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子の大学受験と母の介護開始が同じ春に来た|53歳・世帯年収820万円のWケア家計再設計【ケーススタディ】

横浜市・53歳の田中さん(仮名)一家を題材に、長男の大学進学費用・同居を始めた実母の介護費用・自身の老後資金という3つの大きな支出を同時に抱える「Wケア世代」が、向こう20年でいくら必要になるのかを6つのシミュレーターで具体的に積み上げた事例です。

「もう限界かもしれない」

3月末、田中健一さん(仮名・53歳・横浜市港北区在住)の妻からLINEが届いた。同居を始めた義母(70歳)が夜中に何度も起き上がるようになり、長男(17歳・高校2年生)の予備校送迎と重なって、平日のリズムが完全に崩れたのだという。

田中家には今、3つの「お金がかかる出来事」が同時に押し寄せている。長男の大学進学母の在宅介護開始、そして自分たち夫婦の老後資金準備。1つでも重いのに、3つが同時並行で進む。これがいわゆる「Wケア世代(ダブルケア)」の家計だ。

この記事は、田中さんが6つのシミュレーターを使って向こう20年の支出を見える化し、何を削り、何を残すかを決めるまでの記録である。

田中家のプロフィール

項目内容
世帯主田中健一さん(53歳・製造業 課長職)
年収(額面)720万円(基本給 + 賞与4ヶ月分)
49歳・パート 年収96万円(社会保険扶養内)
長男17歳・高校2年生(来年度 私立大学受験予定)
同居家族母・70歳・要介護1(2026年4月から同居開始)
住居横浜市港北区・築16年戸建(持ち家)
住宅ローン残債1,200万円・残期間10年・固定金利1.4%
金融資産預貯金900万円 / 新NISA 320万円 / iDeCo 180万円
退職金見込み60歳定年で1,500万円・65歳まで再雇用予定
加入保険終身死亡保険500万円・医療保険・がん保険(合計 月2.8万円)

母は3月までは熊本で1人暮らしをしていたが、要介護1の認定が下りたタイミングで横浜の田中家に呼び寄せた。母自身の年金は月8.0万円(国民年金 + 遺族厚生年金)で、貯金は800万円ほど残っている。

ステップ1:世帯の「使えるお金」を確定させる

最初に田中さんは手取り計算シミュレーターで世帯の年間手取りを確定させた。介護保険料は40歳以上で天引きされるため、ここを忘れないことが50代家計の出発点になる。

田中さん本人(年収720万円・40歳以上・神奈川県)

項目年額月額換算
額面年収7,200,000円600,000円
健康保険料約362,000円30,200円
厚生年金保険料約650,000円54,200円
介護保険料約131,000円10,900円
雇用保険料43,000円3,600円
所得税約228,000円19,000円
住民税約362,000円30,200円
手取り合計約5,424,000円約452,000円

妻のパート96万円は社会保険料・所得税ゼロ、住民税のみ年約3万円。手取りは約93万円。

世帯の年間手取り合計:約635万円 / 月53万円

母の年金月8万円は母本人の介護費・医療費に充てる方針なので、田中家の家計とは分けて管理する。これは「介護費は親本人の年金と貯金で払う」という介護費用シミュレーターの基本原則に従った判断だ。

ステップ2:直近3ヶ月の支出を棚卸し

支出項目月額内訳メモ
住宅ローン返済120,000円残10年・固定1.4%
食費85,000円家族4人・自炊中心
光熱・通信35,000円スマホ3台 + 自宅ネット
教育費65,000円高2・予備校 + 模試
介護関連(自己負担)35,000円デイサービス・介護用品
車関連25,000円軽1台・ガソリン・保険
民間保険料28,000円死亡 + 医療 + がん
日用品・被服25,000円
医療・娯楽・交際25,000円
その他・予備30,000円
支出合計473,000円

