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税金・社会保険

病気やケガで働けない月のもう一つの給与|傷病手当金の仕組みと支給額を制度から解説

会社員が連続4日以上休むと出る「傷病手当金」。健康保険から日額の約2/3が最長1年6ヶ月(通算)支給される制度の要件・計算式・申請手順を、令和4年改正後の通算化ルールや税金の扱いまで整理します。

日額 8,889円——これは、月給40万円の会社員がメンタル不調で3ヶ月休んだときに、健康保険から毎日振り込まれる金額のおおよその目安だ。月額にして約27万円。手取りの満額ではないが、家賃も食費も薬代も、これで払える水準になる。

この給付の名前を傷病手当金(しょうびょうてあてきん)という。加入している健康保険から、病気やケガで働けない期間に支給されるもう一つの"給与"だ。毎月払っている健康保険料のうち、実はこの給付の原資が含まれている。

にもかかわらず、使えることを知らないまま貯金を取り崩す人、フリーランスに転身してから「あっ、もう対象外だった」と気づく人は少なくない。この記事では、傷病手当金の支給条件・計算式・申請手順を、2022年(令和4年)の改正で変わった支給期間の通算化まで含めて整理する。

傷病手当金はどこから支給されるのか

まず混乱しやすいのが、どの保険から出る給付なのかという点だ。

給付名財源主な目的
傷病手当金健康保険(協会けんぽ・組合健保)病気・ケガで働けない間の所得保障
休業補償給付労災保険業務中・通勤中の負傷に対する補償
失業給付(基本手当)雇用保険失業中の生活費
障害年金厚生年金・国民年金長期の障害状態が残ったとき

傷病手当金は"業務外の傷病"が対象という点がポイント。職場で怪我をしたなら労災保険の出番で、健康保険の傷病手当金は使えない。逆にプライベートでスキーで足を折った、うつ病で働けない、がんで入院した——このあたりは傷病手当金のテリトリーになる。

根拠法は健康保険法第99条。全国健康保険協会(協会けんぽ)および各健康保険組合が運営する健康保険から支給される。

支給を受ける4つの条件

すべて満たす必要がある。欠けると1円も出ない。

条件1:業務外の病気またはケガであること

業務上・通勤中の傷病は労災保険が先に適用されるため、健康保険の対象外となる。風邪や歯科治療でも、症状により働けない状態なら対象になる。美容整形や疲労、正常な妊娠など「療養の対象にならないもの」は除外される。

条件2:仕事に就けないこと(療養のため労務不能)

「働けない」かどうかは医師の診断で判定される。申請書には担当医師の意見記入欄があり、そこに就労不能期間が記載される。テレワークで軽作業ができるケースでは判断が分かれることもあるため、医師に正直に症状を伝えることが肝心だ。

条件3:連続する3日間(待期)を含む4日以上休んでいること

最初の3日間は待期期間と呼ばれ、支給されない。有給休暇・土日・祝日も待期にカウントされる。待期が完成した4日目以降が支給対象になる。

休業日パターン待期成立の可否
月・火・水・木と連続休業○(木曜から支給)
月・火・水(出勤)・木・金×(水曜で途切れる)
金・土・日・月と連続休業○(月曜から支給)
有給を3日使い4日目から欠勤○(4日目から支給)

条件4:休んだ期間に給与の支払いがないこと

給与の一部が支給されている場合、傷病手当金から給与相当額が差し引かれる。完全な無給である必要はないが、給与が傷病手当金より多く支給されているなら、その月は不支給となる。

支給額はどう計算されるか

計算式は以下の通り。標準報酬月額のおおよそ2/3という覚え方でよい。

```
1日あたりの支給額 = 支給開始日前12ヶ月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
```

月給別の目安(標準報酬月額=月給と仮定)

月給(額面)標準報酬月額日額月額(30日)
20万円20万円4,445円約133,350円
30万円30万円6,667円約200,010円
40万円41万円9,113円約273,390円
50万円50万円11,113円約333,390円
70万円68万円15,113円約453,390円

※標準報酬月額は等級制で、月給により区分される。正確な自分の等級は給与明細または健康保険の手続き書類で確認可能。標準報酬月額の細かな仕組みは標準報酬月額の解説記事を参照。

