共働きを辞めたら世帯手取りはいくら減る?——年収480万+380万・32歳夫婦の「片働き」試算【ケーススタディ】
第二子を機に妻がフルタイムを退職し専業主婦になったら家計はどう変わるか。東京都下の共働き夫婦(世帯年収860万)を例に、配偶者控除の復活・社会保険の扶養・保育料・翌年の住民税まで踏み込んで、可処分所得の増減を数字で検証する。
「私が仕事を辞めたら、うちの家計は回るんだろうか」。
第二子の妊娠がわかった夜、美咲さん(仮名・31歳)は夫の拓也さん(仮名・32歳)にそう切り出した。上の子は2歳、いまは認可保育園に預けてフルタイムで働いている。二人目が生まれたら、一度キャリアを止めて子育てに専念したい——けれど、収入が一馬力になることへの不安は大きい。
「妻の手取りぶん、まるまる減るんでしょ?」と拓也さんは言う。だが実際には、配偶者控除の復活や保育料の変化があるので、話はそう単純ではない。田村家(仮名)の家計を、退職前と退職後で並べてみた。
田村家のプロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 世帯 | 夫32歳・妻31歳・子1人(2歳、認可保育園) |
| 居住地 | 東京都下(市部・賃貸2LDK) |
| 夫の年収 | 480万円(年間手取り 約376万円) |
| 妻の年収 | 380万円(年間手取り 約301万円) |
| 世帯年収 | 860万円 |
| 保育料 | 月3万円(年36万円) |
夫婦それぞれの手取りは、手取り計算シミュレーターで年収から社会保険料・税金を差し引いて算出した値だ(2025年税制改正後の基礎控除・給与所得控除で計算。夫480万円: 社保約70.7万円・所得税約10.6万円・住民税約23.1万円)。手取り率はいずれも約78〜79%になっている。
退職前:世帯の「使えるお金」を確認する
まず基準となる、いまの可処分所得を整理する。保育料は生活のための固定支出なので、ここでは差し引いた「実際に自由になるお金」で比べる。
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夫の手取り 376万円
妻の手取り 301万円
保育料 −36万円
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世帯の可処分 641万円/年(月あたり約53.4万円)
```
二馬力で年641万円。これが基準線になる。
退職後に動く4つの項目
美咲さんが退職して専業主婦(国民年金の第3号被保険者)になると、変わるのは「妻の手取りがゼロになる」ことだけではない。連動して動く項目が4つある。
① 妻の手取り301万円が消える
最も大きいのはここ。年間約301万円の手取りがまるごとなくなる。これは避けられない。
② 配偶者控除が復活する
妻の年収がゼロになると、夫は配偶者控除を使えるようになる。控除額は所得税で38万円、住民税で33万円。ただし「38万円×税率10%」の単純計算にはならない点に注意したい。夫(年収480万円)の課税所得は約201万円で、38万円の控除を差し引くと約163万円——税率10%の区分から5%の区分に下がるため、所得税の軽減は約2.3万円にとどまる。
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所得税分:課税所得201万円→163万円 = 約23,000円の軽減
住民税分:33万円 × 10% = 33,000円
─────────────────────
減税額 合計 約56,000円/年
```
自分の年収でいくら戻るかは配偶者控除シミュレーターで確認できる。夫の所得税率が20%区分(課税所得330万円超)の家庭なら、減税額は年10万円を超える。
③ 社会保険は夫の扶養(第3号)に
妻は夫の健康保険の被扶養者となり、国民年金は第3号被保険者になる。保険料の自己負担はゼロで年金加入は継続される。ただし——ここが見落とされがちだが——第3号の期間は厚生年金が積み上がらない。働き続けた場合に比べ、将来受け取る年金は妻の分だけ目減りする。目先の家計だけでなく、老後まで含めた長期の影響がある点は押さえておきたい。
④ 保育園は「退園」の可能性
認可保育園は「保育の必要性」(=就労など)が入園の前提。専業主婦になると必要性の要件を外れ、上の子が退園、または短時間認定に変更になるケースがある(自治体・求職活動中の猶予期間により異なる)。田村家では上の子を自宅で見る前提とし、保育料36万円はゼロになるが、預け先も失うことになる。認可保育料の水準は保育料シミュレーターで世帯年収から目安を確認できる。
