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夫婦の年金月23.4万円、夫が亡くなると月13.7万円に——68歳・65歳夫婦が試算した「おひとりさまリスク」【ケーススタディ】

年金月23.4万円で暮らす68歳・65歳の夫婦。夫に先立たれた場合、妻の収入は遺族厚生年金を含めても月13.7万円と約4割減ります。減り方の計算式、単身化しても下がらない固定費、基礎年金の繰下げで赤字を消す方法まで、佐藤家の試算の全過程を記録しました。

「私ひとりになったら、年金っていくらになるの?」

夕食の後、恵子さん(仮名・65歳)が夫の博さん(仮名・68歳)に何気なく聞いた。博さんは答えられなかった。自分たち夫婦の年金額は毎回の振込通知で知っている。しかし「どちらかが欠けた後」の金額は、二人とも一度も計算したことがなかった。

結論から言えば、佐藤家の場合、夫婦で月23.4万円の年金は、夫の死後に月13.7万円まで減る。減少率は41%。一方で、生活費は41%も下がらない。この記事は、佐藤夫妻がその事実を数字で確かめ、対策を組み立てるまでの記録だ。

佐藤家のプロフィール

項目内容
夫・博さん68歳。元運送会社の管理部門(勤続40年)。3年前に完全リタイア
妻・恵子さん65歳。専業主婦が中心。40代からパート勤務(厚生年金加入10年)
住まい東京都多摩地域の持ち家戸建て(ローン完済)
家族子ども2人は独立。孫2人
貯蓄1,050万円(定期預金・普通預金)
1台保有(買い物・通院用)

現在の家計収支

項目金額(月額)
夫の老齢基礎年金69,000円
夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)95,000円
妻の老齢基礎年金66,000円
妻の老齢厚生年金(パート期間分)4,000円
収入合計234,000円
生活費(食費・水道光熱・車・交際費など)204,000円
税金・国民健康保険料・介護保険料22,000円
支出合計226,000円
収支+8,000円

総務省「家計調査(2023年)」では、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の消費支出は月約25万円で、平均月3.8万円の赤字とされる。佐藤家は持ち家で住居費が軽く、平均よりやや締まった家計だ。月8,000円とはいえ黒字であり、本人たちも「うちは大丈夫」と思っていた。

その前提が崩れるのが、どちらかが亡くなった後だ。

夫が先に亡くなった場合——妻の年金はこう計算される

65歳以上で子どもが独立している妻が受け取れるのは、自分自身の老齢年金+遺族厚生年金だ。遺族基礎年金は「18歳到達年度末までの子がいる」ことが要件のため、佐藤家では対象外になる。

遺族厚生年金の基本額は、厚生年金保険法の規定でこう決まる。

```
遺族厚生年金 = 夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)× 3/4
       = 95,000円 × 0.75 = 71,250円
```

ただし妻自身に老齢厚生年金がある場合、まず自分の老齢厚生年金(4,000円)を受け取り、遺族厚生年金は差額だけが支給される。

```
実際に支給される遺族厚生年金 = 71,250円 − 4,000円 = 67,250円
```

結果、恵子さんの収入はこうなる。

項目夫の生前夫の死後
世帯の老齢基礎年金135,000円66,000円(妻の分のみ)
世帯の老齢厚生年金99,000円4,000円(妻の分のみ)
遺族厚生年金67,250円
合計234,000円137,250円

月9.7万円、率にして41%の減少だ。恵子さんは「半分よりは多いのね」と言ったが、問題は支出側にある。

支出は41%減らない

一人になれば食費や水道光熱費は下がる。しかし固定資産税、家の修繕費、火災保険、車の維持費、NHK受信料——「家に紐づく支出」は世帯人数が減っても変わらない。総務省の同調査でも、65歳以上単身無職世帯の消費支出は月約14.5万円と、夫婦世帯(約25万円)の58%までしか下がらない。

佐藤家の場合、恵子さん一人の支出は月16.0万円と見積もられた(遺族厚生年金は非課税所得のため、住民税・保険料の負担は月5,000円程度まで軽くなる前提を含む)。

```
137,250円(収入) − 160,000円(支出) = ▲22,750円/月 ≒ 年27万円の赤字
```

貯蓄1,050万円から、夫の医療・葬儀・墓関連の支出250万円を引くと残り800万円。年27万円の取り崩しなら約29年持つ計算で、一見足りそうに見える。ところが生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2021年度)」によれば、介護費用の平均は一時費用74万円+月8.3万円×61.1ヶ月で総額約580万円。恵子さん自身の介護費用がここに乗ると、残りは220万円まで細る。「数字上は持つが、余裕はない」というのが佐藤家の実態だった。

