休業・失業でもらえるお金完全ガイド|傷病手当金・産休・育休・介護休業・労災・失業手当の6制度を「月給30万円の人の手元に残る額」で比較【2026年10月】
同じ「給料の3分の2」でも、手元に残る額は制度でまったく違う。月給30万円(手取り約23.4万円)の会社員なら、育休給付は手取りの約79%、出生後休業支援給付金の上乗せ期間は約96%残る一方、傷病手当金・介護休業給付は社会保険料の免除がないため約61%に落ちる。6制度の計算式・支給期間・待期・要件、2026年8月改定の上限額(育休は月33万2,454円)、10月から始まった自営業者の育児期間中の国民年金保険料免除までを1本で整理する。
病気で休む、出産する、親の介護で休む、会社を辞める。理由は違っても、給料が止まったときに「代わりのお金」が出る制度は6つある。では、その6つのうち、手元に残る額がいちばん多いのはどれで、いちばん少ないのはどれか。
答えは、支給率の数字だけ見てもわからない。傷病手当金も育児休業給付金も、ざっくり言えば「給料の3分の2」だ。それなのに、月給30万円の人で比べると、手元に残る額には月4万円以上の差が出る。差を生むのは社会保険料が免除されるかどうかと、住民税は止まらないという2点である。
この記事では、6制度を同じ人物・同じ月給で並べ、計算式・期間・要件・落とし穴を一つの地図にまとめる。
先に全体図:6制度の早見表
| 制度 | 対象になる場面 | 財源 | 支給額の基本式 | 最長期間 |
|---|---|---|---|---|
| 傷病手当金 | 業務外の病気・ケガで働けない | 健康保険 | 標準報酬日額 × 2/3 | 通算1年6ヶ月 |
| 出産手当金 | 産前産後休業 | 健康保険 | 標準報酬日額 × 2/3 | 産前42日+産後56日 |
| 育児休業給付金 | 原則子が1歳になるまでの育休 | 雇用保険 | 賃金日額 × 67%(181日目〜50%) | 最長2歳まで |
| 介護休業給付金 | 家族の介護のための休業 | 雇用保険 | 賃金日額 × 67% | 対象家族1人につき通算93日(3回まで) |
| 休業(補償)給付 | 業務上・通勤中の病気・ケガ | 労災保険 | 給付基礎日額 × 60%+特別支給金20% | 療養で働けない間 |
| 基本手当(失業手当) | 離職して求職中 | 雇用保険 | 賃金日額 × 50〜80%(60〜64歳は45〜80%) | 90〜330日 |
ここで押さえておきたいのは、財源が3つに分かれていることだ。健康保険(傷病・出産)、雇用保険(育休・介護・失業)、労災保険(業務上のケガ・病気)。国民健康保険に加入している自営業者・フリーランスには傷病手当金も出産手当金も原則なく、雇用保険にも入っていないため育休給付・失業手当もない。この「穴」は後半で扱う。
同じ人物で比べる:月給30万円・34歳の会社員の場合
比較のために、次の人物を置く。
- 34歳・正社員・東京都内勤務、単身
- 月給30万円(各種手当込み、標準報酬月額も30万円)、賞与は年60万円で年収420万円
- 通常月の手取りは約23.4万円(30万円 − 社会保険料約4.4万円 − 所得税約6,000円 − 住民税約1.6万円)
各制度の日額・30日分の計算
傷病手当金・出産手当金(健康保険)
- 標準報酬日額 = 30万円 ÷ 30 = 10,000円
- 支給日額 = 10,000円 × 2/3 = 6,667円(1円未満四捨五入)
- 30日分 = 6,667円 × 30 = 200,010円
育児休業給付金・介護休業給付金(雇用保険)
- 休業開始時賃金日額 = 直前6ヶ月の賃金180万円 ÷ 180 = 10,000円
- 30日分 = 10,000円 × 30 × 67% = 201,000円
- 育休の181日目以降は50%で 150,000円
労災の休業補償給付
- 給付基礎日額 = 直前3ヶ月の賃金90万円 ÷ 暦日数92日 = 9,783円(1円未満切上げ)
- 休業補償給付 5,869円(60%)+ 休業特別支給金 1,956円(20%)= 日額7,825円
- 30日分 = 234,750円
基本手当(失業手当)
- 賃金日額10,000円は、30〜44歳の給付率が80%から50%へ逓減する帯(2026年8月1日改定の境目は5,480円〜13,490円)に入る
- 給付率 = 80% −(10,000 − 5,480)÷(13,490 − 5,480)× 30% ≒ 63.1%
- 基本手当日額 = 6,307円(上限8,270円の範囲内)
- 30日分 = 189,210円
手元に残る額は「免除」と「住民税」で決まる
6つの給付はすべて非課税で、所得税はかからない。ただし、住民税は前年の所得にかかる税なので、休業中も毎月約1.6万円の負担は続く。さらに社会保険料の扱いが制度ごとに違う。
| 制度(30日分) | 給付額 | 社会保険料 | 住民税 | 手元に残る額 | 通常月の手取り比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 通常の給与 | 300,000円 | −43,950円 | −16,000円 | 約234,000円(所得税控除後) | 100% |
| 育休+出生後休業支援給付金※ | 240,000円 | 免除 | −16,000円 | 224,000円 | 約96% |