入社から12ヶ月経過していない人の特例

支給開始日以前の加入期間が12ヶ月に満たない場合、以下のいずれか低いほうで計算する。

  1. 支給開始日までの各月の標準報酬月額の平均
  2. 支給開始日の属する年度の前年9月30日時点での全被保険者の平均標準報酬月額(協会けんぽ令和6年度:30万円)

新入社員が入社半年で傷病手当金を受けるケースでは、この30万円が上限となる。日額6,667円・月額約20万円が出る計算だ。

ボーナスは反映されない

標準報酬月額は月給から算定されるため、ボーナスの多寡は傷病手当金に影響しない。年収500万円のうち月給30万円・ボーナス140万円の人と、月給40万円・ボーナス20万円の人では、後者の傷病手当金のほうが多くなる。手取り年収が同じでも月給型の給与設計のほうが、病気時のセーフティネットは厚い。

支給期間——2022年1月から「通算1年6ヶ月」に変わった

以前は支給開始日から暦日で1年6ヶ月が限度だったが、2022年(令和4年)1月1日以降に支給開始となる傷病については、支給日数の通算で1年6ヶ月に改正された。

これがどう違うかを例で示す。

改正前(〜2021年末開始分)

```
1月〜3月(3ヶ月)休業 → 支給
4月〜9月(6ヶ月)復帰
10月〜12月(3ヶ月)休業 → 支給
翌年1月〜3月 復帰後、再び休業 → 支給期限切れの可能性
```

暦で数えるため、途中で復帰すると復帰期間も"1年6ヶ月の枠"を消費してしまう。

改正後(2022年以降開始分)

```
1月〜3月(3ヶ月・90日)休業 → 支給
4月〜9月(6ヶ月)復帰 → 枠を消費しない
10月〜12月(3ヶ月・90日)休業 → 支給
翌年以降も、合計が1年6ヶ月(約548日)に達するまで支給
```

支給された日数だけをカウントする仕組みになったため、うつ病・がんなど寛解と再発を繰り返す疾病で特に影響が大きい。2回目・3回目の休業にも同じ枠から支給される。

ケース:32歳・年収450万円の会社員が6ヶ月休業した場合

月給30万円(標準報酬月額30万円)・ボーナス年90万円の会社員Aさんが、適応障害で6ヶ月休業した場合を試算する。

休業前の手取り

手取り計算シミュレーターで確認すると、年収450万円の場合の手取りは約360万円、月額約28.4万円(ボーナスを除くと月約22.5万円)。

6ヶ月休業中の収入

```
傷病手当金日額 = 300,000 ÷ 30 × 2/3 = 6,667円
6ヶ月(182日)のうち、待期3日を除く179日分
179日 × 6,667円 = 1,193,393円 ≒ 約119万円
```

平均月額にすると約19.8万円。休業前の月手取り22.5万円と比べると、月あたり約2.7万円の減収だ。

社会保険料の扱い

休業中も健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料(40歳以上)の本人負担分は引かれ続ける。会社経由で通常通り徴収されるため、給与がゼロの月でも保険料分の支払い義務は残る。

Aさんの月々の社会保険料は約4.5万円。6ヶ月で約27万円。傷病手当金119万円から差し引くと実質の手取り相当は約92万円、月あたり約15.3万円が生活に使える金額の目安になる。

住民税も忘れずに

住民税は前年所得に対して課税されるため、休業中も通常通り徴収される。月約2万円が口座引き落としで続く。したがって、月15万円程度は生活費に回せるが、家賃・光熱費・通信費・食費を支払うとほぼ消える水準だ。

緊急資金シミュレーター生活費6ヶ月分(Aさんなら約170万円)を確保しておく重要性がここで効いてくる。

高額療養費制度と併用できる

傷病手当金が"所得保障"なら、高額療養費制度は"医療費の上限を決める制度"。がんの抗がん剤治療や手術など、月の医療費が高額になる場合に併用できる。

Aさんの例(年収450万円・区分ウ)では、1ヶ月の医療費自己負担上限は約8.7万円。それを超えた分は後日払い戻される。さらに「限度額適用認定証」を事前に取得すれば、窓口負担そのものを上限内に抑えられる。

