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「医療費より、収入が止まるのが怖かった」年収550万円・52歳が3ヶ月入院した家計の実額【ケーススタディ】

脳梗塞で3ヶ月の入院・リハビリ。年収550万円・52歳の会社員・北原さん(仮名)が直面したのは、90万円の医療費ではなく『給料が止まる』現実だった。高額療養費で医療費は実質26万円に、傷病手当金で収入はゼロを免れた——制度を使い切った家計を、入院前後の収支まで5つのシミュレーターで再現する。

「手術がうまくいくかより、3ヶ月分の給料が入らないことのほうが、ベッドの上でずっと頭から離れませんでした」

北原誠さん(仮名・52歳・電子部品商社の営業課長)は、入院当時をそう振り返る。ある朝、出社直後に左半身がしびれ、そのまま救急搬送。診断は脳梗塞だった。幸い後遺症は軽く済んだが、急性期病院での治療とその後のリハビリで、入院は結局3ヶ月に及んだ。

このケーススタディは、北原さんの入院前後3ヶ月の家計を、医療費と収入の両面から追ったものだ。結論を先に言えば、実際に家計から出ていった医療費は約26万円、収入は約32万円目減りした。総額90万円超の医療費がそこまで圧縮されたのは、北原さんが2つの公的制度——高額療養費と傷病手当金——を使い切ったからである。

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北原家のプロフィール

項目内容
本人・誠(52歳)商社の営業課長・勤続24年。健康保険は協会けんぽ
妻・由香(50歳)パート勤務・年収約100万円
子ども長女(仮名・20歳・大学2年・自宅通学)
世帯年収約650万円(夫550万円+妻100万円)
住まい千葉県・分譲マンション(住宅ローン残1,500万円・月返済7.8万円)
夫の給与月給35万円+賞与年130万円。標準報酬月額36万円

ポイントは、北原さんが世帯の大黒柱だということ。妻のパート収入と貯蓄はあるが、月々の固定費——住宅ローン、長女の学費、生活費——は夫の給与を前提に組まれていた。給与が止まれば、たちまち回らなくなる構造だ。

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医療費は「90万円」ではなく「26万円」だった

まず医療費から見ていく。北原さんの入院・治療にかかった総医療費(10割)は、3ヶ月でおよそ300万円。1ヶ月あたり約100万円である。これを健康保険の3割負担で計算すると——

```
総医療費(10割) 1,000,000円/月
× 自己負担 3割
= 窓口負担 300,000円/月
× 3ヶ月
= 900,000円
```

3割でも90万円。ここで効くのが高額療養費制度だ。1ヶ月(暦月)の医療費自己負担が一定額を超えると、超えた分が払い戻される。北原さんの所得区分は「区分ウ(年収約370万〜770万円)」にあたり、自己負担の上限は次の式で決まる。

```
自己負担上限 = 80,100円 +(総医療費 − 267,000円)× 1%
= 80,100円 +(1,000,000 − 267,000)× 1%
= 80,100円 + 7,330円
= 87,430円/月
```

つまり窓口で30万円を払っても、後で約21万円が戻り、1ヶ月の実質負担は87,430円に収まる。3ヶ月分でも約26万円だ。

高額療養費なし高額療養費あり
1ヶ月の自己負担300,000円87,430円
3ヶ月の自己負担900,000円262,290円
軽減額約64万円

自分の年収だと上限がいくらになるかは、高額療養費シミュレーターで区分ごとに試算できる。北原さんが事前に「限度額適用認定証」を病院に提出していたため、そもそも窓口での立て替え(30万円)すら発生せず、最初から87,430円の支払いで済んだ点も大きかった。

高額療養費でカバーされない出費

ただし、高額療養費は万能ではない。保険適用外の費用は別途かかる。北原さんの場合、以下が自己負担として残った。

  • 入院中の食事代:1食490円(標準負担額)× 3食 × 90日 = 132,300円
  • 日用品・パジャマレンタル・家族の見舞い交通費など = 約30,000円
  • 差額ベッド代:北原さんは4人部屋を選んだため0円(個室なら1日5,000〜1万円が別途かかる)

```
医療費の実質負担 262,290円
+ 食事代 132,300円
+ 雑費・交通費 30,000円
= 医療関連の総支出 約424,000円
```

医療費そのものは26万円でも、入院に伴う「周辺コスト」を足すと約42万円。ここは見落とされやすい。入院費用シミュレーターでは、この食事代や差額ベッド代まで含めた総額を入院日数別に確認できる。

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本当に怖かったのは、収入が止まること

北原さんが「医療費より怖い」と言ったのは、給与が3ヶ月間ほぼ止まることだった。ここで支えになったのが傷病手当金である。

業務外のケガ・病気で連続3日以上働けず給与が支払われない場合、健康保険から傷病手当金が出る。金額は、ざっくり「直近1年の標準報酬月額の平均 ÷ 30 ×(2/3)」が日額になる。

```
標準報酬月額 360,000円 ÷ 30 = 日額 12,000円
日額 12,000円 ×(2/3) = 傷病手当金 日額 8,000円
```