| 育児休業給付金(67%) | 201,000円 | 免除 | −16,000円 | 185,000円 | 約79% |
| 出産手当金 | 200,010円 | 免除 | −16,000円 | 184,010円 | 約79% |
| 労災の休業補償給付 | 234,750円 | −42,450円 | −16,000円 | 176,300円 | 約75% |
| 介護休業給付金 | 201,000円 | −42,450円 | −16,000円 | 142,550円 | 約61% |
| 傷病手当金 | 200,010円 | −42,450円 | −16,000円 | 141,560円 | 約60% |
| 基本手当(失業手当) | 189,210円 | 国保約2.7万円+国民年金17,920円 | −16,000円 | 約128,000円 | 約55% |
※出生後休業支援給付金の上乗せは最大28日分のため、30日換算の参考値。休業中の社会保険料は健康保険約1.5万円+厚生年金27,450円。給与の支払いがない月は雇用保険料はかからない。失業中の国民健康保険料は東京23区・軽減なしの概算で、自治体と離職理由で大きく変わる。
育休と産休が強いのは、産前産後休業・育児休業の期間は健康保険・厚生年金の保険料が本人・会社とも免除されるからだ。しかも免除期間は年金額の計算上「保険料を納めた期間」として扱われる。一方、傷病手当金と介護休業給付金の期間には免除制度がなく、会社が立て替えた本人負担分を後から請求されるケースも多い。数字の上では同じ「3分の2」でも、ここで月4万円以上の差になる。
制度ごとの要点と落とし穴
① 傷病手当金:3日待って4日目から、通算1年6ヶ月
連続3日間の「待期」を含めて4日以上休んだとき、4日目から支給される。待期の3日間は有給休暇を充ててもよい。2022年1月の改正で、支給期間は「支給開始から1年6ヶ月」ではなく「支給日数の通算で1年6ヶ月」になり、復職と再休職を繰り返しても期間を使い切りにくくなった。うつ病など精神疾患による休職も対象で、休職全体の家計を組み立てた例はメンタル不調で休職した39歳のケーススタディにまとめている。制度の詳細は傷病手当金の仕組み解説を参照。
入院を伴う場合は医療費も同時に出ていくが、こちらは高額療養費制度で月の自己負担に上限がある。収入側(傷病手当金)と支出側(高額療養費)をセットで見ると、民間の医療保険にどこまで頼るべきかの判断がしやすい。支出側の上限は高額療養費シミュレーターで確認できる。
② 出産手当金:産前42日+産後56日、出産が遅れた日数も対象
出産予定日より遅れて生まれた場合、遅れた日数分も産前期間として支給される。たとえば予定日より5日遅れれば、42+5+56=103日分になる。月給30万円なら6,667円 × 98日 = 653,366円が基本で、5日遅れなら33,335円上乗せされる。自分の金額は出産手当金シミュレーターで計算できる。
③ 育児休業給付金:最初の180日は67%、2025年4月から「手取り10割」期間も
2025年4月に出生後休業支援給付金が始まった。子の出生後8週間以内(父)や産後休業後8週間以内(母)に、両親がそれぞれ14日以上の育休を取ると、最大28日間、67%に13%が上乗せされて80%になる。社会保険料免除・非課税と合わせると、手取りベースでほぼ10割相当になる。表で育休+上乗せが96%なのはこのためだ。
上限にも注意したい。休業開始時賃金日額の上限は2026年8月1日に16,540円へ改定され、67%期間の支給上限は月332,454円、50%期間は月248,100円になった。月給がおおむね50万円を超える人は、給付率どおりの金額にならない。復帰後の時短勤務(2歳未満の子)には、時短中の賃金の10%が出る育児時短就業給付金もある。
夫婦の育休の取り方で世帯の手取りがどう変わるかは育休中の世帯収入シミュレーター、本人の給付額だけを知りたいなら育児休業給付金シミュレーターが早い。
④ 介護休業給付金:93日は「介護をする期間」ではなく「体制をつくる期間」
対象家族1人につき通算93日、3回まで分割できる。93日は介護を担い続けるための期間ではなく、ケアマネジャーとの相談や施設・在宅サービスの手配など「体制づくり」の期間として設計されている。社会保険料の免除がないため、手元に残る割合は傷病手当金と同じく約6割だ。介護休業の取り方による生涯収入への影響は介護休業シミュレーターで試算できる。
⑤ 労災の休業補償給付:最初の3日は会社が払う
業務中や通勤中のケガ・病気なら、健康保険ではなく労災保険の対象になる。待期の3日間は(業務災害の場合)事業主が平均賃金の60%以上を補償する義務を負い、4日目から労災保険の給付が始まる。60%+特別支給金20%で合計80%と、6制度の中で額面の率は最も高い。通勤中の事故を健康保険で処理すると、給付率が下がるうえ医療費の3割負担も発生する。まず会社に労災として扱えるかを確認したい。休業日数ごとの給付額は労災保険の給付シミュレーターで確認できる。
⑥ 基本手当(失業手当):自己都合は2025年4月から給付制限が1ヶ月に
離職理由によって給付日数が大きく違う。被保険者期間10年以上20年未満の場合、自己都合退職は一律120日、会社都合(特定受給資格者)の35〜44歳は240日だ。自己都合の給付制限は2025年4月から原則1ヶ月に短縮され、離職前後に教育訓練を受けていれば制限自体がなくなる。それでも待期7日+給付制限1ヶ月+認定日の流れで、最初の振込は離職から2ヶ月前後になる。