退職前後の比較表
4つの変化を反映すると、可処分所得は次のように変わる。
| 項目 | 共働き(退職前) | 片働き(退職後) |
|---|---|---|
| 夫の手取り | 376万円 | 376万円 |
| 妻の手取り | 301万円 | 0円 |
| 配偶者控除による減税 | 0円 | +5.6万円 |
| 保育料 | −36万円 | 0円(退園) |
| 世帯の可処分 | 641万円 | 約381万円 |
差額は 約260万円/年(月あたり約21.7万円)の減少。妻の手取り301万円がそのまま消えるわけではなく、配偶者控除の復活(+5.6万円)と保育料の消滅(+36万円)で、実質的な家計へのダメージは約260万円に和らぐ——というのが数字で見た実態だ。とはいえ、月20万円超のマイナスは決して小さくない。
見落とすと危ない「退職翌年の住民税」
もう一つ、キャッシュフロー上の落とし穴がある。住民税は前年の所得に対して翌年課税される。つまり美咲さんが退職しても、退職した年の所得に対する住民税の納付書が翌年6月に自宅へ届く。収入がないタイミングで、前年分の住民税(数十万円規模)を自分で納めることになる。
美咲さんの場合、年収380万円に対する住民税は年約17万円。退職を決めたら、この「後からくる住民税」を先に取り分けておくのが鉄則だ。仕組みは住民税シミュレーターで前年所得から逆算しておくと、金額のイメージがつかめる。
「辞める」以外の選択肢も並べてみる
田村家が最終的にどうするかを決める前に、フルタイム退職以外の道も比較した。妻の働き方別に世帯可処分(保育料控除後)を並べると次のようになる。
| 妻の働き方 | 妻の手取り | 夫の配偶者(特別)控除 | 保育料 | 世帯可処分 |
|---|---|---|---|---|
| フルタイム(380万円) | 約301万円 | なし | −36万円 | 約641万円 |
| 時短勤務(260万円) | 約209万円 | なし | −36万円 | 約549万円 |
| 扶養内パート(130万円) | 約127万円 | +5.6万円 | −36万円 | 約473万円 |
| 完全退職(0円) | 0円 | +5.6万円 | 0円(退園) | 約381万円 |
※時短260万円の手取りは手取り計算シミュレーターの実装値(約209.5万円)。扶養内パート130万円は社会保険の扶養内のため社保0円・所得税0円(2025年改正で160万円まで非課税)で、住民税約2.7万円のみ差し引いた概算。
- フルタイム継続:世帯可処分641万円を維持。ただし二人目育児との両立負担は最大。
- 時短勤務に切り替え:年収は下がるが厚生年金・社会保険は継続。在籍を保てるため復職コストが小さい。
- いったん退職 → 扶養内パート:年収を社会保険の扶養(130万円、勤務先が従業員51人以上なら週20時間・月8.8万円の要件)の範囲に抑える働き方。なお2025年の税制改正で所得税の壁は160万円に上がったため、「103万円の壁」はもう存在しない。手取りへの影響は年収の壁シミュレーターやパート扶養の壁シミュレーターで確認できる。
- 完全に退職(専業主婦):本ケースの試算。可処分は約260万円減、老後年金も目減り。
田村家が置いた「3つの判断軸」
数字を並べたうえで、夫婦が最終判断のために確認したのは次の3点だった。
- 年260万円の減少に、何年耐えられるか(生活防衛資金は手取りの半年〜1年分あるか)
- 復職時の年収ダウンをどう見るか(ブランク後にフルタイム時の年収へ戻れるとは限らない)
- 老後の年金差を受け入れられるか(第3号の期間は厚生年金が増えない)
田村家は、二人目が1歳になるまでの約2年は「時短勤務」でつなぎ、保育園の在籍と厚生年金を維持する方向で話がまとまりつつある。完全退職に比べて世帯収入の落ち込みが緩やかで、復職のハードルも低いと判断したためだ。
この試算から言えること
「共働きを辞める」判断は、妻の手取りが消える金額だけを見ると実態を見誤る。配偶者控除の復活、保育料の変化、翌年の住民税、そして老後年金——これらを合算して初めて、家計への本当の影響が見えてくる。田村家のように、いきなり完全退職ではなく時短やパートという中間の選択肢を数字で並べてみると、無理のない着地点が見つかることも多い。
自分の世帯で同じ試算をするなら、まず手取り計算で夫婦それぞれの手取りを出し、配偶者控除と保育料の変化を足し引きしてみてほしい。「辞めたらいくら減るか」は、感覚ではなく数字で確かめられる。
よくある質問(FAQ)
