団信(団体信用生命保険)の仕組み|がん団信+0.2%は35年で134万円の買い物——無料付帯・ワイド団信・生命保険の重複まで検算
団信は住宅ローン契約者が死亡・高度障害になると保険金でローン残高が完済される仕組み。一般団信は金利込みで実質無料だが、がん団信100%は+0.05〜0.2%、三大疾病は+0.2〜0.3%、ワイド団信は+0.3%の金利上乗せ。借入3,500万円・35年なら+0.2%で月3,195円・総額134万円の負担増になる。金利上乗せ型は年齢によらず一律のため若い人ほど割高という構造、三大疾病の「60日ルール」、団信加入後の生命保険の重複整理まで、判断材料を実額で解説。
134万円。借入3,500万円・35年返済のローンで、金利0.2%の上乗せを受け入れたときに増える総返済額です。がん団信や三大疾病保障を「せっかくだから」で付けると、35年かけてこの金額を払うことになる——団信の特約は、実は住宅購入で最も高額な「保険の買い物」のひとつです。
にもかかわらず、団信を比較検討する人は多くありません。住宅ローンの契約日に銀行から告知書を渡され、その場で初めて保障内容を読んで判断する——というのが実態に近いでしょう。この記事では、団信の仕組みを保険としてほどいて、特約の値段を実額に換算し、「どこまで付けるべきか」を判断できる状態を目指します。
団信とは何か——「銀行が契約者」の生命保険
団体信用生命保険(団信)は、住宅ローンの返済中に契約者が死亡または所定の高度障害状態になったとき、保険金でローン残高が完済される生命保険です。普通の生命保険と決定的に違う点が3つあります。
| 項目 | 一般的な生命保険 | 団信 |
|---|---|---|
| 契約者・受取人 | 自分・遺族 | 銀行(被保険者が債務者) |
| 保険料 | 口座から別途支払い | 金利に含まれる(一般団信は上乗せなし) |
| 受け取るもの | 現金 | 現金は受け取らない。ローンが消えて家が残る |
| 生命保険料控除 | 対象 | 対象外(保険料を払っているのは銀行のため) |
| 保障額 | 契約時に固定 | ローン残高に連動して毎月減っていく |
民間銀行の住宅ローンでは一般団信への加入が事実上の必須条件で、保険料は金利に織り込み済み。一方、住宅金融支援機構の【フラット35】は団信が任意加入で、団信を外すと金利が0.2%下がります。つまり一般団信の「実質価格」は金利0.2%相当——ここが特約の値段を測る基準になります(出典: 住宅金融支援機構「【フラット35】新機構団信」)。
なお、フラット35の新機構団信は保障範囲が「死亡・身体障害(身体障害者手帳1級・2級)」で、民間の「死亡・高度障害」とは基準が異なります。高度障害は生命保険約款上の狭い定義(両眼失明、常時介護など)ですが、身体障害1・2級は公的認定に連動するため、該当範囲がやや異なる点は知っておいて損はありません。
特約の種類と「値段」の早見表
団信の特約は銀行ごとに名前が違いますが、構造は次の5段階に整理できます。
| 保障 | 保険金が出る条件 | 金利上乗せの相場 |
|---|---|---|
| 一般団信 | 死亡・高度障害 | なし(金利込み) |
| がん団信50% | がん診断確定で残高の半分が免除 | 無料付帯の銀行あり |
| がん団信100% | がん診断確定で残高ゼロ | +0.05〜0.2% |
| 三大疾病保障 | がん+急性心筋梗塞・脳卒中(条件付き) | +0.2〜0.3% |
| ワイド団信 | 保障は一般団信と同じ。持病があっても入りやすい | +0.3%程度 |
ネット銀行の一部(auじぶん銀行、住信SBIネット銀行など)は、がん50%保障や全疾病保障を無料で付帯しています。無料付帯はもらっておいて損はありませんが、注意点が2つ。加入年齢の上限(がん保障は満50歳までが多い)と、「全疾病保障」の支払条件です。全疾病タイプの多くは「就業不能状態が12ヶ月継続したら残高ゼロ」という設計で、入院してもすぐ保険金が出るわけではありません。
三大疾病保障にも同種の条件があります。がんは診断確定で即免除(上皮内がんは対象外が主流)ですが、急性心筋梗塞・脳卒中は「60日以上の労働制限・後遺症が続いた場合」等の条件付き。医療の進歩で脳卒中の平均在院日数は短くなっており、「診断されたのに条件を満たさず出なかった」が起こり得る設計です。パンフレットの保障名ではなく支払条件で判断してください。
上乗せ金利を実額に換算する
「+0.2%」と聞いても高いか安いか分かりません。借入3,500万円・35年・元利均等返済、基準金利0.7%で計算すると次のようになります。
| 上乗せ | 適用金利 | 月返済額 | 上乗せ分/月 | 35年総額の増加 |
|---|---|---|---|---|
| なし | 0.70% | 93,982円 | — | — |
| +0.05% | 0.75% | 94,775円 | +793円 | +33万円 |
| +0.1% | 0.80% | 95,571円 | +1,589円 | +67万円 |
| +0.2% | 0.90% | 97,177円 | +3,195円 | +134万円 |
| +0.3% | 1.00% | 98,800円 | +4,818円 | +202万円 |
がん団信100%(+0.2%)は月3,195円の保険料に相当します。この金額自体は民間のがん保険と大差ないように見えますが、構造が2点違います。
