変動金利が1.5%上がったら、月返済はいくら増える?4,000万円を借りた34歳夫婦のケース【ケーススタディ】
2024年に4,000万円を変動0.45%で借りた共働き夫婦が、金利上昇シナリオ(+0.5/+1.0/+1.5%)で毎月返済と総返済がどう変わるかを検証。5年ルール・125%ルールの落とし穴、繰上返済・借り換え・固定費削減の対策まで、数字で判断する。
「金利、ほんとに上がってきたね」——田中拓也さん(34歳・仮名)がスマホのニュースアプリを置いて、妻の沙織さん(32歳)にそう切り出したのは、夏のボーナスが振り込まれた6月の夜だった。
二人が4,000万円の住宅ローンを組んだのは2024年。当時の変動金利は0.45%。「変動のほうが総額で得」という不動産会社の説明をそのまま受け入れ、毎月の返済は約10.3万円で落ち着いた。だが、ここ1〜2年で「利上げ」「金利のある世界」という言葉を頻繁に目にするようになった。
もし変動金利が1%、いや1.5%上がったら、自分たちの家計はどうなるのか。漠然とした不安を、ここではっきり数字にしてみることにした。
田中家のプロフィール
| 項目 | 夫(拓也) | 妻(沙織) |
|---|---|---|
| 年齢 | 34歳 | 32歳 |
| 職業 | 食品メーカー(総合職) | 医療事務(時短勤務) |
| 年収(額面) | 480万円 | 200万円 |
| 世帯年収 | 680万円 | |
| 居住地 | 東京都下(2024年に新築マンション購入) | |
| 子ども | 長女・結衣(2歳) | |
| 住宅ローン | 4,000万円・変動0.45%・35年(2024年実行・ペアではなく夫単独) | |
| 金融資産 | 現預金260万円+NISA90万円=350万円 |
毎月の手取りは世帯で約44万円。住宅ローン10.3万円を返しても月7〜8万円は残る——購入当初はそう余裕を見込んでいた。問題は、その余裕が「金利が動かない前提」で成り立っていることだ。
まず「当初の返済」を確認する
借入条件を住宅ローン金利シミュレーターに入れ直して、出発点の数字を固定する。
- 借入額:4,000万円
- 金利:変動0.45%(当初)
- 返済期間:35年(420回)
この条件での毎月返済は102,953円、総返済額は約4,324万円(うち利息約324万円)。低金利のうちは、4,000万円を借りても利息は元金の1割弱に収まる。これが「変動は得」と言われる根拠だった。
2024年の実行から約2年(24回)返済した現在、残債は約3,788万円、残りの返済期間は33年(396回)。ここから金利が上がると何が起きるのか。残債3,788万円を残り396回で返す前提で、金利別に再計算した。
金利上昇シナリオ——月返済と総返済の変化
| 金利(変動) | 毎月返済 | 当初との差 | 年間の差 | 残り総返済額 |
|---|---|---|---|---|
| 0.45%(現状維持) | 102,953円 | ±0円 | ±0円 | 約4,077万円 |
| 0.95%(+0.5%) | 111,470円 | +8,518円 | +約10.2万円 | 約4,414万円 |
| 1.45%(+1.0%) | 120,417円 | +17,465円 | +約21.0万円 | 約4,769万円 |
| 1.95%(+1.5%) | 129,787円 | +26,835円 | +約32.2万円 | 約5,140万円 |
数字を並べてみて、沙織さんが最初に反応したのは「年間」の列だった。「+1.5%で、年32万円。これ、結衣の保育料がもう一人分増えるのと同じだよね」。+1.5%のシナリオでは、残りの返済総額が当初見込みより約1,063万円も膨らむ。低金利時代に固定していた「利息は300万円ちょっと」という安心は、金利1.5%でもろくも崩れる。
計算式はシンプルだ。残債を $L$、月利を $r$(=年利÷12)、残り回数を $n$ とすると、毎月返済 $P$ は次の式で決まる。
$$P = \frac{L \times r}{1 - (1+r)^{-n}}$$
金利 $r$ が上がるほど分子は大きく、分母(割引の効果)は小さくなる。だから返済額は金利上昇に対して加速度的に増えていく。これが「0.5%ずつ」でも侮れない理由だ。
落とし穴は「5年ルール」と「125%ルール」
ここで田中夫婦が誤解していたことがある。「金利が上がったら、その月から返済額がすぐ上の表のとおりになる」と思っていたのだ。実際は違う。多くの金融機関の変動金利型には、次の2つのルールがある。
- 5年ルール:金利が見直されても、毎月の返済額は5年間据え置かれる
- 125%ルール:5年経過後に返済額が見直される際も、それまでの返済額の1.25倍までしか上がらない
