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父の遺産1,800万円を相続した43歳。繰上返済・NISA・教育費、どこに置くのが正解だったか【ケーススタディ】

相続で現金1,800万円を受け取った43歳・年収600万円の会社員が、住宅ローンの繰上返済・NISA運用・大学費用の3択で迷った実話をモデル化。相続税はいくらかかったのか、変動0.7%のローンを繰り上げる価値、17年運用した場合の差額まで、具体的な数字で『置き場所』の判断を分解する。

「使うつもりはないんです。でも、どこに置けばいいのか分からなくて」——相談の最初の一言がこれだった。

父を亡くしたのは去年の秋。四十九日も一周忌も終え、遺産分割協議も相続人3人(母・本人・妹)で穏やかにまとまった。本人の取り分は現金で1,800万円。銀行の普通預金に振り込まれたまま、半年間そのままになっている。

「増やしたい気持ちより、減らしたくない気持ちのほうが強い」。この感覚は、相続でまとまったお金を受け取った人にかなり共通する。今回はこの佐野さん(仮名)のケースを、相続税の計算から資金の置き場所の判断まで、実際の数字で追っていく。

佐野家のプロフィール

項目内容
本人佐野さん・43歳・会社員(年収600万円)
家族妻41歳(パート・年収100万円)、長男13歳(中1)、長女10歳(小4)
住まい東京都下・多摩地区の戸建て(持ち家)
住宅ローン残債2,000万円・変動0.7%・残り25年
金融資産世帯で約450万円(うちNISA運用中80万円)
今回の相続父の遺産のうち現金1,800万円を取得

共働きとはいえ妻はパート、子どもは中学・小学生で、これから教育費が本格化する手前の家計だ。老後資金の積み立てはまだ薄い。そこへ「まとまった1,800万円」が入ってきた。

まず片づけたのは「相続税はいくらか」

置き場所を考える前に、そもそも税金でいくら持っていかれるのかがはっきりしていなかった。ここが曇っていると、使える金額の前提が定まらない。

父の遺産を課税価格ベースで合計すると6,000万円ほど(自宅は母が住み続けるため小規模宅地等の特例で評価減、残りは預貯金)。相続税には基礎控除があり、計算式は決まっている。

```
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
= 3,000万円 + 600万円 × 3人(母・本人・妹)
= 4,800万円
```

課税価格6,000万円から基礎控除4,800万円を引いた1,200万円が課税対象。ここに相続税の速算表を当てはめて相続税の総額を出し、実際の取得割合で按分する。

ステップ金額
課税価格の合計6,000万円
基礎控除▲4,800万円
課税遺産総額1,200万円
相続税の総額(3人分)約120万円
本人の取得割合1,800万円 ÷ 6,000万円 = 30%
本人の相続税約36万円

※母は「配偶者の税額軽減」により負担ゼロになるケースが多い。上表は本人負担分の概算。

結果、佐野さんが実際に払った相続税は約36万円。「もっと取られると思っていた」というのが率直な感想だった。相続税は基礎控除が大きく、課税価格が4,800万円(この家族構成の場合)を超えた部分にしかかからない。手取りで残ったのは約1,764万円。生活防衛費の一部を足して、判断に回せる資金をおおよそ1,760万円として設計を始めた。

相続税がいくらになるかは相続人の数と遺産総額で大きく変わる。自分のケースの当たりをつけるなら相続税シミュレーターで法定相続人と遺産額を入れてみると早い。

3つの置き場所を数字で並べる

佐野さんが迷っていたのは、次の3択だった。

  1. 住宅ローンの繰上返済(残債2,000万円・変動0.7%)
  2. NISAで運用(全世界株インデックス想定)
  3. 大学費用として温存(現金・個人向け国債など)

「どれも正しそうで、決められない」。ここは感情で選ばず、17年後(下の子が大学を出るまで)にそれぞれいくらの差を生むかを並べてから考えることにした。

選択肢1:繰上返済の効果は思ったより小さい

直感的には「借金を先に返す」が正しく感じる。ところが佐野さんのローンは変動0.7%と歴史的に低い。1,760万円を繰り上げても、削減できる利息はそれほど大きくならない。

  • 残り25年・0.7%のローンに対して1,760万円を期間短縮型で繰上返済
  • 削減できる総利息は約145万円(概算)

つまり「1,760万円を使って145万円の得」。悪くはないが、金利が低いぶんインパクトは限定的だ。金利が1.5%や2%に上がれば話は変わるので、繰上返済シミュレーターで自分の金利・残期間を入れて試すのが前提になる。

