるかに大きい。介護離職の収入インパクトで「離職・休業・時短・サービス利用」の4パターンを比べてから決めても遅くない。
④ 口座・保険・重要書類の在りか——「どこに何があるかだけ教えて」
金額を聞く必要はない。「どの銀行に口座があるか」「保険証券・権利証・実印はどこか」の在りかだけで十分だ。
これが重要なのは認知症リスクがあるからで、判断能力が失われると口座は事実上凍結される。全国銀行協会の考え方(2021年)でも、親族による代理出金は医療費・介護費など本人の利益が明らかな場合に限られ、手続きのハードルは高い。凍結されてから成年後見制度を使うと、後見人報酬が月2万円前後かかり続けるケースもある。元気なうちの家族信託や代理人カードの検討は、在りかの共有から始まる。
⑤ 実家の名義と相続——登記義務化で「放置」はできなくなった
2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知ってから3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になった。「実家は誰の名義か」「祖父母名義のまま放置された土地はないか」は、お盆に登記簿を眺めながら確認したい筆頭項目だ。
相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、相続人が2人なら4,200万円までは非課税。実家の評価額と預貯金を足してこのラインを超えそうかどうかだけでも、相続税シミュレーターでざっくり確かめておくと、生前贈与などの対策を検討する時間が生まれる。
⑥ 葬儀とお墓の希望——聞きにくいが、聞かないと10倍揉める
縁起でもない、と一番後回しにされる項目。しかし葬儀は「亡くなってから数日以内」に、判断力が最も落ちている状態で100万円規模の契約をする数少ないイベントだ。一般葬でおおむね100〜150万円、家族葬で100万円前後、直葬なら20〜40万円と、形式によって費用は数倍違う(香典による相殺も形式で変わる)。葬儀費用シミュレーターで形式別の実負担を見ながら、「派手にしてほしいか、家族だけでいいか」の一言だけでも聞いておくと、いざというときの家族の意思決定が段違いに速い。お墓・仏壇の意向、遺影に使ってほしい写真まで聞ければ上出来だ。
⑦ 車と免許——「あと何年乗るつもり?」
警察庁の運転免許統計によると、75歳以上の免許自主返納は年間25万件前後。地方の実家では「車がないと生活できない」が現実なので、頭ごなしの返納論は禁物だが、車の維持費と返納後の交通費を並べて比較すると話が前に進みやすい。タクシー vs マイカーで実家の条件(通院頻度・スーパーまでの距離)を入れて試算すると、「次の車検・次の買い替えをどうするか」という期限付きの相談に変えられる。
切り出し方のコツ
正面から「相続の話をしよう」と言うと、たいてい失敗する。実際に話が進んだ家庭がやっているのは、こんな入り方だ。
- ニュースや記事を口実にする——「相続登記が義務化されたらしいけど、うちは大丈夫?」
- 自分の話から始める——「NISA始めたんだけど、父さんは年金っていくらもらえてるの?」
- 一度に全部聞かない——今年は①と④だけ。残りは正月と来年のお盆へ
- 兄弟姉妹のいる場で——あとから「聞いてない」を生まないため
- その場で結論を出さない——目的は決定ではなく情報の共有
まとめ:7項目チェックリスト
| # | 項目 | 確認すること | 目安の数字 |
|---|---|---|---|
| ① | 年金 | 振込通知書の実額・遺族年金後の月額 | 厚生年金平均14.6万円/月 |
| ② | 介護の希望 | 在宅か施設か・費用の賄い方 | 在宅数万円〜、施設10〜30万円/月 |
| ③ | 介護の分担 | 誰が動くか・お金は均等か収入比か | 介護離職 年10.6万人 |
| ④ | 書類の在りか | 口座・保険証券・権利証・実印の場所 | 後見人報酬 月2万円前後 |
| ⑤ | 実家の名義 | 登記名義・相続税の基礎控除超えの有無 | 基礎控除3,000万円+600万円×人数 |
| ⑥ | 葬儀・墓 | 形式の希望(一般葬/家族葬/直葬) | 20万〜150万円 |
| ⑦ | 車と免許 | あと何年乗るか・返納後の足 | 75歳以上の返納 年25万件 |
このページを印刷するかスマホに入れて、帰省の荷物に加えてほしい。580万円の介護費用そのものは減らせなくても、「突然」を「準備済み」に変えることは、今年のお盆にできる。