くらシム
住まい

「更新料を払うたび、あと何回これを繰り返すんだろうと思った」——38歳・独身女性、3,480万円の中古マンション購入の全記録【ケーススタディ】

年収520万円・貯蓄900万円の38歳独身女性が、家賃9.8万円の賃貸を出て築16年の中古マンションを購入するまで。諸費用245万円の内訳、変動0.9%・35年ローンの月返済88,293円、65歳時点の残債820万円への手当てまで、意思決定を数字で追う。

「更新料を払うたび、あと何回これを繰り返すんだろうと思ったんです」

川崎市の1LDK(家賃9万8,000円)に住んで6年になる松井さん(仮名・38歳)は、今年2月、3度目の更新料9万8,000円を振り込んだ日に中古マンションのポータルサイトに会員登録した。メーカー経理職で年収は520万円。結婚の予定は当面なく、「このまま一人でも困らない住まい」を自分名義で持つと決めた。

単身者の住宅購入はもう珍しくない。国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」でも、中古マンション取得世帯の平均年齢は40代で、単身世帯の比率は年々上がっている。ただし単身購入は「収入が1本しかない」ぶん、資金計画の余白の取り方が夫婦とは違う。松井さんの4ヶ月を、数字ベースで追っていく。

前提: 松井さんの家計と選んだ物件

  • 年齢・職業: 38歳・メーカー経理職(正社員、定年65歳)
  • 年収: 520万円(手取り約400万円、月の手取り約27万円+賞与)
  • 貯蓄: 900万円
  • 現住居: 川崎市の1LDK賃貸、家賃9万8,000円(管理費込み)
  • 購入物件: 川崎市内・築16年・2LDK 58㎡・3,480万円(駅徒歩9分)

新築ではなく中古を選んだ理由は単純で、同じ予算で立地が2ランク上がるからだ。東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向」によれば、首都圏の中古マンション成約価格は上昇が続いているが、それでも新築との価格差は歴然としている。築16年なら大規模修繕を1回終えており、修繕積立金の水準も読みやすい。この判断の損得は中古マンション購入メリットシミュレーターで条件を変えて試せる。

資金計画: 貯蓄900万円をどう割り振ったか

松井さんが最初に決めたのは「手元に350万円は残す」というラインだった。単身者は病気で収入が止まったとき代わりがいない。生活費の1年分(約300万円)+引越し直後の出費を手元に置き、残りを購入に充てる。

自己資金545万円 = 頭金300万円 + 諸費用245万円

中古マンションの諸費用は物件価格の6〜9%が相場と言われるが、内訳を見ると納得感がある。

諸費用の項目金額備考
仲介手数料121.4万円(3,480万円×3%+6万円)×消費税10%
ローン事務手数料70.0万円借入3,180万円×2.2%(ネット銀行型)
登記費用・司法書士報酬約35万円所有権移転+抵当権設定
火災・地震保険(5年)約8万円
固定資産税・管理費の清算金約8万円引渡し日で日割り精算
印紙税ほか約3万円
合計約245万円物件価格の約7.0%

賃貸から移る場合はここに引越し代と家具・カーテン類が乗る。松井さんは繁忙期を外して約25万円に抑えた(引越し費用シミュレーターで時期による差が確認できる)。

ローン: 変動0.9%・35年で月88,293円

借入は3,180万円。住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」では変動型の利用者が7割を超えるが、日銀の利上げ局面が続くいま、変動か固定かは単身者ほど悩ましい。松井さんは「金利が2%台に上がっても手取りの35%以内に収まる」ことを確認したうえで変動0.9%を選んだ。この耐性チェックは変動vs固定シミュレーターの考え方そのものだ。

毎月返済額は元利均等で次のとおり。

3,180万円 × 0.075%(月利) × 1.3701 ÷ 0.3701 = 月88,293円

35年の総返済額は約3,708万円、利息の総額は約528万円になる(住宅ローン月々返済額シミュレーターで再現できる)。

賃貸継続と比べると月2.1万円の増加

賃貸継続購入後
家賃/ローン返済98,000円88,293円
更新料(2年ごと月割)約4,100円
管理費12,000円
修繕積立金14,000円
固定資産税(年10万円月割)約8,300円
月あたり住居費約10.2万円約12.3万円

「買ったほうが月々安くなる」は、少なくともこのケースでは成立しない。月2.1万円、年25万円の負担増だ。ただし築16年の一般中古でも住宅ローン控除(借入限度2,000万円×0.7%×10年)で年14万円・10年で最大140万円が戻るため、当初10年の実質差はもっと小さい(詳しくは住宅ローン控除シミュレーター)。

それでも買った理由: 65歳以降の住居費が3倍違う

松井さんの決め手は月々の損得ではなく、老後の絵だった。

  • 賃貸を続けた場合: 65〜90歳の25年間、家賃9.8万円なら総額約2,940万円。加えて高齢単身者は保証会社や貸主の審査が厳しくなるリスクを抱え続ける
  • 購入した場合: 完済後の住居費は管理費・修繕積立金・固定資産税の月約3.5万円。同じ25年間で約1,050万円

差は約1,900万円。持ち家は修繕リスクや資産価値下落を負うので単純比較はできないが、「年金生活で月9.8万円の家賃を払い続けられるか」という問いへの答えとしては十分だった。前提を変えた比較は賃貸vs持ち家シミュレーターで試してほしい。