自分たちの条件で確かめたい場合は、遺族年金シミュレーターで夫婦の年金額から遺族年金込みの受給額を試算できる。現在の年金見込み額そのものは年金受給額シミュレーターとねんきん定期便で突き合わせるのが確実だ。

佐藤家が実行した4つの対策

1. 妻の「基礎年金だけ」を繰下げる

意外に知られていないが、繰下げ受給は基礎年金と厚生年金を別々に選べる。そして遺族厚生年金と老齢基礎年金は併給できるため、基礎年金の繰下げ増額は死別後もまるごと生きる

一方、妻の老齢厚生年金の繰下げはほぼ無意味だ。増額しても、その分だけ遺族厚生年金の支給額が差し引かれ、合計が変わらないからだ。

恵子さんは基礎年金を68歳まで3年繰下げることにした。増額率は0.7%×36ヶ月=25.2%。

```
繰下げ後の基礎年金 = 66,000円 × 1.252 ≒ 82,600円
死別後の収入 = 82,600 + 4,000 + 67,250 ≒ 153,850円
```

赤字は月2.3万円から約6,000円まで縮む。70歳まで待てば理論上は黒字化するが、繰下げ待機中は妻の年金が月4,000円だけになり、世帯収支が月5.8万円の赤字になる(3年で約210万円の先食い)。「増額と先食いのバランスで68歳が限度」というのが夫婦の結論だった。なお、繰下げ待機中に夫が亡くなると増額率はその時点で固定される点には注意がいる。

2. 「二人前提の固定費」を今のうちに解体する

  • : 週1回の買い物と通院だけの利用で、維持費は年32万円。車の維持費 vs カーシェア比較で試算すると、カーシェア化で年約24万円の圧縮。月2万円——死別後の赤字がほぼこれだけで消える金額だ
  • 生命保険: 夫の終身保険は残す一方、妻を受取人とする以外の特約と、妻自身の死亡保障(子どもが独立した今、遺す相手の必要性が薄い)を解約。年9.6万円の削減
  • 通信: 夫婦それぞれの大手キャリア契約を格安プランへ。年8.4万円の削減

固定費を含めた老後の支出全体は老後の生活費シミュレーターで棚卸しできる。

3. 口座と名義の「凍結対策」

死亡が金融機関に伝わると故人名義の口座は凍結される。佐藤家は貯蓄1,050万円のうち980万円が夫名義だった。当面の生活費と葬儀費用が引き出せなくなる事態を避けるため、生活費6ヶ月分(150万円)を妻名義の口座へ移し、家の名義・保険証券・年金番号を1冊のノートにまとめた。

なお相続税は、自宅の評価額1,800万円+金融資産を合わせても、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人3人=4,800万円)の範囲内で課税ゼロ。これは相続税シミュレーターで確認でき、佐藤家にとっては数少ない安心材料だった。

4. 逆パターン——妻が先に亡くなったら

見落とされがちだが、逆のケースも試算した。妻の報酬比例部分は月4,000円しかないため、その3/4(3,000円)は夫自身の老齢厚生年金95,000円を下回り、差額方式では夫の遺族厚生年金は実質ゼロ。夫の収入は現在の自分の分164,000円のまま変わらない。

単身支出16.0万円とほぼ拮抗するが、博さんは家事のほとんどを妻に頼ってきた。中食・外食への切り替えで食費が月1.5万円増える想定を置くと、こちらも赤字転落する。「妻が先のほうが、うちは家計的に脆い」というのは二人にとって予想外の発見だった。

今週やることリスト——佐藤家が実際に使ったもの

  1. 夫婦それぞれのねんきん定期便(またはねんきんネット)で報酬比例部分の金額を確認する
  2. 遺族年金シミュレーターに入力し、「配偶者死後の月収」を夫婦両パターンで出す
  3. 一人になっても消えない固定費(家・車・保険・通信)に印をつけ、圧縮できるものを1つ決める
  4. 基礎年金の繰下げが自分に合うか、待機中の家計収支とセットで検討する
  5. 口座名義の偏りを確認し、生活費6ヶ月分を配偶者名義に移す

佐藤夫妻がこの試算にかけた時間は、2人合わせて休日の半日ほど。「いくらになるの?」に即答できなかったあの夜の質問には、いまは2人とも答えられる。そしてその答えは、対策を打つ前と後で月1.7万円違う。

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