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所得税の累進課税の仕組み|「年収が上がると損」は誤解。ただし令和8年分は年収665万円に“基礎控除の崖”あり

所得税の超過累進課税を令和8年分(基礎控除104万円・給与所得控除最低74万円)の計算例で解説。年収500万の所得税は89,150円で令和7年分より27,650円減。税率5%→10%の境目は年収約526万円。年収665万5,556円で基礎控除が37万円下がり手取りが約3.7万円減る“崖”も数字で検証。

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年収が増えると税率が上がって手取りが減る――これは基本的に誤解だ。

「年収が上がると税率が上がるから、働くだけ損」。こんな話を聞いたことがある人は多いでしょう。しかしこれは、日本の所得税の仕組みを正しく理解していないことから生まれる典型的な誤解です。

結論を先に言えば、累進課税(税率が上がること)が原因で手取りが減ることはありません。税率が上がるのは「増えた分の所得」に対してだけであり、すでに稼いだ部分の税率はそのままです。

ただし、令和8年分(2026年1〜12月の所得)からは注意点がひとつ増えました。令和8年度税制改正で基礎控除が最大104万円に引き上げられた一方、合計所得金額489万円(給与だけなら年収665万5,556円)を1円でも超えると基礎控除が104万円→67万円へ一気に37万円下がる「崖」ができたのです。この崖の前後だけは、年収が少し増えても手取りが約3.7万円減る区間があります。累進課税の仕組みと、この例外の両方を数字で見ていきます。

累進課税には2種類ある

まず、累進課税の種類を整理しておきます。

種類仕組み日本の所得税
単純累進課税所得全体に同じ税率を適用採用していない
超過累進課税一定額を超えた部分にだけ高い税率を適用こちらを採用

日本が採用しているのは超過累進課税です。年収が増えて税率の区分が上がっても、その税率が適用されるのは超えた部分だけ。ここが最大のポイントです。

所得税の税率テーブル(令和8年分)

税率の速算表そのものは令和8年度改正でも変わっていません。変わったのは、この表に当てはめる前の「課税所得」を決める控除額です。

課税所得税率控除額
1,000円〜1,949,000円5%0円
1,950,000円〜3,299,000円10%97,500円
3,300,000円〜6,949,000円20%427,500円
6,950,000円〜8,999,000円23%636,000円
9,000,000円〜17,999,000円33%1,536,000円
18,000,000円〜39,999,000円40%2,796,000円
40,000,000円〜45%4,796,000円

「控除額」の列は速算表の計算用です。たとえば課税所得400万円なら「400万 × 20% − 427,500円 = 372,500円」と一発で計算できる仕組みになっています。なお実際にはこの所得税額の2.1%の復興特別所得税が上乗せされます(2027年分からは復興特別所得税1.1%+防衛特別所得税1%の合計2.1%、復興特別所得税は2047年分まで)。

「超過累進」の意味を計算で理解する

課税所得が400万円の場合、税金がどう計算されるかを段階的に見てみましょう。

所得の区間税率税額
0〜195万円5%97,500円
195万〜330万円10%135,000円
330万〜400万円20%140,000円
合計-372,500円

400万円全体に20%をかけると80万円になりますが、実際の税額は約37万円。半分以下です。区間ごとに足し上げた結果と、速算表の「400万×20%−427,500円」はぴったり一致します。これが超過累進課税の仕組みです。

令和8年分で何が変わったか(令和7年分との比較)

令和8年度税制改正(2026年12月1日施行、令和8年分の所得から適用)の要点は次の3つです。

項目令和7年分令和8年分
基礎控除(合計所得132万円以下)95万円104万円
基礎控除(132万超336万円以下)88万円104万円
基礎控除(336万超489万円以下)68万円104万円
基礎控除(489万超655万円以下)63万円67万円
基礎控除(655万超2,350万円以下)58万円62万円
給与所得控除の最低保障65万円74万円
扶養親族・同一生計配偶者の所得要件58万円(給与123万円)62万円(給与136万円)

令和7年分は基礎控除が5段階の階段でしたが、令和8年分は「489万円まで104万円」の平らな部分が広がり、その直後に37万円の段差ができました。会社員の場合、令和8年11月までの源泉徴収は旧ルールのままで、12月の年末調整で1年分をまとめて精算します(年末調整の還付見込みは年末調整シミュレーターで試算できます)。

年収500万・700万・1000万円の具体的な計算例

実際の年収から所得税額を計算するには、「給与所得控除」と「所得控除」を差し引いて課税所得を求めます。以下は独身・会社員(基礎控除+社会保険料控除のみ、社会保険料は年収の約14.7%で概算)を前提に、所得税率シミュレーターの計算ロジックを令和8年分の控除で実行した値です(復興特別所得税は含みません)。

年収500万円の場合

項目令和8年分(参考)令和7年分
年収5,000,000円5,000,000円
給与所得控除1,440,000円1,440,000円
給与所得3,560,000円3,560,000円
基礎控除1,040,000円680,000円
社会保険料控除736,750円736,750円
課税所得1,783,000円2,143,000円
所得税額89,150円116,800円
実効税率約1.8%約2.3%

