くらシム
住まい

相続した実家、維持は年19万円・解体は184万円・売却なら+382万円——52歳長男が空き家の三択を検算した【ケーススタディ】

栃木県の実家を相続した52歳会社員のケーススタディ。空き家のまま維持する費用は年19.4万円、解体費は184万円、古家付き売却なら手残り約382万円。固定資産税の住宅用地特例、管理不全空家の指定リスク、空き家の3,000万円特別控除の期限まで、三択の損得を実際の数字で検算した全記録。

年3万8,400円。

今年6月、田村さん(仮名・52歳、東京都在住の会社員)のもとに届いた実家の固定資産税・都市計画税の納税通知書の金額だ。月に直せば3,200円。「この程度なら、当面そのままでもいいか」——5月に81歳の父を見送ったばかりの田村さんが最初にそう考えたのは、自然なことだった。

日本の空き家は約900万戸、住宅の7戸に1戸(空き家率13.8%)に達する(総務省「住宅・土地統計調査」2023年)。その多くは、こうして「当面そのまま」から始まる。だが田村さんは妹と電話で相続の話を詰めるうちに、「そのまま」の値段を一度も計算していないことに気づいた。この記事は、田村さんが維持・解体・売却の三択を電卓で検算した記録だ。

田村家のプロフィール

項目内容
田村さん52歳・会社員(年収650万円)・東京都在住の持ち家マンション暮らし
49歳・大阪府在住。遺産分割は「実家は兄、預貯金は折半」で合意
実家栃木県の地方都市郊外。築48年の木造2階建て(延床105㎡・約32坪)、土地180㎡、市街化区域内
固定資産税評価額土地540万円・建物120万円
父の遺産実家+預貯金約1,800万円。相続人2人の基礎控除4,200万円を下回り相続税はゼロ
実家までの距離東京の自宅から車で片道約150km(高速利用で約2時間)

相続税がかからないことは相続税シミュレーターの計算どおりで、ここは問題にならなかった。問題は「税金がかからない実家」を、これからどうするかだった。

検算①:「そのまま維持」の本当の値段は年19.4万円

まず、誰も住まない実家を現状のまま持ち続ける費用をすべて書き出した。

費目年額備考
固定資産税・都市計画税38,400円住宅用地特例の適用後(後述)
火災保険45,000円空き家は「住宅物件」でなく「一般物件」扱いになり割高。父の契約は死亡で失効し、掛け直しが必要だった
電気・水道の基本料金26,400円月2,200円。通水・通電は建物の劣化と防犯のため止めない
管理のための帰省54,000円往復約9,000円(高速代+ガソリン)×年6回
庭木の剪定・草刈りの外注30,000円年2回。放置すると近隣クレームに直結する
合計193,800円月あたり約16,000円

納税通知書の3,200円/月という感覚は、全体の2割にすぎなかった。実際は月1.6万円の「待機コスト」であり、しかも建物の資産価値は空き家のまま下がり続ける。帰省の交通費は高速 vs 下道シミュレーターで往復パターンを変えて確かめた数字だ。持ち家の維持費が「住んでいなくても発生する固定費のかたまり」であることは、持ち家維持費シミュレーターの内訳とも一致する。

隠れた時限爆弾:住宅用地特例の解除

年3万8,400円という税額は、住宅用地特例(200㎡以下の部分は固定資産税の課税標準が1/6、都市計画税が1/3)に支えられている。検算するとこうなる。

```
現状: 土地 540万円×1/6×1.4% = 12,600円(固定資産税)
土地 540万円×1/3×0.3% = 5,400円(都市計画税)
建物 120万円×(1.4%+0.3%) = 20,400円
合計 38,400円/年
```

ところが2023年12月施行の改正空家等対策特別措置法により、倒壊のおそれ等がある「特定空家」だけでなく、窓の破損や草木の繁茂を放置した「管理不全空家」も、市区町村の勧告を受けると特例が解除されるようになった。解除されると土地の固定資産税は12,600円→75,600円と6倍になり、合計では年11万2,200円。現状の約2.9倍だ。「放置するほど安い」時代は制度的に終わっている。

検算②:解体は184万円かかり、しかも税金が上がる

「古い家を壊して更地にすれば管理が楽になる」——妹の案を見積もりで検算した。

  • 木造32坪の解体本体: 坪4.5万円 × 32坪 = 約144万円
  • 家財の残置物処分: 約25万円
  • ブロック塀・庭木の撤去: 約15万円
  • 合計: 約184万円(地域の解体業者2社の見積もりの平均。重機が入りにくい立地だと坪単価はさらに上がる)

さらに見落としがちな点がある。建物を壊すと住宅用地特例の前提となる「住宅」が消えるため、更地の税額は年91,800円と現状の約2.4倍になる。184万円払った上で、毎年の税負担も上がるのだ。