世帯手取り53万円から支出47.3万円を引くと、月5.7万円・年68万円の余剰。一見、悪くない。だがこの余剰では、これから始まる3つの山を越えられない。

ステップ3:山1「大学進学費用」をシミュレートする

田中さんは大学費用シミュレーターに、長男が私立文系・自宅通学する想定を入れた。

費目金額
入学金(私立文系)240,000円
授業料 4年分4,400,000円(年110万円)
教材・施設費・通学定期 4年分600,000円
合計約5,240,000円

出典:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(令和5年度)」では、私立大学(文系・自宅通学)の在学費用は4年で約469万円、入学費用と合わせて約500万円超。

田中家の方針:現預金900万円のうち500万円をこの4年間で計画的に取り崩す。1年あたり125万円、月10.4万円相当。これを家計に組み込むと、月の余剰5.7万円ではマイナス4.7万円になる。妻のパート時間を増やして月5万円の収入アップで補う計画だ。

ステップ4:山2「在宅介護費用」をシミュレートする

在宅介護コストシミュレーター介護保険料シミュレーターで、要介護1から段階的に進行する想定を組んだ。

要介護1〜2(在宅・想定5年間)

項目月額
デイサービス週2回(1割負担)11,000円
訪問介護週1回4,000円
介護用品(紙パンツ・手すり等)10,000円
通院・薬代6,000円
食費・光熱費の上乗せ15,000円
小計約46,000円

→ 5年で約276万円。母の年金月8万円から介護費を出すと、月3.4万円が母自身の貯金に積み上がる試算。

要介護3以降(特養入所・想定10年間)

項目月額
施設利用料(多床室・1割負担)100,000円
食費・日用品・医療30,000円
小計約130,000円

出典:厚生労働省「介護給付費等実態統計(令和5年度)」と公益財団法人 生命保険文化センター「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」(在宅介護費用 月平均4.8万円、施設は月12.2万円)。

→ 10年で約1,560万円。母の年金月8万円 + 母の貯金800万円 + 介護保険の高額介護サービス費上限を活用すれば、田中家の家計負担は月2万円以内に抑えられる試算。

介護15年トータル:母の財布で約1,000万円・田中家の負担 約240万円

母の貯金800万円は、田中家が「奪わない」「使わない」を徹底すれば介護費用にちゃんと届く——この事実を数字で確認できたことが、田中さんと妻の精神的な負担をかなり軽くした。

ステップ5:山3「自分たち夫婦の老後資金」を試算する

ここが一番、後回しになりやすい。だが田中さんは「子と母にお金を全部使ったら、自分たちが老後に長男の世話になる」と考え、削らない方針を固めた。

年金額シミュレーターで65歳からの年金見込みを確認すると、

  • 田中さん:厚生年金 月13.0万円 + 基礎年金 月6.5万円 = 月19.5万円
  • 妻:基礎年金 月6.5万円(パート期間の上乗せ含む)

世帯合計 月26万円 / 年312万円。総務省「家計調査(2024年)」の高齢夫婦無職世帯の支出 月25.7万円とほぼ同水準だが、医療費や趣味の出費を考えると「ゆとり資金」として2,000万円は別途欲しい。

退職金 + iDeCo + NISAの積立試算で60歳時点の到達額を計算した。

項目60歳時点の見込み
退職金1,500万円
iDeCo(既存180万 + 月2.3万 × 7年・年利3%想定)約410万円
新NISA(既存320万 + 月5万 × 7年・年利3%想定)約840万円
合計約2,750万円

出典:金融庁「つみたてNISAの仕組みと利回り想定」、国民年金基金連合会「iDeCoの所得控除と運用イメージ」。年利3%は全世界株式インデックスの過去20年実績の保守値。

iDeCoシミュレーターで田中さんの年収720万円・所得税率20%・住民税10%で試算すると、月2.3万円拠出の節税額は年8.3万円。7年で約58万円が「実質ノーリスクで返ってくるリターン」になる。これは大学費用の半年分に相当する規模で、削るには惜しい。

