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月10万円の余剰資金、繰上返済か、NISAか、教育費か。45歳・住宅ローン残債2,500万円のサラリーマンが20年後の純資産で『3,060万円差』を比較した記録【ケーススタディ】

固定金利1.2%・残債2,500万円・残期間20年の住宅ローンを抱える45歳会社員が、月10万円の余剰資金を『繰上返済』『NISA投資』『教育費準備』『ハイブリッド』の4シナリオで20年シミュレーション。長女中1・長男小4の教育費ピークと退職時期を踏まえて選んだ最適解の意思決定プロセス。

「月10万円、ほっといたら全部消える」——田原健太さん(仮名・45歳)が同窓会の二次会で漏らしたのは、同期の一人が「もう住宅ローン繰上で完済した」と言い切った直後だった。

田原家は5年前に郊外の新築マンションを購入。固定金利1.2%・35年ローンの残債は2,500万円、残期間20年。家計簿アプリを見ると、生活費・教育費・保険を引いて毎月10万円ほどが「なんとなく口座に残る」状態が3年続いていた。同期の言葉に背中を押された田原さんは、翌週から本気でこの10万円の使い道を比較しはじめた。

田原家のプロフィール

項目内容
田原健太(夫)45歳・部品メーカー部長代理・年収700万円(手取り月約42万円)
田原由佳(妻・仮名)41歳・パート事務(年収80万円・社保扶養内)
長女 美月(仮名)13歳(公立中学1年)
長男 翔太(仮名)10歳(公立小学校4年)
居住地千葉県郊外・3LDKマンション(5年前購入)
住宅ローン残債2,500万円(固定1.2%・残20年)
月返済額117,200円
金融資産800万円(うち生活防衛資金300万円・特定口座500万円)
月の余剰資金約10万円

田原さんの定年は60歳(再雇用65歳まで)、ローン完済予定は65歳。教育費のピークは長男が大学生になる8年後(53歳)から、長女・長男の大学が重なる11年後(56歳)にかけて発生する見込みだ。

余剰資金10万円の「使い道4シナリオ」を並べてみる

田原さんはまず、頭の中で漠然と考えていた選択肢を4つに整理した。

シナリオ月の配分コンセプト
A. 全額繰上返済繰上10万円(年120万円)利息を最も削る。完済の安心感
B. 全額NISA投資NISA成長枠10万円リターン最大化を狙う。リスク許容
C. 半々配分繰上5万円+NISA5万円バランス重視
D. 教育費5年集中→投資教育費10万円(5年)→以降NISA教育費の安心感を優先

「20年後にどう違うのか、まずは数字で見ないと判断できない」——田原さんは1シナリオずつシミュレーターで検証していった。

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シナリオA: 全額繰上返済——「完済の早さ」で安心を買う

住宅ローン繰上返済シミュレーターで、年1回120万円を期間短縮型で繰上するシナリオを試算した。

計算結果

  • 完済時期: 約11.5年後(54歳でローン完済)
  • 削減できる利息: 約198万円
  • 完済後の余剰資金: 月10万円+月117,200円のローン返済分が浮く=月約22万円

完済後8年間の運用

完済後(54歳〜60歳の6年間 + 再雇用65歳までの5年間 = 計約11年)、浮いた月22万円のうち月15万円をNISAに投じた場合:

  • 11年積立・年4%想定: 約2,460万円
  • 元本: 月15万円 × 132ヶ月 = 1,980万円
  • 含み益: 約480万円

合計の20年後純資産(住宅資産を除く金融資産): 約2,460万円

「完済の安心感」は大きい。だが、序盤10年は資産がほぼ増えず、後半で取り戻す形になる。

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シナリオB: 全額NISA投資——「複利の力」に賭ける

月10万円を新NISA(成長投資枠+つみたて投資枠)に20年間積み立てる。年率4%(先進国株式インデックスの長期平均から保守的に算出)で計算する。

NISAシミュレーターで試算:

  • 20年積立元本: 100,000円 × 240ヶ月 = 2,400万円
  • 評価額: 約3,670万円(含み益 約1,270万円)
  • 住宅ローン残債(20年後・通常返済): 0円(残期間ぴったり完済)

ただし新NISAの生涯投資枠は1,800万円。月10万円積立だと15年で枠を使い切る。残り5年(年120万円)の合計600万円は特定口座で運用する必要があり、運用益に約20%課税される。

特定口座分の運用益: 600万円積立・5年・年4% → 約66万円の含み益 → 税引後約53万円

合計の20年後純資産: 約3,657万円(NISA分3,670万円 - 特定口座課税相当13万円)

「リターンは最大。ただし、年4%は『過去の平均』であって『将来の保証』ではない」——田原さんはこの数字に魅力を感じつつも、リスクシナリオも書き出した。

リスクシナリオ(年率0%・暴落想定)