Q. この記事の数字の出典は?
手取り額・税額は手取り計算シミュレーターの実装(2025年3月成立の税制改正後の基礎控除5段階・給与所得控除65万円最低保障を反映)をそのまま実行した値です。夫480万円=手取り約375.5万円(社保70.7万・所得税10.6万・住民税23.1万円)、妻380万円=手取り約301.5万円。配偶者控除の減税額5.6万円も同実装による計算で、保育料は東京都下の認可保育園の3歳未満児・世帯年収860万円帯の概算(月3万円)を用いています。
Q. 妻が年の途中で退職したら、その年の税金はどうなる?
退職した年は年末調整を受けられないため、確定申告をすると税金が戻る可能性が高いです。所得税は「1年間働く前提」で毎月源泉徴収されているので、年の途中で収入が止まると払いすぎになっているのが普通です。また夫側も、妻の退職年の12月31日時点で妻の年間給与が160万円未満(所得58万円以下なら配偶者控除、それ以下でも配偶者特別控除)なら、その年から控除を受けられます。夫の年末調整で忘れず申告してください。
Q. 退職ではなく育休を取った場合はどう違う?
育児休業給付金は非課税で、さらに育休中は社会保険料が本人・会社とも免除されます。給付は休業開始から180日まで賃金の67%・以降50%ですが、手取りベースでは「67%給付=手取りの約8割」に相当します。2025年4月からは、夫婦とも14日以上の育休を取るなどの要件を満たすと出生後休業支援給付が上乗せされ、最大28日間は実質手取り10割相当になりました。「一度退職して戻る」より「育休で在籍を保つ」ほうが、収入・年金・復職のすべてで有利になりやすい構造です。
Q. 第3号被保険者の期間、年金はどのくらい目減りする?
第3号の期間も国民年金(老齢基礎年金)は満額に近づきますが、厚生年金の報酬比例部分が増えません。年収380万円で厚生年金に加入し続けた場合、報酬比例部分は概算で「年収×0.5481%×加入年数」増えるため、1年あたり年金額が年約2.1万円ずつ積み上がる計算です。仮に10年間第3号でいると、65歳以降の年金が年約21万円(月約1.7万円) 少なくなります。目先の可処分だけでなく、この長期差も判断材料に入れてください。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
社会保険料率は加入する健康保険組合、保育料は自治体と子の年齢、住民税は自治体で変わるため、実際の金額は前後します。まずは手取り計算シミュレーターと保育料シミュレーターでご自身の条件に置き換えて試してください。それでも記事の計算と大きくずれる場合はお問い合わせページからご連絡いただければ、前提の改善に活用します。
関連シミュレーター
- 手取り計算シミュレーター — 年収から社保・税金を引いた手取りを計算(2025年改正対応)
- 配偶者控除シミュレーター — 配偶者の年収別に世帯の減税額を確認
- 保育料シミュレーター — 世帯年収と子の年齢から認可保育料の目安を計算
- 年収の壁シミュレーター — 106万・130万・160万円の壁ごとの手取り影響を確認
- 住民税シミュレーター — 退職翌年に来る住民税額を前年所得から逆算
- 共働き世帯の家計シミュレーター — 二馬力・一馬力の世帯手取りを比較