第1に、保障額がローン残高に連動して減っていくこと。診断時に残高2,000万円なら2,000万円の価値がありますが、完済間際なら数十万円の価値しかない。それでも上乗せ金利は残高に対して掛かり続けるため、後半ほど「割高な保険」になります。
第2に、金利上乗せ型は年齢・性別・健康状態によらず一律であること。通常の保険は若いほど安いのに対し、団信の特約は30歳でも49歳でも同じ+0.2%。がんの罹患リスクは年齢で大きく変わり、国立がん研究センター「最新がん統計」によれば、40歳男性が60歳までの20年間にがんと診断される確率は約8%(女性は約12%)。裏を返せば、若く健康な人ほど団信特約は割高で、加入上限ギリギリの40代後半には割安という逆転が起きます。30歳前後なら民間のがん保険・収入保障保険と見積もりを並べる価値があり、45歳以降なら一律料率の団信特約が有利になりやすい——これが年齢別の大まかな目安です。
上乗せ金利込みの月々の返済額や、銀行ごとの金利・団信条件の違いは住宅ローン比較シミュレーターで試せます。
団信に入ったら、生命保険を減らせる
団信の効果で見落とされがちなのが、既存の生命保険との重複です。
遺族の必要保障額は「遺族の生活費・住居費・教育費の合計 − 遺族年金・配偶者の収入」で計算しますが、団信に入った瞬間、このうち住居費がまるごと消えます。仮に遺族の住居費を月10万円・残り25年と見積もっていたなら、10万円 × 12ヶ月 × 25年 = 3,000万円分の死亡保障が不要になる計算です。
住宅購入前に加入した死亡保険をそのままにしていると、この3,000万円分を二重に払い続けることになります。住宅ローンの実行が終わったら、死亡保障の減額を検討するのが定石です。必要保障額の再計算は生命保険 必要保障額シミュレーター、保険全体の棚卸しは保険見直しシミュレーターが使えます。
逆に、団信でカバーされない領域も明確です。死亡・高度障害「未満」の働けない状態(うつ病等での長期休職、要介護)では、一般団信からは1円も出ず、ローン返済はそのまま続きます。傷病手当金(給与の約2/3・最長1年6ヶ月)で返済を続けられるか、家計の側から確認しておくべきポイントです。
健康状態に不安がある場合——告知・ワイド団信・フラット35
団信は生命保険なので告知義務があります。告知書で問われるのは概ね「3ヶ月以内の治療・投薬」「3年以内の特定疾病(がん、心疾患、糖尿病、うつ病など)での手術・2週間以上の治療」「障害の有無」の3項目。事実と異なる告知をすると、いざというとき保険金が支払われずローンだけが残るため、絶対に正確に書いてください。
告知で一般団信に入れなかった場合の選択肢は3つあります。
- ワイド団信(+0.3%程度)——引受基準を緩和した団信。糖尿病・高血圧・うつ病などでも通るケースがある
- フラット35を団信なしで借りる——団信が任意のため、健康状態を問わず借りられる数少ないルート。金利は▲0.2%
- 完済年齢を早める・借入額を抑える——保障そのものが小さく済むよう設計を変える
団信なしを選ぶ場合は、遺族がローンを背負う前提で民間保険や資産でどう備えるかをセットで考える必要があります。無理のない借入額の目安はいくらの家が買える?シミュレーターで確認できます。
よくある質問
Q. 団信の保険金でローンが完済されたら、税金はかかる?
かかりません。保険金は銀行に直接支払われるため、遺族に所得税・相続税は課税されません。ただし相続税の計算上、住宅ローンは「団信で消える債務」として債務控除に使えない点は覚えておいてください(残高が消える以上、マイナスの財産として差し引けない)。
Q. ペアローンの場合、団信はどうなる?
夫婦それぞれが自分の借入分にだけ団信を掛けます。一方が亡くなってももう一方のローンは残るのが原則です。近年は「連生団信」(どちらかに万一があれば両方の残高がゼロ、+0.1〜0.2%程度)を扱う銀行も増えています。共働きでのローン設計はペアローン シミュレーターで試算できます。
Q. がん団信とがん保険、どちらを優先すべき?
役割が違います。がん団信は「ローンを消す」保険で、治療費は1円も出ません。がん保険は診断一時金や治療費に備える保険です。予算が限られるなら、まず治療費(高額療養費制度を使っても年収約370〜770万円なら自己負担月9万円前後が続く。2026年8月改定後の水準)への備えを固め、団信特約は上の実額表と年齢を見て判断する、という順番が合理的です。がん保険の必要額はがん保険シミュレーターで確認できます。
判断チェックリスト
最後に、団信特約を付けるかどうかの判断ポイントを5つにまとめます。
- [ ] 無料付帯の保障(がん50%・全疾病)は支払条件を読んだ上で受け取る
- [ ] 有料特約は「+0.2% = 3,500万円借入で総額134万円」という実額で判断する
- [ ] 30代前半なら民間保険の見積もりと比較、45歳以降なら一律料率の団信特約が相対的に有利
- [ ] 団信加入後、既存の死亡保険から住居費相当(数千万円規模)を減額できないか見直す
- [ ] 持病があるなら、ワイド団信とフラット35(団信なし可)の2ルートを覚えておく
団信は「入るか入らないか」ではなく、「どこまでを金利で買い、どこからを別の保険と貯蓄で備えるか」の線引きの問題です。上乗せ0.1%の違いが数十万円単位で効いてくるからこそ、契約日の窓口ではなく、その前の週末に一度計算しておく価値があります。