  • 評価額: 元本2,400万円のまま、または含み損で2,000万円程度に減ることも
  • 教育費がピークの55歳前後にリーマン級の暴落が来た場合、取り崩したい時に取り崩せない

「20年あれば回復する」とは言えるが、取り崩したいタイミングと暴落が重なるリスクは、教育費・退職金の不確実性が高い田原家にとって無視できなかった。

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シナリオC: 半々配分——リスクを散らす

月5万円ずつ繰上返済とNISAに振り分ける。

繰上返済分(月5万円)

  • 完済時期: 約16年後(61歳でローン完済)
  • 削減利息: 約115万円
  • 完済後4年間(61歳〜65歳)に浮く月返済117,200円を投資に回せる

NISA分(月5万円)

  • 20年積立元本: 50,000円 × 240ヶ月 = 1,200万円(NISA枠内に収まる)
  • 評価額(年4%想定): 約1,830万円

完済後の追加投資

  • 元本480万円・年4% → 約510万円(税引後約500万円)

合計の20年後純資産: 約2,330万円(NISA1,830 + 完済後投資500)

シナリオAと比べて「住宅ローンの安心感は4年遅れる」が、「20年トータルの資産は約130万円の差で済む」。リスクは中程度に分散される。

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シナリオD: 教育費5年集中→投資切替——「教育費の山」に備える

長女が高校3年(5年後・18歳)、長男が中学3年(5年後・15歳)になるタイミングを見据えて、最初の5年は教育費準備に全振り。以降の15年はNISA投資にシフトする。

教育費準備(5年・月10万円)

  • 5年で600万円を教育資金として確保(普通預金または個人向け国債)
  • 用途: 長女の大学受験〜入学費用、長男の高校進学準備

文部科学省「子供の学習費調査(令和5年度)」と日本学生支援機構「学生生活調査(令和4年度)」を組み合わせると、私立文系大学の4年間総額は約540万円(入学金・授業料・通学費含む)。子ども2人なら最大1,080万円必要になる可能性がある。

教育費シミュレーターで試算すると、田原家の想定(長女私立文系・長男国公立理系)の総額は約920万円。600万円の積立と、月々の家計からの拠出で乗り切る計画になる。

投資切替(5年後〜20年後・月10万円)

  • 15年積立元本: 100,000円 × 180ヶ月 = 1,800万円(NISA生涯枠ぴったり)
  • 評価額: 約2,460万円

合計の20年後純資産: 教育費準備600万円(一部使用済み)+ NISA 2,460万円 = 約3,060万円(教育費の使用残高は計算簡略化のため除外)

教育費の流動性は確保されるが、最初の5年間は資産がほぼ増えない

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4シナリオの最終比較

シナリオ20年後の住宅ローン残債金融資産(推定)完済時期教育費の安心感
A. 全額繰上0円約2,460万円11.5年後△(教育費は別途必要)
B. 全額NISA0円約3,657万円20年後(通常返済)△(投資の取り崩しリスク)
C. 半々0円約2,330万円16年後△(教育費は家計から)
D. 教育費5年→投資0円約3,060万円+教育費別枠20年後(通常返済)

数字だけで言えばBが最大、次いでD、A、Cの順。だが「最大値」と「最適解」は違う。

田原さんはここで一晩寝かせた。翌朝、妻の由佳さんと話し合って、出した結論はこうだった——「単独シナリオではなく、ハイブリッドにする」。

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田原家が選んだ「ハイブリッド最適解」

由佳さんの言葉が決め手だった。「お父さんの会社、業績の波あるよね。退職金の見込みも50代で変わるかも。完全に1つに賭けるのは怖い」。

夫婦で再設計したプランはこうだ:

配分金額理由
教育費準備(普通預金)月2万円(5年限定)長女の大学入学資金120万円を確実に貯める
繰上返済月3万円(年36万円・年1回まとめて)60歳までに完済の道筋をつける
NISA成長投資枠月5万円長期の複利効果を取りに行く
合計月10万円

このプランの20年後試算

  • NISA: 月5万円 × 20年・年4% = 約1,830万円
  • 繰上返済: 月3万円(年36万円)を年1回繰上 → 完済時期は約17年後(62歳)、削減利息約75万円
  • 教育費準備: 5年で120万円→長女大学入学時に使用→残額0円
  • 完済後3年間(62〜65歳)の月117,200円のうち月10万円を投資 → 約400万円
  • 20年後の金融資産: 約2,230万円