給与所得356万円は令和7年分では「336万円超」の段で基礎控除68万円でしたが、令和8年分は104万円。課税所得が36万円下がり、10%区分から5%区分に戻ったため、所得税は27,650円減ります。手取り全体への影響は年収から手取り計算シミュレーターで確認できます。

年収700万円の場合

項目令和8年分(参考)令和7年分
給与所得控除1,800,000円1,800,000円
給与所得5,200,000円5,200,000円
基礎控除670,000円630,000円
社会保険料控除1,031,450円1,031,450円
課税所得3,498,000円3,538,000円
所得税額272,100円280,100円
実効税率約3.9%約4.0%

給与所得520万円は489万円を超えているため、基礎控除は67万円。減税額は4万円×20%=8,000円にとどまります。

年収1,000万円の場合

項目令和8年分(参考)令和7年分
給与所得控除1,950,000円(上限)1,950,000円
給与所得8,050,000円8,050,000円
基礎控除620,000円580,000円
社会保険料控除1,473,500円1,473,500円
課税所得5,956,000円5,996,000円
所得税額763,700円771,700円
実効税率約7.6%約7.7%

年収1,000万円でも、所得税の実効税率は8%弱。「年収1,000万円なら税率33%」というのは誤りで、33%が適用されるのは課税所得900万円を超えた部分(この例では存在しない)だけです。

年収別の実効税率まとめ(令和7年分→令和8年分)

独身・会社員(基礎控除+社会保険料控除のみ)の年収別の所得税を、所得税率シミュレーターの実装実行値で一覧にしました。

年収課税所得(R8)所得税(R8)実効税率(R8)最高適用税率(R8)所得税(R7)減税額
300万円約54万円26,850円約0.9%5%34,850円8,000円
400万円約113万円56,500円約1.4%5%64,500円8,000円
500万円約178万円89,150円約1.8%5%116,800円27,650円
600万円約244万円146,000円約2.4%10%182,000円36,000円
700万円約350万円272,100円約3.9%20%280,100円8,000円
800万円約425万円422,700円約5.3%20%430,700円8,000円
1,000万円約596万円763,700円約7.6%20%771,700円8,000円
1,200万円約766万円1,126,030円約9.4%23%1,135,230円9,200円
1,500万円約1,022万円1,836,270円約12.2%33%1,849,470円13,200円

減税額が最も大きいのは年収500万〜650万円前後(給与所得336万〜489万円)の層です。令和7年分で基礎控除68万円だった層が104万円になり、控除が36万円増えたためです。一方、年収700万円以上は控除増が4万円なので、減税額は「4万円×その人の税率」の8,000〜13,200円程度にとどまります。

税率の境目はいくら? 年収ベースの早見表

「年収いくらで税率が上がるのか」を、同じ前提(独身・社会保険料約14.7%)で1万円刻みに計算した結果です。

最高適用税率が切り替わる点令和7年分の年収令和8年分の年収
所得税がかかり始める(0%→5%)約188万円約209万円
5%→10%約476万円約526万円
10%→20%約669万円約674万円
20%→23%約1,112万円約1,117万円
23%→33%約1,353万円約1,357万円
33%→40%約2,408万円約2,413万円

5%→10%の境目が約50万円も上に動いたのが令和8年分の最大の特徴です。なお社会保険料を考えない「税法上の壁」で言えば、所得税がかかり始める年収は給与所得控除74万円+基礎控除104万円=178万円(令和7年分は160万円)になりました。

例外:年収665万円の“基礎控除の崖”

ここからが「年収が上がっても損はしない」の唯一の例外です。基礎控除は合計所得金額で決まり、国税庁の資料では給与だけの人の境目が年収665万5,556円と示されています。

年収給与所得基礎控除課税所得所得税+復興税
6,655,000円4,889,500円1,040,000円2,868,000円約193,300円
6,656,000円4,890,400円670,000円3,239,000円約231,200円

年収がわずか1,000円増えただけで、課税所得は37万円増え、所得税(復興税込み)は約37,900円増えます。社会保険料と住民税(基礎控除43万円で崖なし)も含めた概算の手取りは、年収665万5,000円の約513.3万円から約509.6万円へ約3.7万円減少します。この手取りを取り戻すには年収が約671万円まで増える必要があり、年収約665.6万〜670.8万円は「額面が増えても手取りが少ない」ゾーンです。

同じ構造の小さな崖は合計所得655万円(年収850万円)にもあり、基礎控除が67万円→62万円に下がって所得税が約1万円増えます。

ただし、実務上の影響は限定的です。

  • 崖の手前と後ろの差は最大でも約3.7万円で、年収が約6万円増えれば解消する
  • iDeCoや生命保険料控除は「合計所得金額」を減らさないため崖の判定には効かないが、給与そのものの調整(残業・賞与の時期)で年をまたげば回避できる場合がある
  • 令和10年分以後は基礎控除が「合計所得132万円以下99万円・それ以外62万円」に変わり、この489万円の崖はなくなる予定

