所得税の累進課税の仕組み|「年収が上がると損」は完全な誤解である理由
所得税の超過累進課税の仕組みを具体的な計算例で解説。年収500万・700万・1000万円の税額比較、実効税率テーブル、控除との関係まで。「税率が上がると手取りが減る」という誤解を数字で検証。
年収が増えると税率が上がって手取りが減る――これは完全な誤解だ。
「年収が上がると税率が上がるから、働くだけ損」。こんな話を聞いたことがある人は多いでしょう。しかしこれは、日本の所得税の仕組みを正しく理解していないことから生まれる典型的な誤解です。
結論を先に言えば、年収が上がって手取りが減ることは絶対にありません。税率が上がるのは「増えた分の所得」に対してだけであり、すでに稼いだ部分の税率はそのままです。
この「超過累進課税」の仕組みを、具体的な計算例とともに解説します。
累進課税には2種類ある
まず、累進課税の種類を整理しておきます。
| 種類 | 仕組み | 日本の所得税 |
|---|---|---|
| 単純累進課税 | 所得全体に同じ税率を適用 | 採用していない |
| 超過累進課税 | 一定額を超えた部分にだけ高い税率を適用 | こちらを採用 |
日本が採用しているのは超過累進課税です。年収が増えて税率の区分が上がっても、その税率が適用されるのは超えた部分だけ。ここが最大のポイントです。
所得税の税率テーブル(2026年度)
| 課税所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円〜 | 45% | 4,796,000円 |
「控除額」の列は速算表の計算用です。たとえば課税所得400万円なら「400万 × 20% − 427,500円 = 372,500円」と一発で計算できる仕組みになっています。
この速算表の意味を正確に知りたい場合は所得税率シミュレーターで自分の年収を入力してみてください。
「超過累進」の意味を計算で理解する
課税所得が400万円の場合、税金がどう計算されるかを段階的に見てみましょう。
段階別の計算
| 所得の区間 | 税率 | 税額 |
|---|---|---|
| 0〜194.9万円 | 5% | 97,450円 |
| 195万〜329.9万円 | 10% | 135,000円 |
| 330万〜400万円 | 20% | 140,000円 |
| 合計 | - | 372,450円 |
400万円全体に20%をかけると80万円になりますが、実際の税額は約37万円。半分以下です。これが超過累進課税の仕組みであり、「年収が上がると損」が誤解である根拠です。
年収500万・700万・1000万円の具体的な計算例
実際の年収から所得税額を計算するには、「給与所得控除」と「所得控除」を差し引いて課税所得を求める必要があります。以下は独身・会社員(基礎控除48万円+社会保険料控除のみ)を前提とした概算です。
年収500万円の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収 | 5,000,000円 |
| 給与所得控除 | 1,440,000円 |
| 給与所得 | 3,560,000円 |
| 所得控除(基礎控除+社保) | 約1,230,000円 |
| 課税所得 | 約2,330,000円 |
| 所得税額 | 約135,500円 |
| 実効税率 | 約2.7% |
年収の手取りへの影響は年収から手取り計算シミュレーターで正確に計算できます。
年収700万円の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収 | 7,000,000円 |
| 給与所得控除 | 1,900,000円 |
| 給与所得 | 5,100,000円 |
| 所得控除(基礎控除+社保) | 約1,530,000円 |
| 課税所得 | 約3,570,000円 |
| 所得税額 | 約286,500円 |
| 実効税率 | 約4.1% |
年収1,000万円の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年収 | 10,000,000円 |
| 給与所得控除 | 1,950,000円 |
| 給与所得 | 8,050,000円 |
| 所得控除(基礎控除+社保) | 約1,930,000円 |
| 課税所得 | 約6,120,000円 |
| 所得税額 | 約796,500円 |
| 実効税率 | 約8.0% |
年収1,000万円でも、所得税の実効税率は8%程度。「年収1,000万円なら税率33%」というのは完全に誤りで、33%が適用されるのは課税所得695万円を超えた部分(この例では存在しない)だけです。
