法人化(法人成り)は所得800万円から得|損益分岐点と節税額シミュレーション【2026】
個人事業主の法人化(法人成り)の損益分岐を令和8年分の税制・協会けんぽ令和8年度料率で試算。経費率30%なら売上800万円(所得560万円)でほぼ拮抗、1,000万円で手取り差年約32万円、2,000万円で約123万円(法人に残る利益込み)。内部留保を個人に移す課税と維持費を考えると実務の目安は所得800万円以上。差がどこで生まれるかを社会保険料・税金・税理士費用に分解して解説。
結論: 計算上の分岐は所得560万円、実務の目安は所得800万円
個人事業主のままか、法人を作って自分に役員報酬を払うか。法人化シミュレーターで令和8年分の税制(基礎控除104万〜62万円・給与所得控除の最低保障74万円)と協会けんぽ令和8年度の料率を使って計算すると、標準条件(40歳・東京・独身・青色65万円・事業税5%・税理士費用年30万円)では売上−経費=約560万円が損益分岐になります。
ただしこの「法人化の手取り」には、法人に残した税引後利益(内部留保)も含まれます。内部留保を生活費として使うには役員報酬・配当・退職金として別に課税されるため、それを割り引くと明確に得と言えるのは所得800万円以上というのが本記事の結論です。
売上別の手取り比較(シミュレーター実装値)
経費率30%・合同会社の場合です。法人側は「役員の手取り+法人に残る税引後利益」が最大になる役員報酬を10万円刻みで探しています。
| 年間売上(所得) | 個人事業主の手取り | 法人化の手取り(役員報酬) | 手取り差(+は法人有利) |
|---|---|---|---|
| 400万円(280万円) | 約212.2万円 | 約184.6万円(110万円) | −約27.6万円 |
| 600万円(420万円) | 約310.8万円 | 約294.7万円(110万円) | −約16.1万円 |
| 800万円(560万円) | 約404.1万円 | 約404.9万円(110万円) | +約0.8万円(拮抗) |
| 1,000万円(700万円) | 約481.1万円 | 約513.0万円(110万円) | +約31.9万円 |
| 1,500万円(1,050万円) | 約689.0万円 | 約778.7万円(140万円) | +約89.7万円 |
| 2,000万円(1,400万円) | 約891.3万円 | 約1,014.0万円(250万円) | +約122.8万円 |
※ 手取り=(売上−経費)−税・社会保険料(法人は会社負担分も)−税理士費用。設立費用(合同会社約10万円)は初年度のみなので含めていません。消費税も対象外です。
条件を変えると分岐点(経費率30%の売上)はこう動きます。
| 条件 | 分岐点の売上 |
|---|---|
| 標準(上記) | 800万円 |
| 配偶者を扶養(配偶者の国民年金年21.5万円と国保の均等割が不要に) | 560万円 |
| 39歳以下(介護保険料なし) | 830万円 |
| 事業税がかからない業種 | 840万円 |
| 税理士費用 年50万円 | 880万円 |
| 税理士費用 年15万円 | 660万円 |
| 経費率10% / 50% | 620万円 / 1,110万円 |
手取り差はどこで生まれるのか(売上1,000万円の分解)
両者とも「所得700万円」という同じ財布から税と保険料を払うので、手取り差=負担の差です。売上1,000万円のケースを分解します。
| 項目 | 個人事業主 | 法人化(役員報酬110万円) | 法人化での増減 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料 | 104.3万円(国保82.8万+国民年金21.5万) | 32.1万円(会社16.2万+本人15.8万) | −72.2万円 |
| 税金 | 114.6万円(所得税46.8万+住民税47.2万+事業税20.5万) | 124.9万円(法人税等。役員の所得税・住民税は0円) | +10.3万円 |
| 税理士費用 | 0円 | 30.0万円 | +30.0万円 |
| 合計 | 218.9万円 | 187.0万円 | −31.9万円 |
意外かもしれませんが、税金そのものは法人化でむしろ増えています。差を生んでいる主役は社会保険料です。国保は所得に比例して年80万円を超えますが、法人の社会保険料は役員報酬にしかかからず、報酬を月9万円台に抑えれば年32万円程度で済みます。
法人側の税率(2026年10月時点)
- 法人税: 所得年800万円以下の部分15%(中小法人の軽減税率。令和7年度改正で適用期限が2年延長され、2027年3月31日までに開始する事業年度が対象。2025年4月1日以後開始の事業年度で所得が年10億円を超える場合は17%)、800万円超23.2%
- 地方法人税: 法人税額の10.3%
- 法人住民税: 法人税割7.0%(標準税率)+均等割7万円(資本金1,000万円以下・従業者50人以下)。均等割は赤字でもかかります
- 法人事業税: 所得400万円以下3.5%/800万円以下5.3%/超7.0%(標準税率。東京都の超過税率は3.75%/5.665%/7.48%)+特別法人事業税(所得割額の37%)
- 防衛特別法人税: 2026年4月1日以後に開始する事業年度から、(基準法人税額−500万円)×4%。法人所得がおおむね2,440万円以下なら0円(申告書の提出は必要)なので、一人法人ではほぼ影響しません
合計すると(事業税の損金算入後で)所得400万円以下の部分で約21%、800万円超の部分で約34%。個人の所得税+住民税は課税所得330万円超で30%、695万円超で33%なので、利益を法人に残すほど有利という構造が分かります。
最適役員報酬が「年110万円」と低く出る理由
所得1,000万円(売上1,000万円・経費0)で役員報酬を変えると、手取り合計はこうなります。
| 役員報酬 | 社会保険料(会社+本人) | 役員の所得税・住民税 | 法人税等 | 手取り合計(内部留保込み) |
|---|---|---|---|---|
