医療費控除は「払った日」で年が決まる——12月の歯科治療40万円、今年払うか1月に回すか。分けて払うと年収500万円で最大1.5万円目減り、家族の「誰が払うか」を間違えると11万円差。年末入院は月またぎで自己負担が8.3万円増える【2026年分の年末】
医療費控除は治療した日ではなく支払った日の年に入る。クレジットカードやデンタルローンは立替払いの年、院内分割は払った年ごと。10万円の足切りは年ごとにかかるため、40万円の治療を年またぎで20万円ずつ払うと、年収500万円・ほかの医療費0円の年がある人で約1.5万円還付が減る。来年育休に入る妻と夫のどちらの名義で払うかで最大11万円の差、高額療養費は暦月単位なので100万円の入院を11月末〜12月にまたぐと区分ウで自己負担が92,940円→175,880円に。2021年分の還付申告は2026年12月31日で期限。令和8年分の税率で検算した11〜12月の判断表。
「手術は12月にできます。お支払いは一括でも、12月と1月の2回に分けても大丈夫ですよ。」
歯科でこう言われたとき、多くの人は「今年の医療費控除に入るのはどっちだろう」と考える。答えは単純で、医療費控除は治療した日ではなく、お金を払った日の年に入る。だからこそ、11〜12月は「いつ払うか」「誰が払うか」で戻ってくる金額を動かせる、1年でほぼ唯一の時期になる。
この記事では、令和8年分(2026年分)の税率で、年末の医療費をどちらの年に入れるべきかを3つのケースで検算する。
まず押さえる「年の決まり方」
医療費控除は所得税法73条で「その年中に支払った医療費」が対象と決まっている。年末に迷いやすい支払い方法ごとに整理するとこうなる。
| 支払い方法 | どの年の医療費になるか | 年末の注意点 |
|---|---|---|
| 窓口で現金・電子マネー | 支払った日の年 | 12月28日以降は休診の医院が多い |
| クレジットカード | カードで決済した日の年(引き落とし月ではない) | 12月30日決済なら、1月引き落としでも2026年分 |
| デンタルローン・医療ローン | 信販会社が医院に立替払いした年に全額 | 返済した年ではない。金利・手数料は対象外 |
| 医院への分割払い(院内分割) | 実際に払った年ごとに分かれる | 12月分と翌年分で2つの年に割れる |
| 入院費(退院時精算) | 精算した日の年 | 12月入院・1月退院なら原則2027年分 |
| 未払いのまま年を越した分 | 支払った翌年 | 請求書の日付は関係ない |
もう一つの前提が足切り。控除額は次の式で計算する。
> 医療費控除額 =(その年に払った医療費 − 保険金などで補てんされた額)− 10万円
> ※総所得金額等が200万円未満の人は「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」
戻ってくるお金は、控除額 ×(所得税率 × 1.021+住民税10%)。年収500万円の会社員(令和8年分の基礎控除104万円で課税所得約177万円)なら税率5%なので、控除額1万円あたり約1,510円。年収700万円で課税所得が330万円を超える人は20%なので約3,040円になる。
ケース1:40万円の治療を「割る」のが一番損
さいたま市に住む佐藤美穂さん(仮名・45歳・会社員・年収500万円・単身)は、2026年の通院と薬代で8万円を払ってきた。12月にインプラント1本(総額40万円)の手術を受けられることになり、歯科からは手術日に一括、または12月と1月に20万円ずつの院内分割を選べると言われた。手術を1月に延ばす選択肢もある。来年もふだんの医療費は同じく8万円程度の見込みだ。
| 払い方 | 2026年の控除 | 2027年の控除 | 2年間の還付・減税 |
|---|---|---|---|
| 12月に40万円一括(カード決済) | 48万−10万=38万円 | 8万円なので0円 | 57,399円 |
| 手術を1月に延ばして一括 | 8万円なので0円 | 38万円 | 57,399円(1年遅れ) |
| 20万円ずつ2年に分割 | 28万−10万=18万円 | 18万円 | 54,378円 |
一括なら12月でも1月でも合計は同じ。違うのは還付が来る時期で、12月に払えば2027年1月から還付申告でき、春には戻る。1月に回すと戻るのは2028年だ。