控除を使えば課税所得はさらに下がる
上の計算例では基礎控除と社会保険料控除しか考慮していません。実際には以下のような控除を使うことで、課税所得をさらに下げることができます。
| 控除の種類 | 年間の控除額(概算) | 効果 |
|---|---|---|
| 配偶者控除 | 最大38万円 | 配偶者の年収103万円以下 |
| 扶養控除(一般) | 38万円×人数 | 16歳以上の扶養親族 |
| 生命保険料控除 | 最大12万円 | 生命・介護・年金の3区分 |
| 医療費控除 | 実額−10万円 | 年間医療費が10万円超 |
| iDeCo(小規模企業共済等控除) | 最大27.6万円 | 会社員の場合 |
| ふるさと納税(寄附金控除) | 寄付額−2,000円 | 上限あり |
| 住宅ローン控除(税額控除) | 最大35万円/年 | 残高×0.7% |
たとえばiDeCoに月23,000円拠出している年収700万円の会社員なら、課税所得が約27.6万円下がり、所得税が約5.5万円軽減されます。iDeCoの節税効果の詳細はiDeCoシミュレーターで確認できます。
年収別の実効税率まとめ
最後に、独身・会社員(基礎控除+社会保険料控除のみ)の年収別の実効税率を一覧にまとめます。
| 年収 | 課税所得(概算) | 所得税額(概算) | 実効税率 | 最高適用税率 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 約127万円 | 約63,500円 | 約2.1% | 5% |
| 400万円 | 約177万円 | 約83,000円 | 約2.1% | 5% |
| 500万円 | 約233万円 | 約135,500円 | 約2.7% | 10% |
| 600万円 | 約290万円 | 約192,500円 | 約3.2% | 10% |
| 700万円 | 約357万円 | 約286,500円 | 約4.1% | 20% |
| 800万円 | 約422万円 | 約416,500円 | 約5.2% | 20% |
| 1,000万円 | 約612万円 | 約796,500円 | 約8.0% | 20% |
| 1,200万円 | 約812万円 | 約1,204,100円 | 約10.0% | 23% |
| 1,500万円 | 約1,112万円 | 約1,831,100円 | 約12.2% | 33% |
このテーブルを見れば明らかなように、年収が増えるほど税額は増えるが、実効税率は最高適用税率よりもはるかに低い。これが超過累進課税の本質です。
昇給が手取りにどう影響するかは昇給インパクトシミュレーターで、確定申告による還付額は確定申告還付金シミュレーターで具体的に試算できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 住民税も累進課税なの?
いいえ。住民税は所得に関係なく一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。累進課税が適用されるのは所得税だけです。そのため、年収が上がると住民税の負担率はほぼ一定のまま、所得税の負担率だけが緩やかに上がっていきます。
Q. 「年収の壁」と累進課税は関係ある?
103万円の壁や130万円の壁は、累進課税ではなく控除や社会保険の加入条件に関する問題です。年収103万円を超えると所得税が発生し始めますが、これは「税率が上がる」のではなく「課税対象になる」という話です。年収の壁については年収の壁シミュレーターでシミュレーションできます。
Q. この記事の計算の前提データはどこから?
税率テーブルは国税庁「No.2260 所得税の税率」の速算表に基づいています。給与所得控除は国税庁「No.1410 給与所得控除」、社会保険料は年収の約15%として概算しています。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
扶養家族の有無、各種控除の適用状況、副業収入の有無などで税額は大きく変わります。この記事の計算例は最もシンプルな条件(独身・給与収入のみ・基礎控除と社会保険料控除のみ)ですので、実際の税額は所得税率シミュレーターに源泉徴収票の数字を入力して確認してください。
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- 国税庁「No.2260 所得税の税率」速算表
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」
- 国税庁「No.1199 基礎控除」
- 国税庁「No.1130 社会保険料控除」