シナリオC(半々)に近い数字だが、教育費の安心感を組み込んだ点が田原家にとって譲れない条件だった。

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田原家の3年後・5年後・10年後のチェックポイント

シミュレーターは「現時点の前提」での試算でしかない。田原さんは3年ごとに見直すルールも決めた。

  • 3年後(48歳): 長女が高1。教育費の実額が見え始める。NISA評価額の確認
  • 5年後(50歳): 教育費準備フェーズ終了。月2万円を繰上 or NISAに振替
  • 10年後(55歳): 退職金見込みが具体化。完済の前倒し可否を判断
  • 15年後(60歳): 定年。再雇用後の収入と再設計

FIREシミュレーターで65歳時点の必要資産を逆算しておけば、軌道修正のタイミングがわかる」——田原さんはこう続けた。

他の家庭への応用——田原家の選択から学べる3つのこと

田原家のケースは「年収700万円・残債2,500万円・固定1.2%」という具体条件のもとでの最適解だ。前提が変われば結論も変わる。それでも、判断プロセスから抽出できる原則は3つある。

1. 金利1%台では「繰上返済の数学的優位」は小さい

固定1.2%の場合、繰上返済による利息削減は元本に対して年1.2%相当。一方、NISA長期運用の期待リターンは年3〜5%。金利が低いほど、投資のほうが期待値で勝つ。ただし期待値とリスクは別物。

住宅ローン控除シミュレーターで確認すると、ローン残高×0.7%が10年〜13年所得税から控除される。控除期間中の繰上返済は「控除減額」のデメリットも考慮する必要がある。

2. 教育費の「ピーク」を逆算してから配分を決める

教育費は子どもの年齢でピーク時期が決まっている。投資は20年あれば回復するが、教育費は「来年必要」を10年待つことができない。田原家の場合、ピークは長男大学入学時の8年後。それを起点に、流動性の高い資金(普通預金・国債)を最優先で確保した。

3. 「完全に1つ」を避けるハイブリッドの実用性

経済合理性では「年4%で回るならNISA一択」かもしれない。だが家計の意思決定はリスク許容度と心理的安心感のバランスで決まる。完済の安心、投資の成長、教育費の備えを「ある程度ずつ」確保する設計は、シミュレーターの最大値を取れなくても、夜よく眠れる選択肢になる。

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よくある質問

Q. 固定1.2%でも、変動金利のほうがさらに低い場合は借り換えるべきですか?

借り換えには諸費用(30〜80万円)が発生するため、残債1,000万円以下・残期間10年以下では借り換えメリットは小さいことが多いです。田原家のように残債2,500万円・残20年なら、変動0.5%への借り換えで月返済が約7,000円下がり、20年で約170万円の利息削減効果があります。ただし変動は将来の金利上昇リスクを内包するため、固定との差分を別途投資に回せる家計でないと「金利上昇で詰む」リスクがあります。

Q. NISAの「年4%」という想定リターンの根拠は?

世界株式インデックス(MSCI ACWI)の過去30年の平均リターンは年7〜8%(円建て・配当込み)ですが、為替変動・信託報酬(年0.1〜0.2%)・将来の不確実性を考慮し、保守的に年4%で試算するのが家計シミュレーションの一般的な慣行です。金融庁「資産運用シミュレーション」も年3〜5%でのレンジ提示が標準。実際のリターンは±20%の年も珍しくないため、ピンポイントの数字で資産設計するのは危険です。

Q. 教育費は「学資保険」で準備すべきではないですか?

学資保険の予定利率は年0.5〜1.0%程度(2026年時点)。一方、NISA長期運用の期待リターン年3〜5%と比較すると、学資保険は「貯蓄性は劣るが、契約者死亡時の保険料免除がある」という保険機能が主な価値です。田原家は団信加入済みのため、死亡保障は不要と判断し、流動性の高い普通預金+個人向け国債で教育費準備を選びました。教育資金準備シミュレーターで学資保険・NISA・預金の比較ができます。

Q. 繰上返済は「期間短縮型」と「返済額軽減型」のどちらが得?

利息削減効果は期間短縮型のほうが大きい(同じ繰上額なら通常2倍程度の差)。一方、返済額軽減型は月々のキャッシュフローが楽になるため、収入減・転職・育休などのリスクに備えるなら有効です。田原さんは「教育費ピークの55歳前後でも返済負担を変えたい」とは考えなかったため、期間短縮型を選択しました。

Q. このシミュレーションのデータの出典は?

住宅ローンの月返済額は元利均等返済式(金融庁標準)に基づく計算です。NISAの投資シミュレーションは月複利で年率4%を想定。教育費は文部科学省「子供の学習費調査(令和5年度)」と日本学生支援機構「学生生活調査(令和4年度)」、住宅ローン金利の相場は住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2024年度)」を参照しています。NISAの生涯投資枠1,800万円・年間360万円の制度設計は金融庁「新NISA制度」に基づきます。

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