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税金・社会保険

月4万円の仕送りで母は「扶養」に入るのか——47歳・年収650万円の村瀬さんが税の扶養だけ入れて、健保の扶養を見送った検算【ケーススタディ】

青森の実家で一人暮らしの母(73歳・年金月5.6万円)に月4万円を仕送りする村瀬さん(仮名・47歳・東京都下・年収650万円)。税の扶養控除に入れると年約8.7万円の節税になる一方、健康保険の扶養は仕送り額の要件で入れず、仮に入れても高額療養費が低所得区分から外れて入院1ヶ月あたり約6.1万円の負担増になりうる。「扶養」という同じ言葉の中身を税・健保・介護・給付金の4方向から検算した記録。

同じ月4万円の仕送りを、税務署は「扶養」と認める。健康保険は認めない。そして仮に健康保険が認めたとしても、入れないほうが得だった——。

村瀬さん(仮名・47歳・会社員・年収650万円)は、東京都下の多摩地域に妻(45歳・パート)と高校1年の娘の3人で暮らす。母・和子さん(73歳)は青森県の実家で一人暮らし。父は個人商店を営んでいたため厚生年金がなく、母の収入は老齢基礎年金の月5.6万円(未納期間があり満額に届かない)だけだ。

今年のお盆、帰省した村瀬さんは初めて母の通帳を見せてもらった。年金振込は2ヶ月ごとに11.2万円。冬の灯油代の月は残高が4桁になっていた。「月4万円は送る。それで、母さんをおれの扶養に入れられないのか」——ここから村瀬さんの検算が始まった。

「扶養」は1つの制度ではない

最初に村瀬さんがつまずいたのはここだ。扶養と呼ばれる仕組みは、少なくとも2つの別制度に分かれている。

  • 税の扶養(扶養控除) — 村瀬さんの所得税・住民税が安くなる。母の保険証は何も変わらない
  • 健康保険の扶養(被扶養者) — 母が村瀬さんの会社の健保に入り、国民健康保険から抜ける。母の保険料・医療費の扱いが変わる

条件も損得もまったく別物なので、以下では1つずつ判定する。この整理の一般論は税と社保の「扶養」の違いの解説記事に詳しい。

検算①: 税の扶養——入れる。節税は年約8.7万円

扶養控除の条件は「生計を一にしている」「親族の合計所得が58万円以下」の2つ。別居でも、生活費の仕送りを継続していれば「生計を一」に該当する。母の所得はこう計算する。

```
母の合計所得 = 年金収入 67.2万円 − 公的年金等控除 110万円(65歳以上の最低額)
= 0円 ≦ 58万円 → 条件クリア
```

65歳以上で年金だけなら、年金収入168万円以下までこの条件を満たす。月5.6万円の母は余裕で範囲内だ。

母は12月31日時点で70歳以上なので老人扶養親族にあたり、控除額は別居(同居老親等以外)で所得税48万円・住民税38万円。村瀬さんの課税所得は約300万円(年収650万円 − 給与所得控除174万円 − 社会保険料約99万円 − 基礎控除68万円ほか)で所得税率10%の帯なので、

```
所得税の軽減 = 48万円 × 10% × 1.021 ≒ 49,000円
住民税の軽減 = 38万円 × 10% = 38,000円
合計 ≒ 年87,000円
```

月4万円の仕送りのうち、約7,250円分が税金で戻ってくる計算になる。課税所得が330万円を超えている人なら所得税率20%で合計は約13.6万円まで増える。自分の場合の金額は扶養控除シミュレーターで確認できる。

手続きは年末調整の「扶養控除等申告書」に母を書き足すだけ。ただし税務署から仕送りの実態を問われたときのために、村瀬さんは手渡しをやめて毎月の銀行振込に切り替えた。振込記録が「生計を一」の証拠になる。

検算②: 健保の扶養——月4万円では入れない

村瀬さんの会社は協会けんぽ。別居の親を被扶養者にする条件は次の2つだ。

  1. 母の年収が180万円未満(60歳以上の場合)
  2. 母の年収が、村瀬さんからの仕送り額より少ない

1つ目はクリアするが、2つ目で止まる。

```
母の年金 67.2万円 > 仕送り 48万円(月4万円 × 12) → 認定されない
```

「母の生計の主たる部分を支えているか」を仕送り額で機械的に見る基準なので、月5.7万円以上(年67.2万円超)に増額しない限り入り口にすら立てない。村瀬さんは一瞬、月6万円への増額を考えた。だが次の検算がそれを止めた。

検算③: 仮に健保に入れたら——入院1ヶ月で約6.1万円の負担増

健保の扶養に入れて浮くお金は、母が払っている国民健康保険料だ。所得ゼロの母は7割軽減が効いていて、年およそ1.5〜2万円(青森県内の自治体の均等割・7割軽減後の概算)。浮くのはこれだけしかない。

一方で失うものが大きい。医療費の月額上限(高額療養費)の区分が変わるからだ。いまの母は住民税非課税の単身世帯で「低所得Ⅱ」。村瀬さん(課税)の被扶養者になると、区分は被保険者側で判定されて「一般」になる。2026年8月改定後の70〜74歳の上限で比べる。

いま(国保・低所得Ⅱ)健保の扶養に入れた場合(一般)
外来の上限(個人・月)11,000円22,000円+11,000円
入院を含む上限(月)24,600円61,500円+36,900円
入院時の食事代(1食)240円510円+270円

たとえば大腿骨骨折で1ヶ月(30日・90食)入院すると、

```
いま: 24,600円 + 食事 240円 × 90食 = 46,200円
扶養後: 61,500円 + 食事 510円 × 90食 = 107,400円
差額: 約61,200円/月
```

