年金の繰上げ・繰下げ受給を徹底比較|損益分岐年齢と最適な受給開始タイミング
年金の繰上げ受給(60歳〜)と繰下げ受給(〜75歳)の減額率・増額率・損益分岐年齢を解説。受給開始年齢ごとの月額と累計額を比較表で確認できます。
年金はいつから受け取るのがベスト?
老齢年金の受給開始は原則65歳ですが、60歳から75歳の間で自由に選べます。早くもらう「繰上げ受給」は月額が減り、遅くもらう「繰下げ受給」は月額が増えます。どちらが得かは「何歳まで生きるか」で決まります。
平均寿命(男性81.05歳・女性87.09歳、2022年厚生労働省「簡易生命表」)を前提にすると、65歳受給か70歳繰下げが最も累計受給額が多くなる傾向にあります。しかし、健康状態・他の収入源・配偶者の有無・老後の資金計画によって最適解は変わります。厚生労働省の「令和6年度年金制度改正」でも、働き方改革と合わせて柔軟な受給選択が推奨されています。
まずは年金の繰上げ・繰下げシミュレーターで、あなたの条件で累計額を比較してみましょう。国民年金・厚生年金の見込額がわからない場合は年金受給額シミュレーターで年収・加入期間から試算できます。
繰上げ受給の仕組み(60〜64歳)
65歳より前に受給を開始すると、1ヶ月あたり0.4%減額されます。この減額は生涯続きます。
| 受給開始年齢 | 繰上げ月数 | 減額率 | 月額(65歳時14.5万円の場合) |
|---|---|---|---|
| 64歳 | 12ヶ月 | 4.8% | 約13.8万円 |
| 63歳 | 24ヶ月 | 9.6% | 約13.1万円 |
| 62歳 | 36ヶ月 | 14.4% | 約12.4万円 |
| 61歳 | 48ヶ月 | 19.2% | 約11.7万円 |
| 60歳 | 60ヶ月 | 24.0% | 約11.0万円 |
2022年4月の制度改正で、減額率が月0.5%から月0.4%に引き下げられました(1962年4月2日以降生まれの方が対象)。
繰下げ受給の仕組み(66〜75歳)
65歳以降に受給開始を遅らせると、1ヶ月あたり0.7%増額されます。
| 受給開始年齢 | 繰下げ月数 | 増額率 | 月額(65歳時14.5万円の場合) |
|---|---|---|---|
| 66歳 | 12ヶ月 | 8.4% | 約15.7万円 |
| 67歳 | 24ヶ月 | 16.8% | 約16.9万円 |
| 68歳 | 36ヶ月 | 25.2% | 約18.2万円 |
| 70歳 | 60ヶ月 | 42.0% | 約20.6万円 |
| 75歳 | 120ヶ月 | 84.0% | 約26.7万円 |
2022年の改正で、繰下げの上限が70歳から75歳に延長されました。
損益分岐年齢:何歳で逆転する?
繰上げ・繰下げの損得は、累計受給額で比較すると明確になります。
繰上げ受給(60歳開始)vs 65歳受給
- 60歳〜64歳の5年間は60歳受給だけがもらえるため、累計額で先行
- しかし月額の差により、80歳前後で65歳受給に逆転される
- 80歳以降は差が開く一方
繰下げ受給(70歳開始)vs 65歳受給
- 65歳〜69歳の5年間は受給額ゼロのため、大きく後れを取る
- 70歳からの高い月額で追い上げ、約82歳で逆転
- 82歳以降は繰下げの方が有利
繰下げ受給(75歳開始)vs 65歳受給
- 10年間受給なしのため、逆転には時間がかかる
- 約87歳で65歳受給の累計額を追い越す
どの受給開始年齢を選ぶべき?
