正社員と同じ時間働いて手取り239万円。経理事務・派遣3年目、28歳の年収297万円を検算する【ケーススタディ】
登録型派遣で経理事務をする佐藤舞さん(仮名・28歳・東京都)のケーススタディ。時給1,650円・年収297万円の手取りを検算し、正社員平均559万円との年収差262万円、賞与・退職金ゼロの影響、契約更新リスクに備える生活防衛資金とiDeCo活用プランまで数字で整理した。
正社員と同じ時間、同じフロアで働いているのに、なぜボーナスと退職金だけがゼロなのか。
佐藤舞さん(仮名・28歳・東京都在住)は、経理事務の登録型派遣として働き始めて3年目になる。契約は3ヶ月ごとの更新、時給1,650円、実働7.5時間×月20日勤務。仕事内容は正社員の同僚とほとんど変わらないが、賞与も退職金もない。「このまま派遣を続けて、老後は大丈夫なんだろうか」——漠然とした不安を、実際の数字で検算してみる。
佐藤さんのプロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢・性別 | 28歳・女性 |
| 居住地 | 東京都内・賃貸ワンルーム(家賃8.5万円) |
| 家族構成 | 独身・一人暮らし |
| 雇用形態 | 登録型派遣(経理事務)・勤続3年目 |
| 時給 | 1,650円 |
| 勤務時間 | 実働7.5時間×月20日(残業ほぼなし) |
| 契約更新 | 3ヶ月ごと |
| 賞与・退職金 | なし |
月給は1,650円×7.5時間×20日=247,500円。年収に換算すると297万円になる。時給換算シミュレーターで計算しても同じ結果になる、残業のない月給ベースの数字だ。
手取り239万円の内訳を検算する
年収297万円から実際に引かれる社会保険料・税金を、東京都・厚生年金加入・扶養なしの条件で概算する。社会保険料は令和8年度の料率(協会けんぽ東京9.85%、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%、雇用保険の労働者負担0.5%)を1年分に通年換算し、所得税は令和8年分(2026年1〜12月の給与)で計算した。
| 項目 | 年額 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 額面年収 | 2,970,000円 | 247,500円 |
| 健康保険料(協会けんぽ東京9.85%・折半) | 146,300円 | 12,192円 |
| 子ども・子育て支援金(0.23%・折半) | 3,400円 | 283円 |
| 厚生年金保険料(18.3%・折半) | 271,800円 | 22,650円 |
| 雇用保険料(0.5%) | 14,900円 | 1,238円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 26,600円 | 2,217円 |
| 住民税 | 115,700円 | 9,642円 |
| 手取り | 約2,391,300円 | 約199,300円 |
所得税は「給与所得199.9万円(297万円−給与所得控除97.1万円)−社会保険料控除43.6万円−基礎控除104万円=課税所得52.2万円」に5%をかけ、復興特別所得税2.1%を加えた額だ。住民税は基礎控除43万円で「課税所得113.2万円×10%−調整控除2,500円+均等割5,000円」で計算している。
手取り率は約80.5%。家賃8.5万円を払うと、手元に残るのは月11万円程度という計算になる。基礎控除・社会保険料控除のみを前提にした概算なので、正確な金額は年収から手取り計算シミュレーターで自分の条件に置き換えて確認してほしい。
令和8年分の税制改正で、手取りは年8,200円増える
2026年分(令和8年分)の所得税は、令和8年度税制改正で基礎控除が合計所得489万円以下なら104万円に引き上げられた。佐藤さんの合計所得は199.9万円なので、令和7年分(2025年分)の88万円から16万円増える。
| 項目 | 令和7年分(2025年) | 令和8年分(2026年) |
|---|---|---|
| 所得税の基礎控除 | 88万円 | 104万円 |
| 所得税の課税所得 | 約68.2万円 | 約52.2万円 |
| 所得税(復興税込み) | 約34,800円 | 約26,600円 |
| 住民税の基礎控除 | 43万円 | 43万円(変更なし) |
所得税率は5%のままなので、減税額は「16万円×5%×1.021≒8,200円」。ただし2026年1〜11月の毎月の給与からは改正前の源泉徴収税額表で天引きされており、差額は12月の年末調整(派遣元で実施)でまとめて還付される。改正後の税額表が毎月の天引きに使われるのは2027年1月からだ。3ヶ月更新で年の途中に派遣元が変わった場合や、12月時点で就業していない場合は年末調整を受けられないので、翌年に確定申告をすれば還付される。住民税は基礎控除43万円が据え置かれているため、この改正では変わらない。
正社員との年収差は「262万円」、10年では2,620万円
国税庁「民間給与実態統計調査」(令和7年分・2026年9月公表)によると、正社員(正職員)の平均年収は559万円、正社員以外(パート・派遣等)の平均年収は210万円だ。佐藤さんはフルタイム勤務のため、正社員以外の全国平均(210万円)は上回っているが、正社員平均(559万円)とは262万円の差がある。
| 区分 | 年収 |
|---|---|
| 正社員平均(令和7年分・国税庁) | 559万円 |
| 正社員以外平均(令和7年分・国税庁) | 210万円 |
| 佐藤さん(フルタイム派遣・実額) | 297万円 |