つまり「累進課税で損をする」ことはなく、損が出るのは控除額が所得で段階的に切り替わる一点だけ。昇給を断る理由にはなりません。昇給が手取りにどう効くかは昇給インパクトシミュレーターで確認できます。

控除を使えば課税所得はさらに下がる

上の計算例では基礎控除と社会保険料控除しか考慮していません。実際には以下のような控除で課税所得をさらに下げられます。

控除の種類年間の控除額(概算)条件・効果
配偶者控除最大38万円配偶者の年収136万円以下(令和8年分)
配偶者特別控除最大38万円配偶者の年収136万円超207万円以下で段階的に減少
扶養控除(一般)38万円×人数16歳以上・年収136万円以下の扶養親族
生命保険料控除最大12万円生命・介護・年金の3区分
医療費控除実額−10万円年間医療費が10万円超
iDeCo(小規模企業共済等掛金控除)最大27.6万円会社員(企業年金なし)の場合
ふるさと納税(寄附金控除)寄付額−2,000円上限あり
住宅ローン控除(税額控除)最大35万円/年残高×0.7%

たとえばiDeCoに月23,000円拠出している年収800万円の会社員(令和8年分の課税所得約425万円・税率20%帯)なら、課税所得が27.6万円下がり、所得税が約5.5万円(27.6万円×20%)軽減されます。住民税(10%)も約2.8万円減るため合計約8.3万円です。

控除の効き方は「控除額×その人の最高適用税率」です。同じ27.6万円の控除でも、5%帯の年収400万円なら所得税の軽減は約1.4万円にとどまります。令和8年分は5%帯に入る人が増えた(年収約526万円まで)ため、所得控除の節税効果は前年より小さくなる人が多い点も覚えておきましょう。iDeCoの節税効果の詳細はiDeCoシミュレーターで確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q. 住民税も累進課税なの?

いいえ。住民税の所得割は所得に関係なく一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。累進課税が適用されるのは所得税だけです。また住民税の基礎控除は43万円のまま据え置かれており、令和8年度改正の基礎控除引上げは所得税だけの話です(給与所得控除の最低74万円は令和9年度分の住民税から反映)。

Q. 「年収の壁」と累進課税は関係ある?

いわゆる「年収の壁」は、累進課税ではなく控除や社会保険の加入条件に関する問題です。令和8年分は、所得税がかかり始めるラインが178万円(給与所得控除74万円+基礎控除104万円)、扶養控除・配偶者控除の対象になる年収の上限が136万円に上がりました。130万円の壁(社会保険の扶養)は別の制度で残っています。詳しくは年収の壁シミュレーターで確認できます。

Q. 令和8年分の減税はいつ手元に戻る?

会社員は2026年12月の年末調整です。令和8年11月までの毎月の源泉徴収は改正前の税額表で行われ、12月の年末調整で引上げ後の基礎控除・給与所得控除を使って1年分を計算し直し、取りすぎ分が還付されます。年収500万円なら所得税27,650円+復興税分で約2.8万円が、通常の年末調整還付に上乗せされるイメージです。年末調整をしない自営業者・2か所給与の人は2027年2〜3月の確定申告で反映されます。

Q. 年収665万円の崖を避ける方法はある?

給与だけの人が合計所得金額を下げる手段は限られます。iDeCo・生命保険料控除・ふるさと納税は「所得控除」なので合計所得金額は減らず、崖の判定には影響しません。現実的なのは、賞与の支給時期や残業を調整して年をまたぐことくらいです。ただし損失は最大でも約3.7万円で、年収が約6万円増えれば取り戻せるため、無理に収入を抑える必要はありません。

Q. この記事の計算の前提データはどこから?

税率テーブルは国税庁「No.2260 所得税の税率」、基礎控除・給与所得控除・扶養の所得要件は国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」と「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」に基づきます。社会保険料は健康保険・厚生年金・雇用保険の本人負担分として年収の約14.7%で概算し(標準報酬月額の上限は考慮していないため高年収ほど過大)、所得税率シミュレーターの計算ロジックを実行して算出しています。令和7年分の比較値は同じロジックに改正前の控除額を当てはめた値です。

Q. 数字が実感と合わない場合は?

扶養家族の有無、各種控除の適用状況、副業収入の有無、実際の社会保険料(健保組合の料率や標準報酬月額の上限)で税額は変わります。また本記事の所得税は復興特別所得税(2.1%)を含みません。源泉徴収票の「社会保険料等の金額」を所得税率シミュレーターに手入力すると実態に近づきます。それでも合わない場合はお問い合わせからご連絡ください。

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  • 国税庁「No.2260 所得税の税率」
  • 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf
  • 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/pdf/0026005-024.pdf
  • 国税庁「No.1130 社会保険料控除」

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