選択肢2:NISA運用の期待値は大きいが、値動きがある

同じ1,760万円を新NISAの成長投資枠+つみたて枠に入れ、全世界株インデックスで運用したらどうなるか。運用益が非課税になるのがNISAの強みだ。

想定利回り17年後の評価額含み益(非課税)
年3%約2,910万円約1,150万円
年4%約3,430万円約1,670万円

※複利計算(1,760万円 ×(1+利回り)^17)による概算。手数料・分配金再投資は考慮していない。

年4%なら含み益は約1,670万円。繰上返済の145万円とは1,500万円以上の開きがある。これは「0.7%で借りているお金を、期待利回り4%で運用する」という金利差そのものだ。長期の複利がどれだけ効くかは複利計算シミュレーターNISAシミュレーターで年数を動かすと体感しやすい。

ただし株式は途中で3〜4割下がる年もある。下の子の大学入学とタイミングが重なったら、値下がり局面で取り崩す羽目になりかねない。ここが選択肢2の弱点だった。

選択肢3:大学費用として温存する安心感

長男は5年後、長女は8年後に大学進学の可能性がある。私立文系×2人+一部下宿を想定すると、大学だけで1,000万〜1,400万円規模になり得る。この「絶対に必要で、時期が動かせないお金」を値動きのある資産に置くのはリスクが高い。

  • メリット:必要な時期に必要な額が確実に用意できる
  • デメリット:インフレ・低金利下では実質的に目減りする

佐野家が出した結論:3つに割る

「全額どれか」ではなく、性格の違うお金として3つに分けるのが着地点だった。

配分金額置き場所ねらい
生活防衛費300万円普通預金収入減・病気への備え(生活費約半年分)
教育費バケツ400万円個人向け国債・定期5〜8年後の大学費用の頭金部分
運用バケツ1,060万円NISA(全世界株)17年運用。老後資金の柱に育てる

運用バケツ1,060万円を年4%で17年運用すると、評価額は約2,060万円(含み益約1,000万円・非課税)。繰上返済はあえてしなかった。「0.7%のローンを急いで返すより、同じお金を非課税で運用したほうが期待値が高い」と数字で納得できたからだ。ローンは団信(団体信用生命保険)が付いており、万一のときは残債がゼロになる保障の役割も果たしている。

老後資金として最終的にいくら要るのかは、この運用バケツの育ち方次第で変わる。ゴールから逆算するなら老後資金シミュレーターで不足額を確認し、運用バケツをどこまで取り崩さずに残せるかを見ておくといい。

相続でまとまったお金を受け取ったときのチェックリスト

佐野さんのケースから、受け取る側が最初に押さえるべき順番を整理しておく。

  • [ ] 相続税がいくらかを先に確定する(使える金額の前提が決まる)
  • [ ] すぐ使う予定のないお金と、時期が決まっているお金を仕分ける
  • [ ] 既存の借入金利と期待運用利回りを比べる(金利が低いなら繰上返済を急がない)
  • [ ] 子どもの進学など「動かせない時期の支出」は値動きのない資産で確保する
  • [ ] 残りを長期・非課税の枠(NISA等)に回す

FAQ

Q. この記事の相続税額はどこから計算していますか?
A. 相続税法の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と相続税の速算表に基づく概算です。実際の税額は財産の種類・評価方法・各種特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)で変わるため、正確な金額は税理士や国税庁の資料で確認してください。数字の当たりは相続税シミュレーターで試せます。

Q. なぜ低金利のローンを繰り上げないのですか?
A. 変動0.7%のローンを繰り上げて得られる「利息削減」より、同じ資金をNISAで長期運用したときの期待リターンのほうが大きいためです。ただしこれは期待値の話で、運用には元本割れリスクがあります。金利が2%を超えるような局面では繰上返済の魅力が増すので、繰上返済シミュレーターで自分の条件を都度確認してください。

Q. 運用に回すお金と教育費を混ぜてはいけないのですか?
A. 「時期が決まっている支出」を値動きのある資産に置くと、必要なタイミングが下落局面と重なったときに損失を確定させて取り崩すことになります。大学入学など動かせない支出は、金額と時期が読めるぶん、価格変動のない資産で確保するのが基本です。

Q. 数字が自分の実感と合いません。
A. 本記事はモデルケースで、金利・利回り・遺産総額は佐野家の前提値です。あなたの家庭では相続人の数・遺産額・ローン金利・教育費の規模が異なります。各シミュレーターに自分の数字を入れて再計算するか、お問い合わせからご連絡ください。

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相続で受け取ったお金は「増やす」より先に「仕分ける」。生活防衛費・時期の決まった支出・長期で育てるお金の3つに分けてから、それぞれに合った置き場所を選ぶ——佐野家の半年はそこに落ち着いた。

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