くらシム
ライフイベント

定年翌日、給与が3割減った|60歳再雇用1年目・世帯手取り▲130万円の家計を組み直した記録【ケーススタディ】

大手メーカーを定年退職した橋本さん(60歳)は再雇用で年収700万→400万に。月収ベースで約11万円の減少に対し、小遣い・旅行費・保険を削り月5万円の貯蓄を維持したプロセスを6つのシミュレーターで追跡。65歳からの年金受給までの5年間キャッシュフローを公開。

「定年の翌月、振り込まれた給料を見て妻と顔を見合わせた。想像はしていたが、ここまでか、と」

橋本さん(仮名・60歳)は大手メーカーの管理職を定年退職し、同社のシニア嘱託として再雇用された。肩書きは残ったが、月給は額面で約22万円減。賞与もなくなった。年収ベースでは700万円から400万円へ、およそ43%の減少だった。

この記事は、橋本さん夫婦が定年再雇用初年度に直面した「家計の段差」を、どう乗り越えたかの記録だ。5年後に受給が始まる年金までのブリッジ期間をどう設計したか、6つのシミュレーターを使って追った道筋を共有する。

橋本さん夫婦の出発点

項目夫・橋本さん(60歳)妻(57歳)
勤務形態再雇用(嘱託社員)パート
年収(再雇用後)400万円130万円
定年前の年収700万円130万円
退職金受取済み1,950万円(一時金)
貯蓄(退職金除く)850万円(預金550・投資300)
住宅持ち家・ローン完済(築22年)千葉県郊外の戸建て
子供長男32歳・長女29歳 いずれも独立

住宅ローンがないこと、退職金を受け取ったことが大きな支えだが、その一方で「現役時代の支出感覚」が残ったままだと、毎月の家計は赤字に傾く。最初の3か月、橋本さん家は実際に毎月8万円前後の赤字を出した。

ステップ1: 再雇用後の手取りを正確に把握する

最初にやったのは、家計簿ではなく手取り計算だった。年収400万円は「給与の額面」であり、実際に振り込まれる金額は手取りだ。社会保険料と所得税・住民税を引くと、年間でおよそ319万円、月額換算で約26.6万円が手元に残る。

妻のパート年収130万円は社会保険の扶養内。手取りはほぼ125万円で、月10.4万円。

世帯の新しい手取り月収:約37万円

定年前は夫の手取り月収が約45万円、妻と合わせて月56万円の世帯手取りだった。差額は月19万円。年間に換算すると228万円が消えた計算になる。

再雇用後の手取りは、給与形態によって大きくブレる。扶養の有無、通勤手当、夜勤・残業の扱いで月5万円以上の差が出ることも珍しくない。自分の条件で確かめるには手取り計算シミュレーターで額面年収と家族構成を入れて試算しておくとよい。

ステップ2: 現役時代の支出構造を棚卸しする

橋本さん夫婦は、過去1年間のクレカ明細と銀行引落を1か月ずつスプレッドシートに転記した。3日がかりの作業で出てきた月平均の支出は次のとおり。

項目現役時代の月平均
食費(外食含む)82,000円
光熱費・通信費31,000円
生命保険(夫婦分)24,000円
車関連(ガソリン・保険・車検積立)28,000円
医療・日用品18,000円
交際費・冠婚葬祭30,000円
趣味・娯楽42,000円
固定資産税(月按分)15,000円
旅行積立30,000円
夫婦それぞれの小遣い60,000円
その他(贈答・家具家電積立)25,000円
合計385,000円

月収56万円の時代は、支出38.5万円で月17万円が残っていた。ところが月収37万円になった瞬間、同じ支出のままだと月▲1.5万円の赤字。ボーナスが消えた分を考えると、年間▲65万円だ。

ステップ3: 「削るより戻す」で予算を設計する

橋本さん夫婦は、支出をゼロから組み直すのではなく、「現役最後の1年間に増えた項目を定年前の水準に戻す」というアプローチを採った。

退職が近づくと、記念の旅行、後輩への奢り、趣味の道具、ボーナスを当て込んだ衝動買いが増える。過去5年の平均と比べると、直前1年の支出は月3.2万円膨らんでいた。まずはここを戻す。