金利が上がったらどうなるか: 変動0.9%の耐性チェック

松井さんが変動を選ぶ前に確認した「金利上昇時の返済額」を、借入3,180万円・35年(元利均等)で並べる。

適用金利毎月返済額35年総返済額手取り月収比(月33.3万円)
0.9%(現在)88,293円約3,708万円26.5%
1.5%97,367円約4,089万円29.2%
2.0%105,342円約4,424万円31.6%
2.5%113,683円約4,775万円34.1%

2.5%まで上がっても手取りの35%ラインをぎりぎり下回る——これが「変動でいく」判断の裏付けだった。逆に言えば、同じ物件でも手取りが月28万円程度なら2%時点で35%を超える。変動金利は「借りられるか」ではなく「上がっても払えるか」で選ぶのが原則だ(実際の金利は返済途中の残債に適用されるため、上の表は「当初から その金利だった場合」の保守的な近似になる)。

残債はどう減っていくか

元利均等返済は当初ほど利息の割合が大きく、残債の減りは遅い。3,180万円・0.9%の残債推移はこうなる。

経過年数松井さんの年齢ローン残債
5年43歳約2,785万円
10年48歳約2,371万円
15年53歳約1,939万円
20年58歳約1,486万円
27年65歳(定年)約818万円
30年68歳約518万円

売却の可能性がある人は、この残債カーブと物件の資産価値カーブの交点を意識しておきたい。中古マンションは新築と違い購入直後の急落がないため、残債割れのリスクは新築より小さい——これも松井さんが中古を選んだ理由のひとつだ。

残った宿題: 73歳完済問題

38歳で35年ローンを組むと完済は73歳。定年の65歳時点で残債は約820万円残る計算だ。松井さんの手当てはこうなっている。

  1. 住宅ローン控除の還付(10年で約140万円)は使わず全額を返済用口座へ
  2. 賞与から年30万円を同じ口座に積み立てる(27年で810万円)
  3. 合計950万円 > 残債820万円——退職金に頼らず65歳完済が射程に入る
  4. 金利が1.5%を超えたら、積立分を随時繰上返済に切り替えて利息を圧縮する

この事例から持ち帰れるチェックリスト

  • 手元資金のライン(生活費1年分など)を先に決めてから物件予算を逆算したか
  • 諸費用は物件価格の7%前後——「頭金+諸費用」で見積もったか
  • 管理費・修繕積立金・固定資産税込みの「本当の月額」で賃貸と比べたか
  • 金利2%上昇時の返済額が手取りの35%以内に収まるか
  • 定年時の残債額と、その返済原資を数字で言えるか

5つすべてに即答できれば、単身でも購入の土台はできている。逆に1つでも曖昧なら、契約の前にシミュレーターで数字を埋めるところから始めたい。

よくある質問(FAQ)

Q. この記事の数字の出典は?

制度・市場データは国土交通省「住宅市場動向調査」、東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向」、住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」に基づく。ローン返済額・残債・総返済額は元利均等返済の標準式(3,180万円・0.9%・35年で月88,293円)で全行検算しており、住宅ローン月々返済額シミュレーターで同じ計算を再現できる。諸費用の仲介手数料は宅建業法の上限(物件価格×3%+6万円+消費税)を用いた。

Q. 年収520万円で3,180万円借りるのは無理をしていない?

年間返済額は約106万円で、額面年収に対する返済負担率は20.4%。金融機関の審査上限(30〜35%)より大幅に低く、一般に安全圏とされる20〜25%に収まっている。ただし単身者は収入が1本のため、審査に通るかではなく「病気・転職で収入が下がっても持ちこたえられるか」で見るべきで、松井さんのように手元資金1年分+金利上昇耐性の2重チェックを推奨する。適正な借入額は家はいくらまで買えるかシミュレーターで年収から逆算できる。

Q. 築16年の中古マンションでも住宅ローン控除は使える?

使える。2022年の制度改正で築年数要件(旧: マンション25年以内)は撤廃され、1982年(昭和57年)以降に建築された「新耐震基準」の住宅なら対象になった。ただし一般の中古住宅(その他の住宅)は借入限度2,000万円・控除期間10年で、控除率0.7%なら年最大14万円・10年で最大140万円。新築の認定住宅(限度4,500万円・13年)より小さい点は資金計画に織り込む必要がある。

Q. 修繕積立金は今後も月1.4万円のまま?

上がる前提で見るべきだ。国交省のガイドラインでは修繕積立金の目安は専有面積あたり月200〜330円/㎡程度(20階未満・機械式駐車場なし)で、58㎡なら月1.2〜1.9万円。築16年で月1.4万円は「段階増額方式の中盤」にあたる水準で、2回目の大規模修繕(築24〜30年)に向けてさらに数千円上がる可能性がある。中古購入時は重要事項調査報告書で積立金の残高と長期修繕計画を必ず確認したい。

Q. 数字が実感と合わない場合は?

金利・物件価格・諸費用率は時期と金融機関で変わる。まずは中古マンション購入メリットシミュレーター賃貸vs持ち家シミュレーターで自分の家賃・年収・貯蓄に置き換えて試してほしい。それでも記事の計算と大きくずれる場合はお問い合わせページから知らせてもらえれば、前提の改善に活用する。

関連シミュレーター

出典: 国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」/東日本不動産流通機構(レインズ)「首都圏不動産流通市場の動向」/住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」/国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

この記事の内容をシミュレーションしてみましょう

あなたの条件を入力すると、具体的な数字で結果が分かります

シミュレーターを使う

広告

関連記事

広告