損をするのは「割った」ときで、差は3,021円。なぜかというと、割ると10万円の足切りを2回払うことになるからだ。差額は次の式で出せる。
> 分割で減る還付額 =(10万円 − 片方の年のほかの医療費)×(所得税率 × 1.021+10%)
佐藤さんの場合は(10万−8万)× 15.1% ≒ 3,021円。ふだんの医療費がほとんどない人ほど差は広がる。
| 片方の年のほかの医療費 | 分割で減る額(年収500万円・税率5%) | 同(税率10%の人) |
|---|---|---|
| 0円 | 15,105円 | 20,210円 |
| 2万円 | 12,084円 | 16,168円 |
| 5万円 | 7,553円 | 10,105円 |
| 8万円 | 3,021円 | 4,042円 |
| 10万円以上 | 0円 | 0円 |
分割にしたい場合でも、院内分割ではなくデンタルローンやカード分割にして年内に立替払いしてもらえば、全額を1つの年にまとめられる。ただしローンの金利や分割手数料は控除の対象外なので、手数料が上の表の「減る額」を超えるなら割ったままでいい。インプラント自体の総額はインプラント費用シミュレーターで保険のブリッジ・入れ歯と比べられる。
ケース2:「今年か来年か」より「誰が払うか」
千葉県市川市の高橋健太さん(仮名・38歳・年収700万円)と由佳さん(36歳・年収400万円)は、8歳の長女の歯列矯正(第1期・総額44万円)を始める。装置を入れる日に一括で払う契約で、その日を12月にするか1月にするかは選べる。成長期の子どもの不正咬合の矯正は、国税庁タックスアンサーNo.1128で医療費控除の対象になる。
条件が2つある。由佳さんは2027年2月に出産予定で、2027年は育休に入る(育児休業給付金と出産手当金は非課税なので、所得税の課税所得はほぼゼロになる)。家族のふだんの医療費は2026年が6万円、2027年は通院や出産時の自己負担で12万円の見込みだ。
医療費控除は、生計を一にする家族の分をまとめて実際に払った人が申告する。4通りを並べた。
| 誰が・いつ払うか | 2026年分 | 2027年分 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 健太さんが2027年1月に払う | 0円 | 56万−10万=46万円 → 117,062円 | 117,062円 |
| 健太さんが12月に払う | 50万−10万=40万円 → 104,936円 | 2万円 → 6,084円 | 111,020円 |
| 由佳さんが12月に払う | 40万円 → 60,420円 | 2万円(健太さん)→ 6,084円 | 66,504円 |
| 由佳さんが2027年に払う | 0円 | 由佳さんは課税所得0で還付なし(健太さん分のみ6,084円) | 6,084円 |
最大と最小の差は11万978円。この家族にとって、年の選び方(6,042円差)より、誰の口座・カードから払うかのほうが18倍効いている。
年の選び方で健太さんの「1月払い」が勝ったのは、2027年のほうがほかの医療費が多く、すでに足切りの10万円を超えるからだ。足切りを超えている年に寄せれば、44万円がまるごと控除に乗る。ケース1と合わせると、判断の順番はこうなる。
- 税率の高い人の名義で払う(来年に育休・退職・独立で所得が下がる人の名義は避ける)
- ほかの医療費が10万円を超えそうな年に寄せる(両年とも同じくらいなら、早く戻る今年)
- 2つの年に割らない
番外:年末の入院は「年」より「月」に気をつける
医療費控除は1年単位だが、高額療養費は暦月(1日〜末日)単位で上限が決まる。2026年8月の改定後、年収約370〜770万円(区分ウ)の上限は「85,800円+(医療費−286,000円)× 1%」。
医療費総額100万円(3割で窓口30万円)の入院で比べると、
- 12月1日〜12月11日に収まる:85,800+(100万−28.6万)× 1% = 92,940円
- 11月25日〜12月5日にまたがり、50万円ずつ:87,940円 × 2か月 = 175,880円
同じ入院で8万2,940円の差がつく。予定手術で日程を選べるなら、月の前半に入院を始めるよう相談する価値がある。年末年始は退院手続きが1月にずれ込みやすく、そうなると医療費控除も2027年分に入る。なお医療費控除では、高額療養費で戻った額を差し引いた残りが対象になる(払い戻しが翌年に確定する場合も、見込み額を差し引いて申告する)。自分の区分の上限は高額療養費シミュレーターで確認できる。