次に、義務ではない支払いのうち、満足度が低いものを仕分けた。家計簿を見ながら「これを半額にしても困るか?」を夫婦で1項目ずつ議論した。

新しい家計の月予算

項目見直し前見直し後差額
食費82,00072,000▲10,000
光熱費・通信費31,00026,000▲5,000
生命保険24,00010,000▲14,000
車関連28,00024,000▲4,000
趣味・娯楽42,00028,000▲14,000
交際費30,00018,000▲12,000
小遣い(夫婦計)60,00040,000▲20,000
旅行積立30,00015,000▲15,000
その他25,00015,000▲10,000
医療・日用品・固定資産税按分33,00032,000▲1,000
合計385,000280,000▲105,000

月▲10.5万円の圧縮。月収37万円に対して支出28万円で、月9万円の黒字化を達成した。特にインパクトが大きかったのは、生命保険の見直し(▲1.4万円/月)だ。

生命保険を14,000円 → 10,000円に減らせた理由

橋本さん夫婦の生命保険料は、現役時代に勧められるまま加入してきた積み上げで、ピーク時は夫婦合計で月24,000円だった。60歳時点で見直すと、契約内容のうち半分が「もう必要ない保障」だった。

  • 死亡保障 3,000万円 → 子供独立済み・住宅ローンなし、葬儀費用300万円で十分
  • 医療保険(入院日額10,000円)→ 夫は健康診断で問題なし・高額療養費で月8万円超は戻る
  • がん保険(診断給付金100万円)→ 維持
  • 妻の終身保険(葬儀資金準備)→ 維持

死亡保障は解約返戻金400万円を受け取って解約、医療保険は最低限の共済に切り替え。生命保険の見直しシミュレーターで保障額の過不足を可視化すると、削減すべき箇所が特定しやすい。

橋本さんのケースで忘れてはいけないのは、高額療養費制度の存在だ。年収400万円の区分だと、医療費の自己負担は月約8万円が上限になる。民間の医療保険で月8,000円払うより、貯蓄で備えたほうが合理的というのが結論だった。自分の年収区分の限度額は高額療養費シミュレーターで確認できる。

ステップ4: 65歳までの5年間キャッシュフロー

手取り37万円・支出28万円の新しい家計を5年間回すと、何が起きるか。橋本さん夫婦は次のような収支表を作った。

年齢年間手取り年間支出年間収支累計貯蓄(退職金1,950万+既存850万=2,800万スタート)
60-61歳444万円336万円+108万円2,908万円
61-62歳444万円336万円+108万円3,016万円
62-63歳444万円336万円+108万円3,124万円
63-64歳444万円336万円+108万円3,232万円
64-65歳444万円336万円+108万円3,340万円

5年間で540万円を追加で積み上げる計算になる。60歳時点の金融資産2,800万円が、65歳時点で3,340万円に。さらに退職金のうち1,200万円はインデックス投信(先進国株式+国内債券の4:6)に回して、年3%の期待リターンで運用することにした。この運用益(5年間で約190万円・税引後)まで含めると、65歳時点の資産は3,530万円程度が見込みだ。

必要な老後資金の目安は老後資金シミュレーターで試算できる。橋本さん夫婦の条件(夫婦二人・持ち家・月の生活費28万円・95歳まで)だと、年金を考慮した必要額は約3,200万円。5年間の再雇用期間で、目標を300万円以上上回る着地が見えた。

ステップ5: 年金受給のタイミングをどう選ぶか

65歳到達時、夫婦が受け取る年金の見込み額は次のとおり(日本年金機構「ねんきん定期便」から抜粋)。

  • 橋本さん:老齢基礎年金78万円 + 老齢厚生年金155万円 = 年233万円(月19.4万円)
  • 妻:老齢基礎年金68万円(60歳までの加入期間を反映) = 年68万円(月5.7万円)
  • 世帯合計:年301万円(月25.1万円)

月28万円の支出に対して、年金だけでは月▲3万円の不足。これを貯蓄の取崩しで補うと、65歳時点の資産3,530万円からは年36万円ずつ減る計算で、理論上は100年近く持つ。