自分の日額と総額は失業手当シミュレーター、受給期間中に生活費がどれだけ持つかは失業中の生活費シミュレーターで確認できる。
併用できる組み合わせ・できない組み合わせ
Q&A形式で、よく混乱するポイントを整理する。
Q. 傷病手当金と出産手当金は両方もらえる?
同じ期間なら出産手当金が優先される。傷病手当金の額のほうが多い場合だけ、差額が支給される。
Q. 退職後も傷病手当金はもらえる?
退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に傷病手当金を受けている(または受けられる状態にある)なら、退職後も残りの期間を受け取れる。退職日に出勤すると要件を満たさなくなるので注意が必要だ。
Q. 病気で退職したら、傷病手当金と失業手当は同時にもらえる?
もらえない。失業手当は「働ける状態」であることが前提だからだ。療養中はハローワークで受給期間の延長(最長で本来の1年+3年)を申請しておき、回復してから失業手当を受け取る順番になる。
Q. 育休中に会社を辞めたらどうなる?
退職日を含む支給単位期間以降、育児休業給付金は支給されない。その後の失業手当は、育休で賃金が出なかった期間があると、受給要件を判定する期間(原則は離職前2年)がその分延長される特例がある。ただし子育てで「すぐ働ける状態」にないと受給できないため、受給期間の延長申請も含めてハローワークで確認したい。
自営業・フリーランスの「穴」と、2026年10月の新制度
国民健康保険・国民年金の人には、6制度のうち労災(特別加入した場合)以外は基本的にない。働けなくなったときの備えは、民間の就業不能保険と生活防衛資金が中心になる。
その中で、2026年10月1日から国民年金第1号被保険者の育児期間中の保険料免除が始まった(子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律、2024年6月成立)。1歳未満の子を養育する父母の国民年金保険料(2026年度は月17,920円)が免除され、免除期間も年金額に満額反映される。所得制限も休業要件もない。父親は最大12ヶ月、母親は従来からある産前産後免除(原則4ヶ月)に続く9ヶ月が対象だ。父親が12ヶ月使えば17,920円 × 12 = 約21.5万円の負担がなくなる。申請はマイナポータルからもできる。
今日できる次のアクション
給付はほとんどが「申請しないと出ない」。元気なうちに次の5つを確認しておくと、休業初月に家計が詰まるリスクを下げられる。
- 自分の標準報酬月額を確認する:給与明細の健康保険料から逆算するか、ねんきんネットで見られる。傷病手当金・出産手当金の基準になる。
- 雇用保険の加入期間を確認する:失業手当の給付日数は「10年以上か未満か」で変わる。転職回数が多い人は通算できるかを確認する。
- 最初の振込までの「谷」を埋める現金を用意する:育休給付も失業手当も初回は1〜2ヶ月以上後。手取り2ヶ月分の普通預金が最低ライン。
- 住民税の支払い方法を確認する:休業中は給与天引きできず、会社への振込や普通徴収への切替えになる。年16〜20万円が別途必要になる。
- 会社独自の上乗せを就業規則で確認する:健康保険組合の付加給付(傷病手当金の上乗せ)や、介護・育休中の独自手当がある会社は少なくない。
ふだんの手取りがいくらかを正確に把握しておくと、上の表の「手取り比」を自分の数字に置き換えられる。手取り計算シミュレーターで年収を入れて、休業時の目安を一度出しておいてほしい。
※本記事の数値は2026年10月時点の制度に基づく。育休・介護休業・失業手当の上限額と下限額は毎年8月1日に改定される。出典:厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続」「雇用保険の基本手当日額の変更(令和8年8月1日)」、全国健康保険協会「傷病手当金」「出産手当金」、厚生労働省「休業(補償)等給付」、日本年金機構「国民年金第1号被保険者の育児期間の保険料免除」。