では売却前提の解体はどうか。不動産会社の査定は「古家付き450万円、更地渡しなら520万円」。更地にして上がる価格は70万円、かかる解体費は184万円。この実家では、解体してから売る合理性はなかった。

検算③:売却——3,000万円控除が82万円の税金を消す

古家付き450万円で売った場合の手残りを計算する。

```
譲渡価額 450万円
取得費(概算取得費5%) ▲22.5万円 ※父の購入時の契約書が見つからないため
譲渡費用(仲介手数料) ▲21.5万円 ※(450万×3%+6万円)×消費税1.1
──────────────────────
譲渡所得 約406万円
```

このままだと長期譲渡所得として税率20.315%、約82万円の税金がかかる。ここで効くのが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」(国税庁タックスアンサーNo.3306)だ。

田村さんの実家は要件をすべて満たしていた。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された戸建て(築48年・1978年建築)
  • 相続直前まで父が一人で居住
  • 相続から譲渡まで事業・貸付・居住に使っていない
  • 譲渡価額1億円以下
  • 2024年以降は、買主が譲渡翌年の2月15日までに耐震改修または解体する契約でも適用可(売主が壊さなくてよくなった)

控除が使えれば譲渡所得406万円は全額控除内に収まり、税額はゼロ。適用の有無だけで手残りが82万円変わる。ただしこの特例の適用期限は2027年12月31日の譲渡分まで。「いつか売る」を先送りすると、期限切れで82万円を失う可能性がある。

三択の比較:5年間でこれだけ差がつく

シナリオ5年間の収支備考
空き家のまま維持▲約97万円年19.4万円×5年。建物の劣化と管理不全空家のリスクは増える一方
解体して更地で保有▲約245万円解体184万円+更地の税・草刈り 年約12万円×5年
1年以内に古家付きで売却+約382万円450万-仲介21.5万-遺品整理15万-相続登記12万-維持費1年分19.4万

売却と維持の差は5年で約480万円。数字の上では議論の余地がなかった。

結論は「売却」——ただし今すぐではなく、1年かけて

それでも田村さんは「今すぐ売却」を選ばなかった。仏壇と父の荷物をそのままに買い手を探す気持ちには、どうしてもなれなかったからだ。妹と決めた段取りはこうだ。

  1. 今年7月中: 相続登記を申請する。 2024年4月から相続登記は義務化され、相続を知ってから3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になる(法務省)。登録免許税2.6万円+司法書士報酬等で約12万円
  2. 今年中: 遺品整理。 形見分けと書類の確認は兄妹で行い、大型家具の搬出・処分だけ業者に依頼して約15万円
  3. 来年(2027年)春: 古家付きで売り出す。 3,000万円控除の期限(2027年末譲渡分まで)に半年以上の余裕を持たせる
  4. それまでの維持費 約19万円は「実家との別れの準備費用」と割り切る

なお、この段取りを決められたのは相続人が2人とも合意していたからで、共有名義のまま放置すると次の相続で権利者が増え、売ることすら難しくなる。父が公正証書遺言を残していたことも大きかった。作成費用は財産額によるが、遺言書作成費用シミュレーターで試算できる数万〜十数万円で、今回のような兄妹間の調整コストを考えれば安い保険だったと田村さんは振り返る。

同じ立場になったら——最初の90日でやること

  • [ ] 納税通知書で固定資産税評価額を確認し、固定資産税シミュレーターで特例解除後の税額まで把握する
  • [ ] 火災保険の契約者を確認する。被相続人名義のままでは保険金が出ないことがある。掛け直しの相場は火災保険シミュレーター
  • [ ] 維持費を「月額」に直して書き出す(税金は氷山の一角)
  • [ ] 不動産会社2社以上に「古家付き」と「更地渡し」の両方で査定を取る
  • [ ] 空き家の3,000万円特別控除の要件と2027年末の期限を確認する
  • [ ] 相続登記の3年期限を確認し、先に済ませる

「実家をどうするか」は感情の問題であって、感情の問題だからこそ、数字を先に固めておく価値がある。田村さんの場合、電卓が出した答えは冷たいものではなく、「1年かけて別れる」という段取りに家族が納得するための材料になった。

出典: 総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)、空家等対策の推進に関する特別措置法(2023年12月改正施行)、国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、法務省「相続登記の申請義務化について」(2024年4月施行)。税額・費用はいずれもこのケースの条件での概算であり、実際の適用可否は税務署・自治体・専門家への確認を推奨する。

この記事の内容をシミュレーションしてみましょう

あなたの条件を入力すると、具体的な数字で結果が分かります

シミュレーターを使う

広告

関連記事

広告