ただし橋本さん夫婦は、年金を70歳まで繰下げる選択肢も検討した。繰下げの増額率は月0.7%、5年繰下げで42%増になる。70歳からなら年金は年427万円(月35.6万円)に跳ね上がる。

繰下げの損益分岐年齢は約82歳。妻のほうが長寿リスクは高いため、夫婦別々の繰下げ戦略を組んだ結果、「夫は65歳から通常受給、妻は68歳まで3年繰下げ」という折衷案に落ち着いた。妻の3年繰下げで受給額は25.2%増、約85万円/年になる。

繰下げの損益シミュレーションは年金繰上げ・繰下げ比較シミュレーターで自分の加入条件を入れて検討できる。

ステップ6: 65歳以降の家計を先に描く

5年後の65歳以降、橋本さん家の収入構造はこう変わる。

年齢夫の年金妻の年金勤労収入合計月収支出収支
65-67歳19.4万円0(繰下げ中)妻パート8万円27.4万円28万円▲0.6万円
68-70歳19.4万円7.1万円026.5万円28万円▲1.5万円
71-80歳19.4万円7.1万円026.5万円26万円+0.5万円
81歳以降19.4万円7.1万円026.5万円23万円+3.5万円

年を取るほど支出は自然に下がる(旅行・交際費・車関連が減る)ため、80代以降は年金だけで回る見込み。65-70歳の5年間で取崩しが発生するが、年間7万円程度に収まる。詳しくは老後の生活費シミュレーターで自分の年金見込みと支出を入れると、同じ形の5年ごと表が出せる。

退職後の健康保険、橋本さんの選択

再雇用で同じ会社の健康保険組合に継続加入できたため、この論点は発生しなかった。ただし、再雇用契約が短時間勤務(週20時間未満)になっていた場合は、健康保険の扶養を外れ、自分で選択する必要があった。

退職後の健康保険は、任意継続・国民健康保険・家族の扶養の3択。多くのケースで1年目は任意継続、2年目から国保への切替が有利になる。保険料の2年分累計を比較するには退職後の健康保険選択シミュレーターが使いやすい。

橋本さんが振り返って語ったこと

「現役時代の給料が下がる現実を受け入れるのに半年かかった。最初の3か月はプライドが邪魔をして、支出を減らせなかった。夫婦でスプレッドシートを開いたのは定年から半年後で、そこから一気に立て直した。もっと早く動けばよかった」

「退職金は全額は手を付けない、と最初から決めていた。運用に回す分と、生活費に充てる分を切り分けたのが結果的によかった」

橋本さん夫婦のケースが示すのは、再雇用は「働き続ける」ことではなく「生活を組み直す5年間」だという視点だ。収入が下がる前提で家計を設計しておけば、差額はすべて貯蓄に回せる。

このケースから読者が使える5つのチェックリスト

  • [ ] 再雇用後の手取り年収を給料明細ではなく源泉徴収票で確認する(賞与なしを忘れない)
  • [ ] 過去12か月のクレカ・銀行引落を1か月ずつ書き出して、項目別の月平均を把握する
  • [ ] 生命・医療保険の保障額を、子供独立後の必要額で見直す(高額療養費制度と突き合わせる)
  • [ ] 65歳からの年金見込み額を「ねんきんネット」で確認し、通常受給・繰下げの3パターンで比較する
  • [ ] 再雇用の5年間でいくら貯められるかの目標値を先に決める(生活費を逆算)

橋本さん夫婦の出発点と同じ金額でなくても、手順は誰でも使える。60歳前後の読者なら、定年2年前から着手すると余裕ができる。

---

  • 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」(60〜64歳の再雇用者賃金分布)
  • 日本年金機構「老齢年金の繰下げ受給」増額率0.7%/月
  • 厚生労働省「高額療養費制度」自己負担限度額(70歳未満・標準報酬月額28万〜50万円区分)
  • 総務省「家計調査 二人以上世帯・世帯主60歳以上」2025年
  • 金融庁「つみたてNISA等の長期投資シミュレーション」期待リターン前提

この記事の内容をシミュレーションしてみましょう

あなたの条件を入力すると、具体的な数字で結果が分かります

シミュレーターを使う

広告

関連記事

広告