待機期間(連続3日)は支給されないため、初月はやや少なくなる。3ヶ月の支給額はおおむね次のとおりだ。

支給日数傷病手当金
1ヶ月目27日(待機3日を除く)216,000円
2ヶ月目30日240,000円
3ヶ月目30日240,000円
合計696,000円

ここで重要な注意点が2つある。

第一に、傷病手当金は非課税だ。所得税も住民税もかからず、額面がほぼそのまま手元に残る。第二に、それでも社会保険料(健康保険・厚生年金)と住民税の支払いは止まらない。給与天引きができないため、休職中は会社経由で本人が負担する。北原さんの場合、月およそ6万円を別途支払った。

```
傷病手当金(3ヶ月) 696,000円
− 社会保険料・住民税の継続負担(6万円×3) 180,000円
= 実質的に手元に残った額 516,000円
```

通常なら手取り28万円 × 3ヶ月=84万円が入るはずだった。それが約52万円。収入の目減りは約32万円にとどまった。傷病手当金がなければ、この3ヶ月の収入はゼロだったことになる。

休職で手取りがどう変わるかは、手取り計算シミュレーターで平常時の可処分所得を出し、そこから傷病手当金(額面の約2/3)に置き換えて比べると実感しやすい。

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3ヶ月のトータル収支

医療と収入を合わせた、北原家の3ヶ月間の家計インパクトをまとめる。

区分金額
医療関連の支出−約424,000円
収入の目減り−約324,000円
家計へのダメージ 合計−約75万円

3ヶ月で約75万円。決して軽くはない。だが、もし2つの制度を知らなかったら——

  • 高額療養費を使わなければ、医療費は90万円(+64万円)
  • 傷病手当金がなければ、収入はゼロ(さらに−52万円)

最悪の場合、ダメージは190万円規模に膨らんでいた。制度を使い切ったことで、北原家はその約4割に被害を抑えた計算になる。

この75万円は、北原家が「生活防衛資金」として持っていた預金(生活費の6ヶ月分・約180万円)で十分にカバーできた。固定費が家計を圧迫していないかは家計簿 黄金比率チェックで確認できるが、北原家は固定費比率が48%と健全圏にあり、収入が一時的に減っても破綻しなかった。

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北原さんが「やっておいてよかった」3つのこと

退院後、北原さんが振り返って挙げたのは、派手な備えではなかった。

1. 限度額適用認定証を入院初日に出した
これにより窓口負担が最初から上限額(87,430円)で済み、30万円を立て替えて後から取り戻す資金繰りの負担がなかった。マイナ保険証なら認定証なしで自動適用される。

2. 生活防衛資金を「収入の止まる月数」で持っていた
投資にすべて回さず、すぐ動かせる現金を半年分確保していた。傷病手当金の入金には1〜2ヶ月のタイムラグがあり、その間の生活費は手元現金で凌ぐ必要があった。

3. 医療費控除を翌年の確定申告で取り戻した
年間の医療費自己負担(家族分含む)が約45万円となり、医療費控除でおよそ4万円の還付を受けた。戻る額は医療費控除シミュレーターで試算できる。

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FAQ

Q1. 傷病手当金はいつまでもらえる?
A. 支給開始日から通算して最長1年6ヶ月。以前は「暦の上で1年6ヶ月」だったが、2022年の改正で「実際に支給された日を通算して1年6ヶ月」に変わった。途中で復帰し再び休職しても、通算でカウントされる。

Q2. 高額療養費の上限は、月をまたぐとどうなる?
A. 高額療養費は「暦月(1日〜末日)」ごとに計算する。同じ入院でも、月末から月初にまたがると、それぞれの月で上限が適用されてしまい、合算では不利になることがある。北原さんのように月の前半から入院すると、1ヶ月の医療費がまとまり制度の恩恵を受けやすい。

Q3. この記事の金額の前提は?
A. 高額療養費の区分ウ上限額(80,100円+(医療費−267,000円)×1%)、入院時食事療養費の標準負担額(1食490円・2024年改定)、傷病手当金の計算式(標準報酬日額の3分の2)は、いずれも協会けんぽおよび厚生労働省の公表値に基づく。総医療費・標準報酬月額・固定費は北原家の設定に合わせたモデルケースで、実際の金額は傷病名・在院日数・所得区分・加入する健保によって変わる。

Q4. 民間の医療保険は必要だった?
A. 北原さんは入院給付金日額5,000円の医療保険に加入しており、90日分で約45万円を受け取った。これは食事代・収入減の穴埋めにそのまま回せた。公的制度で医療費の大半はカバーできるが、「収入が止まる期間の生活費」までは埋めきれない——その差を民間保険でどこまで補うかは医療保険の必要保障額シミュレーターで、傷病手当金や貯蓄を差し引いた「不足額」から逆算するとよい。

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この記事が伝えたかったこと

入院と聞くと、多くの人がまず「医療費はいくらかかるのか」を心配する。だが現役世代にとって本当の打撃は、働けない間、収入が止まることにある。

北原家のケースが示したのは、次の3点だ。

  1. 高額療養費があれば、医療費は所得区分に応じた上限(区分ウなら月8〜9万円)で頭打ちになる
  2. 傷病手当金は給与の約3分の2を最長1年6ヶ月支える——ただし社会保険料の負担は続く
  3. 制度が穴を埋めるのは「医療費」と「収入の3分の2」まで。残りの3分の1と周辺コストは、現金(生活防衛資金)で受け止める

公的制度は、知っていれば使える。知らなければ、本来戻るはずの64万円も、もらえるはずの70万円も、手をすり抜けていく。健康なうちに、自分の所得区分での上限額だけでも一度確かめておきたい。

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