11〜12月の行動カレンダー
| 時期 | やること |
|---|---|
| 10月下旬〜11月 | 生命保険料控除の証明書と一緒に、1〜10月の医療費の領収書を集計。マイナポータルの医療費通知は反映が1〜2か月遅れるので、直近分は領収書で補う |
| 11月中 | 家族の合計が10万円に届きそうか判定。届かない年はセルフメディケーション税制(市販薬が年12,000円超)との比較へ |
| 12月上旬 | 年をまたぐ治療・入院の支払い方法を決める。デンタルローンなら立替日を確認 |
| 12月中旬〜28日 | 前倒しする支払いを済ませる。カード決済なら30日・31日でも可(医院が開いていれば) |
| 12月31日 | 2021年分の還付申告の期限。2021年に10万円超の医療費があった人は今年が最後 |
| 2027年1月〜 | 還付申告はいつでも提出可。2〜3月の確定申告期間を待たなくていい |
セルフメディケーション税制は通常の医療費控除とどちらか一方しか選べず、年ごとに選び直せる。2026年の医療費が10万円に届かないと決まった人だけが、12月に対象の市販薬をまとめて買う意味がある。なお同税制は令和8年度税制改正で延長・見直しが決まり、厚生労働省が2026年8月に対象医薬品の一覧を更新している。2027年以降の購入分の対象と計算方法は、同省のQ&Aで確認してほしい。
判断フロー
```
2026年の医療費(補てん後)は年末の大きな支払いを除いて10万円を超える?
├─ はい → 大きな支払いも今年に寄せる(カード・ローンで年内に決済)
└─ いいえ
├─ 来年は10万円を超えそう(出産・手術予定など)→ 来年に寄せる
├─ 両年とも同じくらい → 一括で今年(還付が1年早い)
└─ 今年も来年も、大きな支払いを入れなければ10万円未満
→ 一括でどちらか1年に。割らない
どの場合も → 家族のうち税率が高く、来年も所得が下がらない人の名義で払う
```
よくある質問
Q. 歯科の自費診療やレーシックも対象?
治療目的なら対象。インプラント、子どもの矯正、ICL・レーシックは対象になり、美容目的のホワイトニングや見た目だけの大人の矯正は対象外。判定は国税庁タックスアンサーNo.1122・No.1128に基づく。
Q. 来年受ける予定の治療費を、12月に先払いすれば今年に入る?
まだ受けていない治療の前払い金は、治療を受けた年の医療費として扱われる可能性が高い(国税庁の質疑応答事例)。前倒しで確実に今年に入るのは、年内に受けた・始めた治療の支払いだ。迷う場合は、領収書の日付と内訳を医院に確認したうえで税務署に相談したい。
Q. この計算の前提データはどこから?
控除の計算式・足切り額は所得税法73条と国税庁タックスアンサーNo.1120、税率は同No.2260の速算表、還付申告の期限はNo.2030。課税所得は令和8年分の給与所得控除(最低保障74万円)と基礎控除(合計所得489万円以下104万円・655万円以下67万円)を使い、社会保険料を年収の15%(40歳未満は14.2%)として概算した。高額療養費の上限は厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2026年8月改定)による。いずれも医療費控除シミュレーターと同じ前提で、配偶者控除や生命保険料控除は含めていない。
Q. 数字が実感と合わない場合は?
iDeCoや住宅ローン控除で課税所得が下がっている人は、税率が一段低くなり還付も小さくなる。年収と医療費を入れて確かめるなら医療費控除シミュレーター、医療費以外も含めた還付額の合計は還付金シミュレーターが早い。それでも合わない場合は、お問い合わせフォームから条件を送ってもらえれば確認する。
12月31日までにやること
- [ ] 家族全員の1〜11月の医療費を合計し、10万円を超えるか見る
- [ ] 年をまたぐ治療は「一括・税率の高い人の名義・足切りを超える年」で払い方を決める
- [ ] 院内分割を年内のカード・ローン決済に切り替えられるか、手数料と比べる
- [ ] 予定入院は月の前半に始められるか病院に相談する
- [ ] 2021年に医療費が多かった人は、12月31日までに還付申告を出す