医療費と所得を両側から守るのが、健康保険の基本設計だ。

税金・社会保険料の扱い——3つのルール

項目課税・徴収の扱い
所得税・住民税非課税(所得として計上されない)
健康保険料・厚生年金・介護保険料徴収あり(本人負担分は引かれ続ける)
雇用保険料徴収なし(給与がない月はゼロ)

非課税なので年末調整や確定申告で申告する必要はない。扶養にも影響しない。ただし復帰後は通常の給与に戻るため、その年の年収が途中で減っても、翌年の住民税は減らない(課税は前年所得ベース)。休業は2年スパンで家計影響を見ておきたい。

申請手続きの流れ

申請は事後払いが原則。休んだ期間が終わってから「申請書」を提出し、審査を経て振り込まれる。

必要書類

  1. 健康保険傷病手当金支給申請書(協会けんぽ・組合から取り寄せ、または公式サイトからダウンロード)
  1. 医師の証明(申請書の療養担当者記入欄)
  1. 賃金台帳・出勤簿の写し(会社が添付するケースが多い)

提出タイミング

月単位でまとめて申請する人が多い。1ヶ月分を記入し、医師の証明をもらい、会社を経由して保険者(協会けんぽ等)に郵送する。審査期間は通常2〜4週間。初回は書類の不備で差し戻される例も多く、初支給までに1.5〜2ヶ月かかると見ておくほうが安全だ。

フリーランス・自営業は対象外

国民健康保険には傷病手当金制度がない(市町村独自給付があるケースを除く)。この事実はフリーランスへの転身を考える会社員が見落としがちなポイントだ。

2020年以降、新型コロナに関連する特例で一部の市町村が国保加入者にも傷病手当金を支給したが、通常時には戻らない。フリーランスで所得保障が必要なら、民間の就業不能保険所得補償保険で補うしかない。保険料は年齢・保障内容によるが、月額3,000〜7,000円程度が相場。加入の要否は保険のギャップチェックで家計に穴がないか確認したい。

会社員のうちに傷病手当金の制度を把握し、退職してフリーランスになる時は自動的にこのセーフティネットが消える——このことを知っておくだけで、独立時の貯蓄目標が変わってくるはずだ。

誤解されがちな5つのQ&A

Q1. 有給休暇を使い切ってから申請するの?
A. 有給休暇中は給与が支払われるため、待期期間(3日間)のカウントには含められるが、有給期間中は傷病手当金は不支給。有給を使い切ってから欠勤期間に入ると、初日から傷病手当金の支給対象になる。有給が多く残っているなら、有給消化→欠勤の順のほうが収入の底が厚くなる。

Q2. 退職したら打ち切り?
A. 継続給付の条件を満たせば退職後も受給できる。条件は「退職日まで継続して1年以上の健康保険被保険者期間」+「退職時点で傷病手当金を受給中、または受給できる状態」。この場合、退職後も残りの支給期間(通算1年6ヶ月から既支給日数を引いた分)まで受け取れる。

Q3. 申請の期限は?
A. 時効は2年。休業した日の翌日から2年以内に申請しないと請求権が消滅する。過去分をまとめて請求することも可能だが、早めに申請するほうがキャッシュフロー的に有利。

Q4. 2つの病気で休んでも別々に1年6ヶ月もらえる?
A. 別々の傷病なら、それぞれ1年6ヶ月の枠が立つ。例えば腰痛で1年半受給した後、がんで働けなくなった場合、がんの傷病で新たに1年半の枠が発生する。医師の診断書上で「別の傷病」と認められることが条件。

Q5. 副業していても支給される?
A. 副業の収入が継続していると「労務不能」とは認められない可能性が高い。ただし本業の健康保険に加入しており、副業が一時的・軽微であれば支給されることもある。ケースによって判断が割れるので、保険者に事前確認が無難。

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傷病手当金は、毎月支払う健康保険料の見えないリターンだ。健康なうちは実感がなく、いざ病気やケガで働けなくなったとき初めて「こういう制度があったのか」と気づく。知っているかどうかで、貯金を切り崩す年数が1年変わることもある。

自分が加入しているのが協会けんぽか組合健保かで、細かな手続きは少し変わる。給与明細に記載された保険者(「〇〇健康保険組合」など)を確認してから、公式サイトで申請書の様式を手に入れるのが第一歩になる。健康に働けるうちに制度を知っておけば、いざというとき動き出しが数週間早くなる。

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