ステップ6:3本の柱を1つの20年プランに統合する

田中さんは3つの試算を1枚にまとめた。

期間年齢主な支出フェーズ田中家の財源
53〜57歳田中53→57長男の大学(4年・500万円)預貯金取崩 + 妻のパート増
53〜58歳母70→75母の在宅介護(5年・年負担24万円)母の年金で完結
58〜68歳母75→85母の施設介護(10年・年負担24万円)母の貯金 + 田中家月2万円補填
60〜65歳田中60→65再雇用期(年収400万円想定)生活費圧縮 + iDeCo受取
65〜85歳田中65→85老後20年(年支出 月25万円)公的年金 + 退職金 + NISA

3本柱の20年累計:教育500万円 + 介護自己負担240万円 + 老後ゆとり資金2,000万円 = 2,740万円

これに対し、現在の貯蓄1,400万円 + 退職金1,500万円 + 7年間のiDeCo・NISA積立 + 妻のパート増収を合計すると、ぎりぎり足りる試算になった。

田中家が「やめたこと」と「始めたこと」

やめたこと月額削減
終身死亡保険(長男独立後は不要と判断)-8,000円
動画配信3サービス → 1サービスに集約-3,500円
軽自動車から自転車通勤へ(妻のパート)-7,000円
始めたこと月額拠出
iDeCoの満額拠出(月2.3万円)+23,000円
新NISAの月額積立を3万→5万円に増額+20,000円

差し引きで月2.5万円の家計余剰アップ。さらに妻のパート増で月5万円——合計 月7.5万円の改善幅を確保した。

FAQ

Q. 田中さんの試算はどこから来ているのですか?

A. 手取り計算は協会けんぽ・厚生年金保険料率(2025年度)と所得税率を使用。介護費用は厚生労働省「介護給付費等実態統計(令和5年度)」と公益財団法人 生命保険文化センター「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」。教育費は日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(令和5年度)」を参照しています。

Q. 母の貯金を介護費に使うのは「親不孝」ではないですか?

A. むしろ逆で、親自身の老後資金を子の家計で肩代わりすると、子の老後が崩れて孫世代に負担が連鎖します。介護保険制度も「親本人の収入と資産で支払う」前提で設計されています。

Q. iDeCoは50代から始める意味があるのですか?

A. 田中さんのように所得税率20%の人なら、月2.3万円拠出で年8.3万円の節税になります。60歳まで7年あれば、節税額だけで約58万円。運用益がゼロでも国の補助で確実にプラスになる仕組みです。詳しくはiDeCoシミュレーターで確認してください。

Q. 大学費用を奨学金で借りる選択肢は?

A. 田中家は預貯金で賄えるため見送りましたが、貯蓄が薄い世帯は教育ローン vs 奨学金の比較が役立ちます。第一種奨学金(無利息)が使えるなら、現預金を老後資金に温存するという選択も合理的です。

Q. 自分の家計でも試算したい場合は?

A. このページで触れた手取り計算在宅介護コスト大学費用年金額退職金準備iDeCoの6本を順に通せば、田中家と同じ流れで自分の20年プランが組めます。数字が実感と合わない場合はお問い合わせからご連絡ください。

おわりに:「同時に来る」のは想定の範囲内

50代に突入すると、教育費のピーク・親の介護開始・自分の老後準備が「同時に」やってくる確率は、人口動態的にむしろ高い。総務省「平成28年社会生活基本調査」によれば、30〜50代の女性の25人に1人がダブルケア(育児と介護の同時負担)に直面しているという推計もある。

「同時に来る」を想定外にしないこと。3本柱を1枚の表に並べてみるだけで、削るべきもの・残すべきものが見えてくる——田中さんが20年分の数字を眺めながら最後に言ったのは、「思ってたよりは何とかなりそうだ」だった。

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