73歳という年齢は、これから入院確率が上がっていく年齢でもある。年2万円弱の保険料節約と引き換えに、入院のたび月6万円強の追加負担を背負うのは割に合わない——村瀬さんの結論はここで出た。しかも認定のためだけに仕送りを月6万円へ増やせば、それ自体が年24万円の支出増だ。改定後の上限額の全体像は高額療養費の2026年8月改定の記事、母のケースでの試算は高額療養費シミュレーターで確認できる。

なお介護保険料は勘違いしやすい。65歳以上の第1号保険料は健保の扶養に入れても本人負担のまま消えない。母は非課税単身・年金80万円以下の第1段階で月約1,800円(第9期の全国平均基準額6,225円 × 軽減後乗率0.285)。ここはどちらを選んでも変わらない。仕組みは介護保険料シミュレーターが詳しい。

検算④: 見落としていた2つの「ついで」

マイナスのついで: 住民税非課税世帯向けの臨時給付金(近年3万円前後が断続的に支給されている)は、「課税者の税扶養に入っている人だけの世帯」を対象外とする設計が通例だ。母を税扶養に入れると、この給付金は今後もらえなくなる可能性が高い。年8.7万円の節税と、あるかないか分からない3万円——それでも税扶養が有利、というのが村瀬さんの判断だ。

プラスのついで: 検算の途中で、母が年金生活者支援給付金を請求していないことが分かった。老齢基礎年金が低く住民税非課税世帯なら、保険料納付済月数に応じて月数千円が年金に上乗せされる制度だ(2025年度基準額は月5,450円で、納付月数に応じて按分。母の場合の概算で月3,400円・年約4万円)。この給付金は税扶養に入っても、別居で世帯が別のままなら影響を受けない。詳細は年金生活者支援給付金の解説記事にまとまっている。

もうひとつ。生計を一にした親の医療費・薬代を村瀬さんが払えば、村瀬さん自身の医療費控除に合算できる。家族全体で年10万円のラインを超えやすくなるので、母の通院の領収書は捨てずに送ってもらうことにした。試算は医療費控除シミュレーターで。

将来の宿題——同居と75歳

検算の最後に、村瀬さんは2つの「いずれ来る話」をメモした。

  • 同居して住民票の世帯を合併すると、損得が逆転しかねない。世帯に課税者がいると母の介護保険料の段階が上がり(第1段階→月約5,600円)、高額療養費・高額介護サービス費の非課税優遇も外れる。呼び寄せるときは扶養の前に「世帯」の検算が要る。在宅・施設を含めた介護の総費用は介護費用シミュレーターで先に見ておく
  • 75歳になると母は後期高齢者医療制度へ移り、健保の扶養という選択肢自体が消える。今回健保を見送った判断は、2年後にはどのみち追認される

この記事の前提

金額は村瀬さん(仮名)のケースに基づく概算。制度部分は国税庁タックスアンサーNo.1180「扶養控除」(所得要件58万円・老人扶養親族の控除額)、日本年金機構・協会けんぽの被扶養者認定基準(別居は仕送り額との比較)、厚生労働省の高額療養費制度資料(2026年8月改定後の70〜74歳区分)、入院時食事療養費の標準負担額(2025年4月改定: 一般510円・低所得Ⅱ240円)、第9期介護保険事業計画の全国平均基準額(月6,225円)に基づく。国保料・給付金の運用は自治体により異なる。試算への質問・指摘はお問い合わせへ。

FAQ

Q. 遺族年金を受け取っている親でも税の扶養に入れられる?

入れられるケースが多い。遺族年金・障害年金は非課税所得なので、税の所得判定(58万円以下)にはカウントされない。ただし健保の扶養の収入判定には遺族年金も含まれるので、税は入れて健保は入れない、という今回と同じ形になりやすい。

Q. 兄弟で仕送りを分担している場合は誰の扶養になる?

税の扶養控除は1人の親につき1人しか使えない。重複して申告すると後で否認される。実務上は、最も多く仕送りしている人か、税率の高い人が付けるのが合理的で、兄弟間で話し合って決めておく必要がある。

Q. 母親をパート先の社保に入れる話や、130万円の壁とは関係ある?

無関係ではないが別の話。130万円(60歳以上は180万円)の壁は「健保の被扶養者でいられる収入上限」で、今回の母のように年金67.2万円ならはるか手前。今回の論点は収入の壁ではなく「仕送り額が親の収入を上回るか」という別居特有の要件だった。

Q. 手続きはいつまでにやればいい?

税の扶養は年末調整(またはその年の確定申告)で申告すればよく、要件はその年の12月31日時点で判定される。年の途中から仕送りを始めた場合でも、年末時点で生計を一にしていれば1年分の控除が受けられる。

Q. 数字が実感と合わない場合は?

税率の帯(課税所得)や健保組合独自の認定基準、自治体の国保料率で結果は変わる。特に健保組合は仕送り額の下限(例: 月5万円以上)を独自に定めている場合がある。計算がおかしいと思われる場合はお問い合わせから知らせてもらえれば検証する。

村瀬さんの結論

項目判断損得(年額)
税の扶養控除(別居・老人扶養親族)入れる+約8.7万円
健保の被扶養者見送る保険料▲2万円弱 vs 入院リスク増で見送り
非課税世帯給付金対象外になるのを許容−3万円前後(支給年のみ)
年金生活者支援給付金の請求母が新規請求母に+約4万円
医療費の支払いを合算村瀬さんが負担して医療費控除へ内容次第で数千円〜

「扶養に入れる?」という一言の質問に、答えは4つに割れた。あなたの親の年金額と仕送り額なら、この4つはそれぞれどちらに転ぶだろうか。帰省の土産話のついでに、通帳を見せてもらうところから始まる検算だ。

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