大学生の子の国民年金、親が払う?学生納付特例?——52歳・年収720万円の岡部さんが「実質40.5万円で年金は年5.6万円増」を検算した記録【ケーススタディ】
20歳の誕生日から届く国民年金の納付書。大学生の子の保険料は卒業まで約58万円(令和8年度月17,920円・令和9年度18,290円で32ヶ月分)。親が払えば社会保険料控除で約17.7万円の節税になり実質負担は約40.5万円、子の年金は年56,500円増えて72歳で元が取れる——学生納付特例・追納・放置の3案を、52歳会社員の家計で実額検算しました。
「え、学生なのに年金って払うの?」
8月の夜、リビングで封筒を開けた長男の第一声がこれだった。岡部さん(仮名・52歳)は東京都郊外に住むメーカー勤務の会社員。年収は720万円、妻は正社員(年収340万円)、長男は私立大学の2年生で、今月20歳になったばかりだ。誕生日から少し遅れて日本年金機構から届いたのは「国民年金加入のお知らせ」と納付書の束——月17,920円(令和8年度)、年間にすると21万円を超える。
学生でも、20歳になれば国民年金の第1号被保険者。選択肢は実質3つある。
- A案: 親(岡部さん)が代わりに払う — 払った岡部さんの所得から社会保険料控除が引ける
- B案: 学生納付特例を申請し、就職後に子が追納する — 在学中の支払いはゼロ、10年以内に後払い
- C案: 学生納付特例を申請し、追納はしない — 支払いは永久にゼロ。ただし将来の年金が減る
「どうせ俺らの頃には年金なんてもらえないでしょ」と言う長男を横に、経理部門で数字を扱ってきた岡部さんは、3案を実額で検算することにした。以下はその記録である。
前提の整理——岡部家と保険料の総額
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 岡部さん | 52歳・会社員・年収720万円(課税所得は後述の通り約368万円) |
| 妻 | 47歳・正社員・年収340万円(配偶者控除の対象外) |
| 長男 | 20歳・私立大学2年。2026年8月に20歳到達、2029年3月卒業見込み |
| 保険料の対象期間 | 2026年8月〜2029年3月の32ヶ月(20歳到達月から、就職して厚生年金に入る前月まで) |
保険料は年度ごとに改定される。令和8年度は月17,920円、令和9年度は月18,290円と決まっており、令和10年度は未定のため令和9年度と同額と仮定すると——
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2026年8月〜2027年3月: 17,920円 × 8ヶ月 = 143,360円
2027年4月〜2028年3月: 18,290円 × 12ヶ月 = 219,480円
2028年4月〜2029年3月: 18,290円 × 12ヶ月 = 219,480円(令和9年度額で仮置き)
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合計 582,320円
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卒業までに約58万円。そしてこの32ヶ月分を納めるかどうかで、長男が65歳から受け取る老齢基礎年金は次の分だけ変わる。
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満額847,300円(令和8年度・年額) × 32ヶ月 ÷ 480ヶ月 = 56,487円/年(月約4,700円)
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つまりこの判断は「58万円を今払って、65歳から毎年5.6万円を一生受け取るか」の選択だ。
A案の検算——親が払うと、58万円が実質40.5万円になる
岡部さんがまず確かめたのは、自分の限界税率だった。
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給与収入 720万円 − 給与所得控除 182万円 = 給与所得 538万円
538万円 − 社会保険料 約107万円 − 基礎控除 63万円(2026年分) ≒ 課税所得 約368万円
→ 所得税率20%の区分(課税所得330万円超695万円以下)
```
社会保険料控除は「実際に払った人」の所得から引ける。生計を一にする子の国民年金保険料を親が払えば、親の控除になる(国税庁タックスアンサーNo.1130)。岡部さんの場合、1円の控除につき所得税20.42%(復興特別所得税込み)+住民税10%=30.42%が戻る計算だ。自分の税率区分は所得税率シミュレーターで確認できる。
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節税額: 582,320円 × 30.42% = 177,142円(支払った各年の年末調整で還付・住民税減)
実質負担: 582,320円 − 177,142円 = 405,178円 ≒ 40.5万円
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回収年数はこうなる。
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405,178円 ÷ 56,487円/年 = 7.2年 → 長男が72歳になる頃に元が取れる
```
厚生労働省「令和5年簡易生命表」によれば65歳男性の平均余命は19.52年(約84.5歳まで)。平均まで生きれば受取増は約110万円、90歳なら約141万円で、実質負担40.5万円に対して2.7〜3.5倍になる。将来の年金額全体は年金受給額シミュレーターで厚生年金分も含めて試算できる。