262万円という年収差は、単純計算で10年働けば2,620万円(複利運用や昇給を考慮しない単純合計)にのぼる。なお、民間給与実態統計調査の「平均給与」は給料・手当と賞与の合計額なので、正社員平均559万円には賞与がすでに含まれている(全体平均487万円の内訳は給料・手当412万円+賞与75万円)。つまり262万円の差には賞与の有無による部分が含まれており、そのうえでこの比較には「退職金」が入っていない。
賞与ゼロ・退職金ゼロが効いてくる長期の差
正社員なら一般的に年2回の賞与があり、退職金制度がある会社も多い。厚生労働省「就労条件総合調査」に基づく概算では、事務職・企業規模30〜99人クラスで20年勤続・自己都合退職の場合、退職金相場はおよそ700万円とされる(退職金の相場シミュレーターで業種・勤続年数別に試算できる)。
佐藤さんの働き方では、この700万円がまるごと存在しない。裏を返せば、「正社員と同じ時間働き続けても、自分で700万円分を積み立てないと同じ土俵に立てない」ということでもある。
契約更新リスクという、もうひとつの違い
正社員にはない、派遣特有のリスクもある。3ヶ月ごとの契約更新では、更新されない可能性が常につきまとう。会社都合に近い形で契約が更新されなかった場合、雇用保険上は「特定理由離職者」として扱われるケースがあり、通常の自己都合退職より給付制限なしで早く失業手当を受け取れることがある。失業保険シミュレーターで自分の場合の給付額・給付日数の目安を確認しておくと、いざという時に慌てずに済む。
ただし、給付までのタイムラグや次の仕事が見つかるまでの生活費は自分で用意する必要がある。正社員なら「生活防衛資金は生活費の3ヶ月分」がよく言われる目安だが、契約更新のたびに収入が途切れるリスクがある働き方では、3ヶ月では心もとない。家賃8.5万円を含む月の生活費を約18万円と見積もると、6〜12ヶ月分は108万〜216万円になる。生活防衛資金シミュレーターでは雇用形態を反映した必要額を計算でき、佐藤さんのケースではこの範囲を目安にするのが現実的だ。
佐藤さんが検討した「自分で700万円を作る」プラン
退職金がない代わりに、佐藤さんはiDeCoでの積み立てを検討した。厚生年金に加入している派遣社員は会社員(企業年金なし)と同じ区分になり、iDeCoの掛金上限は月23,000円だ。
正社員の退職金相場(20年で約700万円)を、想定利回り3%・20年間の積立で再現するには、月々いくら必要になるか計算してみる。
```
目標額: 7,000,000円
運用期間: 20年(240ヶ月)
想定利回り: 年3%(月0.25%)
必要な積立額: 約21,300円/月
```
iDeCoの上限(月23,000円)にほぼ収まる金額だ。しかも掛金は全額が所得控除の対象になるため、佐藤さんの所得税・住民税率(合計約15%)で計算すると、年間27.6万円の拠出に対して年間約4.1万円の節税効果も上乗せされる。iDeCoシミュレーターで実際の節税額と将来の資産額を試算し、佐藤さんは月20,000円の拠出から始めることにした。
佐藤さんのケースのまとめ
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 額面年収 | 297万円 |
| 手取り年収(概算) | 約239万円 |
| 正社員平均との年収差 | −262万円/年 |
| 退職金相当額の不足 | −700万円(20年換算) |
| 必要な生活防衛資金の目安 | 108万〜216万円(6〜12ヶ月分) |
| 退職金700万円を自作するための積立額 | 月約21,300円(20年・利回り3%想定) |
| iDeCo月2万円拠出時の節税効果 | 年間約3.6万円 |
正社員との年収差は数字で見ると重いが、その差の正体を分解すると「賞与」「退職金」「昇給カーブ」の3つに集約される。すべてを埋めることはできなくても、退職金相当分だけなら月2万円程度の積み立てで再現できる——これが佐藤さんの検算の結論だ。
よくある質問(FAQ)
Q: この記事の年収データの前提はどこから?
A: 正社員・正社員以外の平均年収は国税庁「民間給与実態統計調査」(令和7年分)、退職金相場は厚生労働省「就労条件総合調査」に基づく概算。社会保険料率は協会けんぽ「令和8年度都道府県単位保険料率」(東京都9.85%・2026年3月分から、子ども・子育て支援金0.23%は4月分から)、厚生年金18.3%、厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率」(一般の事業・労働者負担5/1000)を通年換算で使用。所得税の基礎控除104万円は国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」に基づく。派遣元が人材派遣健康保険組合などの健保組合に加入している場合は料率が異なり、扶養家族の有無や年度によっても実際の金額は変動する。
Q: 派遣社員でもiDeCoに加入できる?
A: 厚生年金に加入していれば「会社員(企業年金なし)」の区分でiDeCoに加入でき、月23,000円まで拠出できる。週の労働時間が短く厚生年金に未加入の場合は「国民年金第1号被保険者」となり、上限は月68,000円に広がる一方、国民年金保険料は自己負担になる点に注意したい。
Q: 数字が自分の実感と合わない場合は?
A: 給与明細に記載されている社会保険料率・雇用保険料率は年度や加入している組合によって差がある。まずは給与明細の実際の控除額を確認し、この記事の概算との差が大きい場合は扶養控除や住宅ローン控除など他の要素がないか見直してほしい。それでも疑問が解消しない場合は、お問い合わせフォームから状況を教えてほしい。
Q: 契約更新が不安な場合、退職金の代わり以外に備えておくべきことは?
A: 生活防衛資金を厚めに確保することに加えて、同一の派遣先で3年を超えて働く見込みがある場合は、労働契約法上の無期転換ルールや、派遣先での直接雇用の可能性についてキャリアコンサルタントに相談しておくとよい。収入の安定性そのものを底上げする選択肢も並行して検討する価値がある。