一見すると借り手に優しい仕組みに見える。しかし落とし穴がある。返済額が据え置かれても、適用される金利は半年ごとに上がっているということだ。返済額のうち利息に回る分が増え、元金の減りが遅くなる。最悪のケースでは、毎月の返済額より利息のほうが多くなる「未払利息」が発生する。
田中家の当初返済102,953円に125%ルールを当てはめると、上限は128,691円。先ほどの+1.5%シナリオの返済額129,787円は、わずかにこの上限を超える。つまり+1.5%まで上がると、5年後の見直しでも返済額が「上がりきらず」、超過分が先送りされる——返済が終わらないまま元金が残るリスクが現実味を帯びる。
> 5年ルール・125%ルールは「返済額の急増を防ぐクッション」であって、「利息負担を減らす仕組み」ではない。むしろ問題の先送りになりうる、と田中夫婦は理解した。
田中家がとった3つの対策
不安を数字にしたうえで、二人は「いま打てる手」を3つに整理した。
① ボーナスの一部で繰上返済し、残債を圧縮する
金利上昇のダメージは「残債 × 金利」で決まる。だから残債そのものを減らせば、将来の上昇に強くなる。繰上返済シミュレーターで、年1回・夏のボーナスから50万円を期間短縮型で繰り上げた場合を試算したところ、35年の返済期間が約2年4ヶ月短縮され、軽減できる利息は金利0.45%でも数十万円規模。金利が上がる局面では、この効果はさらに大きくなる。
② 固定金利への借り換えを「損益分岐」で判断する
「いっそ全額を固定金利に」という選択肢も検討した。ただし借り換えには登記費用・事務手数料などで数十万円のコストがかかる。住宅ローン借り換え・比較シミュレーターで、固定1.8%へ借り換えるケースと変動を維持するケースを並べ、「変動金利が何%まで上がったら固定のほうが得か」という分岐点を確認した。田中家の結論は「+1.0%を超えそうな兆候が出たら借り換えを実行する」という条件付きの待機だった。
③ 固定費を月1.5万円削り、返済増に備える"バッファ"を作る
月返済が+1.5%で約2.7万円増えても耐えられるよう、先に家計の固定費を削っておく。大手キャリアの通信費を格安SIMへ、使っていないサブスクを解約、自動車保険を見直し——この3つだけで月約1.5万円を捻出。浮いた分はそのまま「金利上昇積立」として別口座に貯め、いざ返済額が上がったときの原資にする。手取り計算と固定費の見直しで毎月の返済可能額を逆算し、無理のない上限を確認した。
チェックリスト:変動金利で借りている人が今すぐ確認すべきこと
- [ ] 自分のローンに「5年ルール」「125%ルール」があるか(金融機関により無いものもある)
- [ ] 現在の残債と残り返済回数を把握しているか
- [ ] 金利が+1.0%・+1.5%になったときの返済額を試算したか
- [ ] 返済額が月+2〜3万円増えても、家計が回るか
- [ ] 繰上返済に回せる手元資金(生活防衛費を除く)はいくらか
- [ ] 借り換えの損益分岐点を一度でも計算したことがあるか
FAQ
Q. この試算の前提データはどこから?
A. 毎月返済額は元利均等返済の標準式で算出しています。借入4,000万円・35年・変動0.45%を起点に、24回返済後の残債(約3,788万円)を残り396回で再計算しました。金利上昇幅(+0.5/+1.0/+1.5%)は仮定で、実際の適用金利は金融機関の基準金利・優遇幅により異なります。5年ルール・125%ルールの有無や内容も契約により異なるため、必ずご自身の金銭消費貸借契約書を確認してください。
Q. なぜ「24回返済後の残債」で計算するの?最初から計算すればいいのでは?
A. 金利上昇は「借りた瞬間」ではなく「返済の途中」で起きるからです。すでに数年返して元金が減った状態に新しい金利が乗る、という現実に近い形で見積もるため、経過後の残債を起点にしています。
Q. 変動金利は結局やめたほうがいい?
A. 一概には言えません。残債が小さい・繰上返済の余力が大きい・返済期間が短い人ほど、変動の低金利メリットを享受しやすく、上昇リスクも限定的です。逆に田中家のように残債が大きく返済期間が長い世帯は、上昇インパクトが大きいため備えが要ります。変動か固定かの比較で、自分の条件での感応度を確認してください。
Q. 数字が自分の感覚と合わない場合は?
A. 借入額・金利・経過年数を入れ替えれば、ご自身のケースに近い数字が出せます。実感と大きくズレる場合は、優遇後金利か基準金利かの取り違えが原因のことが多いです。
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金利が動く世界では、「借りたときの安心」は更新され続ける前提が変わると消えてしまう。田中夫婦が得た最大の収穫は、月返済が増えるという結論そのものではなく、「+1.0%を超えたら借り換える」「ボーナスの一部は繰上返済に回す」という、あらかじめ決めておいた行動基準だった。不安は、数字にして基準を決めた瞬間に「対処できる課題」に変わる。