なお「親が払うと贈与税は?」と一瞬手が止まったが、生活費・教育費と同様、生計を一にする親族の保険料負担に贈与税はかからない。年末調整では控除証明書(毎年秋に機構から届く)を保険料控除申告書に添付するだけだ。
B案・C案の検算——特例+追納は74歳回収、放置は年5.6万円の減額
B案(特例→子が追納)。学生納付特例は本人の前年所得が128万円以下(アルバイト収入のみならおおむね年193万円以下)なら承認され、在学中の支払いはゼロになる。追納の期限は10年。ただし承認年度の翌年度から起算して3年度目以降は当時の保険料に加算金が上乗せされる。
就職3年目の長男が本体582,320円を追納したとすると、今度は長男自身の社会保険料控除になる。新社会人の税率は所得税5.105%+住民税10%=15.105%程度なので——
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節税額: 582,320円 × 15.105% ≒ 88,000円
実質負担: 約494,000円 → 回収は 494,361 ÷ 56,487 = 8.8年(74歳前後)
```
同じ58万円でも、誰の所得から控除するかで実質負担が約9万円変わる。これがこの検算の核心だった。
C案(特例→追納しない)。特例期間は受給資格期間(10年)には算入されるが、年金額には1円も反映されない。32ヶ月分なら65歳から毎年56,487円、90歳まで生きれば約141万円を受け取り損ねる。目先の58万円と将来の141万円の交換であり、長生きするほど損が膨らむ。繰下げ受給で穴埋めする手もあるが、その比較は年金の受給開始年齢シミュレーターに譲る。
3案の比較表
| A案: 親が払う | B案: 特例→子が追納 | C案: 特例→放置 | |
|---|---|---|---|
| 支払総額 | 582,320円 | 582,320円+加算金 | 0円 |
| 控除する人・税率 | 父・30.42% | 子・15.105% | — |
| 実質負担 | 約40.5万円 | 約49.4万円+加算金 | 0円 |
| 65歳からの年金 | +56,487円/年 | +56,487円/年 | 増えない |
| 実質負担の回収 | 約7.2年(72歳) | 約8.8年(74歳) | — |
| 90歳までの損得 | +約100万円 | +約92万円 | −約141万円(機会損失) |
検算で気づいた2つの「ついで」
① どの案でも、特例の申請だけは必ず出す。 未納のまま放置すると、万一在学中に事故や病気で障害が残ったとき、障害基礎年金(2級で年847,300円・令和8年度)が保険料納付要件を満たさず受け取れない恐れがある。特例を申請しておけば、支払いゼロでも納付要件を満たす。A案で親が払う場合も、手続きが月をまたぐなら申請しておいて損はない。
② A案なら前納割引と付加年金が使える。 口座振替の2年前納は、令和8年度申込分で434,520円→417,150円と17,370円の割引(日本年金機構「国民年金保険料の前納」)。岡部家は8月加入なので今年度は月払いにし、来年4月からの2年分(卒業まで)を前納すれば取りこぼしがない。2年前納分の控除は「全額をその年に」か「各年に分割」かを選べる。さらに月400円の付加保険料を32ヶ月払えば(計12,800円)、年金が年6,400円(200円×32ヶ月)増えて2年で回収できる。詳細は付加年金シミュレーターで。なお付加保険料は保険料を納めている人だけの選択肢で、特例中は払えない。
FAQ
Q. 申請せずに未納のままだと何が起きる?
督促の対象になり、延滞金や(世帯主・配偶者への)強制徴収の可能性があるうえ、障害・遺族年金の納付要件も欠く。特例申請は在学中毎年度必要だが、マイナポータルからの電子申請や翌年度以降の継続申請ハガキで手間は小さい。「払わない」と「特例」は制度上まったく別物だ。
Q. 追納の加算金はいくらぐらい?
承認年度の翌々年度までに追納すれば加算金ゼロ。それ以降は経過年数に応じて当時の保険料に上乗せされる(率は年度ごとに告示され、近年は低金利を反映して月数十円〜数百円規模)。追納するなら就職後早めが定石で、10年の期限を過ぎた分は永久に追納できない。
Q. 大学院に進んだら?
特例は在学中ずっと使えるため、修士修了(24歳)なら対象期間は50ヶ月前後に伸び、総額は約90万円規模になる。判断の構造は同じだが金額が大きくなるぶん、親の控除効果も大きくなる。学費側の資金計画は大学費用シミュレーターとあわせて考えたい。
Q. この計算の前提データはどこから?
保険料額・前納割引は日本年金機構「国民年金保険料」「国民年金保険料の前納」、年金額は厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(満額847,300円/年)、控除の扱いは国税庁タックスアンサーNo.1130、平均余命は厚生労働省「令和5年簡易生命表」。令和10年度以降の保険料と将来の年金額は令和8〜9年度の水準で仮置きした概算であり、実際は毎年度改定される。
岡部家の結論
岡部さんが選んだのはA案、ただし①の通り学生納付特例を申請したうえで、今年度分を親が納付し、来年4月からは2年前納に切り替える形だ。決め手は「同じ58万円を家族の誰の財布から出すかだけで、税金が9万円変わる」こと。そして納付書をゴミ箱に向かいかけた長男には、比較表のC案の行——90歳までの機会損失141万円——を見せた。「もらえないでしょ」への完全な反論にはならないが、少なくとも「20歳の32ヶ月をどう扱うかは、65歳からの毎年5.6万円を左右する」という事実は伝わったらしい。
あなたの家ならどうするか。親の限界税率が30%なら本記事とほぼ同じ結論になるが、税率10%区分(課税所得195万円以下)なら子の追納との差は縮む。まず自分の税率区分を確かめるところから始めてほしい。