| 110万円 | 約32万円 | 0円 | 約194万円 | 約744万円 |
| 400万円 | 約124万円 | 約23万円 | 約117万円 | 約706万円 |
| 600万円 | 約182万円 | 約46万円 | 約66万円 | 約676万円 |
| 700万円 | 約215万円 | 約65万円 | 約41万円 | 約649万円 |
役員報酬110万円なら給与所得控除74万円と基礎控除104万円で所得税・住民税がかからず、報酬を増やすほど労使計約30%の社会保険料が乗ります。ただし報酬110万円では生活できず、厚生年金も少なく、住宅ローン審査でも不利です。実際に払う報酬で比べると結論は変わり、売上800万円で役員報酬360万円にすると個人事業主のほうが年約34万円有利、売上1,000万円・報酬480万円でも個人が約23万円有利です。生活費を報酬で取るなら、分岐点はもっと上にあると考えてください。
役員報酬別の社会保険料(東京・40〜64歳、会社+本人)は300万円で約95万円、500万円で約149万円、700万円で約215万円です。
小規模企業共済・iDeCoは法人化しても使える
小規模企業共済は、従業員20人(商業・サービス業は5人)以下の会社の役員も加入でき、掛金(月7万円まで)は全額所得控除です。iDeCoの上限は2026年12月分(2027年1月引き落とし分)の掛金から、個人事業主が月6.8万円→7.5万円(国民年金基金等と合算)、企業年金のない法人役員が月2.3万円→6.2万円に上がります。掛金の控除は払込年で決まるため、年90万円・年74.4万円をまるごと使えるのは2027年分からで、2026年分は旧上限(年81.6万円・年27.6万円)です。改正後は個人事業主と法人役員の差が年15.6万円まで縮まります(シミュレーターは改正後の値で計算)。ただし役員報酬110万円のように所得がほぼ0円の役員には控除する所得が残らないため、法人化後は節税効果が出ません。掛金別の節税額はiDeCoシミュレーター、手段ごとの効果は節税効果ランキングで比べられます。
判断フローチャート
- 所得(売上−経費)は560万円以上? → いいえ: 個人のまま。青色申告のメリットで65万円控除を取り切るのが先
- 毎年その水準が続く見込み? → いいえ: 赤字でも均等割7万円+税理士費用がかかるので様子見
- 生活費として必要な役員報酬を払っても法人が勝つ? → シミュレーターの「役員報酬を指定」で確認。勝つなら法人化、負けるなら所得800万円を超えるまで待つ
- 消費税の課税事業者になる時期・取引先が法人格を求めるかも合わせて判断
現在の個人の負担は個人事業主の税金シミュレーター、会社員に戻る選択肢との比較は会社員 vs フリーランスの手取り比較で確認できます。
よくある質問
法人化にかかる初期費用は?
法定の実費は次のとおりです(司法書士・行政書士に頼む場合の報酬は別)。
| 費用 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 6万円(資本金×0.7%、最低6万円) | 15万円(資本金×0.7%、最低15万円) |
| 定款認証手数料 | 不要 | 資本金100万円未満3万円(発起人が自然人3人以下・発起人が全株引受け・取締役会なしなら1.5万円)/100万〜300万円未満4万円/それ以外5万円 |
| 定款の印紙税 | 紙なら4万円・電子定款なら0円 | 紙なら4万円・電子定款なら0円 |
| 合計の目安 | 6万〜10万円 | 約16.5万〜24万円+謄本代等 |
シミュレーターでは紙の定款を前提に、合同会社10万円・株式会社約25万円(資本金300万円以上の上限寄り)を初年度に差し引いています。電子定款なら印紙税4万円がかからないので、その分だけ初年度の差は縮みます。節税目的なら合同会社で足ります。
赤字でも税金はかかる?
法人住民税の均等割(資本金1,000万円以下・従業者50人以下で年7万円)は赤字でもかかります。税理士費用と合わせ、売上が安定しない段階の法人化は負担増になりがちです。
この計算の前提データはどこから?
法人税率は国税庁タックスアンサーNo.5759「法人税の税率」、防衛特別法人税は国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」、地方法人税10.3%は国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」、法人事業税・特別法人事業税・個人事業税(5%・事業主控除290万円)は東京都主税局、均等割は総務省「法人住民税」、健康保険料率(東京9.85%・介護1.62%・子ども・子育て支援金0.23%)は全国健康保険協会「令和8年度 都道府県単位保険料率」、国民年金月17,920円は日本年金機構、基礎控除・給与所得控除は国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」です(いずれも2026年10月22日確認)。中小法人の軽減税率の延長と所得10億円超の17%は国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」、登録免許税は国税庁No.7191、定款の印紙税4万円は国税庁No.7141(第6号文書。定款の原本に限る)、定款認証手数料は公証人手数料令35条、iDeCoの改正時期は厚生労働省「iDeCo・企業型DCの拠出限度額の見直し」とリーフレット(2026年12月〈2027年1月引き落とし分〉から)で確認しました(2026年10月23日確認)。税理士費用年30万円は公的な料金表がないため計算用の仮定です。表の数値は法人化シミュレーターの計算式を実行した値です。
数字が実感と合わない場合は?
国保料は市区町村で、法人の税率は自治体の超過課税で変わります。法人成り初年度は、前年の個人所得にもとづく住民税・国保の支払いも残ります。シミュレーターの詳細設定で年齢・地域・扶養・共済・税理士費用・役員報酬を実態に合わせ、それでも合わない場合はお問い合わせからご連絡ください。最終判断は税理士への相談をおすすめします。