繰上げが向いている人
- 60〜64歳で収入が途絶え、生活資金が必要
- 健康上の不安があり、早めに受け取りたい
- 他の資産や収入と組み合わせて計画している
65歳受給(標準)が向いている人
- 65歳まで働く予定がある
- 減額も増額もせず、バランスを取りたい
繰下げが向いている人
- 65歳以降も働く予定があり、年金なしでも生活できる
- 長寿の家系で、健康に自信がある
- 老後の「長生きリスク」に備えたい
注意すべきポイント
税金・社会保険料の影響
年金額が増えると所得税・住民税・国民健康保険料の負担も増えます。繰下げの増額率84%がそのまま手取り増にはならない点に注意が必要です。
加給年金との関係
繰下げ期間中は加給年金が受け取れません。配偶者がいる場合は加給年金の額も含めて検討しましょう。
在職老齢年金
60歳以降も厚生年金に加入して働く場合、給与と年金の合計が一定額を超えると年金が減額される「在職老齢年金」制度があります。
実例:3パターンで累計受給額を比較
月額14.5万円(厚生年金の平均的な受給額)、想定寿命85歳の場合の累計受給額を試算します。
| パターン | 月額 | 年額 | 65〜85歳累計(20年) | 60〜85歳累計(25年) |
|---|---|---|---|---|
| 60歳繰上げ(-24%) | 約11.0万円 | 約132万円 | — | 約3,300万円 |
| 65歳受給(標準) | 14.5万円 | 174万円 | 約3,480万円 | — |
| 70歳繰下げ(+42%) | 約20.6万円 | 約247万円 | 約3,705万円(70〜85歳) | — |
| 75歳繰下げ(+84%) | 約26.7万円 | 約320万円 | 約3,205万円(75〜85歳) | — |
85歳まで生きる場合、最適解は70歳繰下げとなります。一方で、75歳まで生きないと見込む場合は60歳繰上げの方が累計額で有利になります。
繰下げを選ぶなら検討すべき資金戦略
繰下げ受給を選ぶ場合、65歳〜受給開始までの期間の生活費をどう確保するかが重要です。
- 退職金・預貯金の取り崩し: 定年後の取り崩しシミュレーターで資産寿命を試算
- 60歳以降も働く: 厚生年金に加入し続けて将来の年金額を増やす選択肢も
- iDeCo・NISAの活用: 60歳以降の取り崩しに備えてiDeCoシミュレーターで節税効果を確認
- 付加年金で+α: 自営業なら付加年金シミュレーターで月400円の上乗せを検討
繰上げ受給の3つの落とし穴
1. 減額が生涯続く
60歳で24%減額した年金は、75歳や85歳になっても24%減のまま。長生きするほど損失が膨らみます。
2. 障害基礎年金・寡婦年金が受けられなくなる
繰上げ受給を始めると、後から障害基礎年金の請求ができなくなるリスクがあります(初診日の時点で65歳未満であっても、繰上げ後は対象外となる場合あり)。
3. 国民年金の任意加入ができなくなる
60歳以降に国民年金に任意加入して年金額を増やすことができなくなります。加入期間が40年に満たない方は特に慎重な判断が必要です。
繰下げ受給の2つの注意点
1. 加給年金が繰下げ期間中は支給停止
配偶者加給年金(年額約39万円)は、本人の老齢厚生年金を受給開始するまで支給されません。配偶者がいる場合は加給年金額も含めた総合的な判断が必要です。
2. 税金・社会保険料で手取りは目減り
額面で+84%でも、所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料が増えるため、手取り増加率は+60〜70%程度になることが多いです。
シミュレーターで確認しよう
自分の年金月額と想定寿命を入力すれば、繰上げ・65歳・繰下げの3パターンで累計受給額を比較できます。損益分岐年齢も自動計算されるので、最適な受給開始時期の判断にお役立てください。
- 年金の繰上げ・繰下げシミュレーター — 受給開始年齢ごとの月額・累計額・損益分岐年齢
- 年金受給額シミュレーター — 年収・加入期間から国民年金・厚生年金の見込み額
- 定年後の取り崩しシミュレーター — 退職後の資産寿命と取り崩し戦略の比較
- iDeCoシミュレーター — 年金上乗せ・節税効果の試算
- 付加年金シミュレーター — 自営業向け 月400円で+αの年金
※本記事は2026年4月時点の年金制度(2022年4月改正後)に基づいています。制度の詳細や正確な受給額は日本年金機構の「ねんきん定期便」・「ねんきんネット」でご確認ください。